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第27話 未来へ
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鳥のさえずりが聞こえてくる。
もう朝なんだな。
起きようと思った僕であるが、レヴィウス様に腰を抱かれていて身動きが取れない。レヴィウス様はまだウトウトしておられるので、僕は可愛い寝顔を眺めた。レヴィウス様のまつ毛って綺麗に揃ってるな。国王陛下の凛々しさと、王妃様の優美なところを見事に受け継いでいる。
僕たちの赤ちゃんってどんな感じなんだろうと想像してしまう。
レヴィウス様にそっとキスをしようとした時、「しまった……」という声が聞こえた。
「おはようございます、レヴィウス様」
「アズリール、おはよう。俺の方が先に起きて、きみの寝顔を見るつもりだったんだが」
なんでも、愛が重い方が後から寝て、先に起きるものらしい。
「昨日は同時に寝てしまったし。失敗だ」
「僕の方がレヴィウス様のことを大好きですよ。だって、あなたのために聖獣になったぐらいですから」
「アズリールはふだん、おっとりしてるのになあ。ここぞという時の力には感心させられる」
「僕はただ夢中で……」
「一生をかけてきみに恩と愛を返すからな」
レヴィウス様は侍女を呼んで、身支度を始めた。
僕たちは洗顔や着替えを終えてさっぱりしたところで、ぎゅっと抱き合った。
おはようのキスを交わす。
「朝だから軽めにな」
そう言いながらも、レヴィウス様は僕の上顎のざらざらしたところを舐めた。僕は思わず甘えた声を漏らしてしまった。
「ああ、夜が待ち遠しい」
「……レヴィウス様ったら」
僕たちは食堂に向かった。
食堂には国王陛下、王妃様、そして第二王子のヘクター様が待っていた。
「国王陛下、王妃様。ヘクター様。おはようございます」
「アズリール、おはよう」
「……ふむ。一番最後に来るとは、昨晩だいぶレヴィウスの寵愛を受けたようだな。なんだか肌艶もいいし……」
「あなた。アズリールが困るようなことを言わないで」
昨日は宴があったので、食卓にのぼったのは軽くつまめる料理だった。僕は大食いなので、ぺろりと平らげてしまう。国王陛下がそんな僕をじっと見ている。
「あ、あの。すみません、僕はよく食べるので……」
「ふん。その頑丈そうな体ならば、ややをいくらでも産めるだろう」
「あなた。またアズリールを困らせて。アズリール。こんなおじさんの話など聞き流していいですからね」
「お、おじさんとはなんだ!」
国王陛下は王妃様に勝てないようである。僕が笑っていいのか迷っていると、レヴィウス様がカラカラと笑った。ヘクター様もつられて笑ったので、僕もくすくすと笑い声をこぼした。
「母上と父上が揃って食事をとるのは久しぶりですね」
「そうね、レヴィウス。いつ以来かしら」
「お父様たちの凍りついていた時間をアズリールさんが溶かしてくれたんですね」
ヘクター様のお言葉に僕は恐縮した。
「僕は……何もしてません」
「いてくれるだけでいいよ、アズリール」
「レヴィウス様……」
「ああ、二人の視線の濃密さと言ったら! 僕も結婚がしたくなりました」
「おまえは俺のように愛する人を危険にさらしたりするなよ、ヘクター」
食後のお茶を飲みながら、レヴィウス様たちが談笑している。僕はその一員になれたことを嬉しく思った。
◇◇◇
秋風に木の葉が舞う季節になった。
僕が隣国サンダスの国家元首ミローネ様への私信をしたためていると、レヴィウス様が部屋にやって来た。
「キリエ・フィレンカの処遇が決まった」
「……どうなったのですか!?」
「彼は法廷で、みずから一番重い刑を課してほしいと言ったらしい」
「では、キリエは……?」
「彼が起こしてしまったことは、彼だけに責任があるわけではない。この国のオメガへの偏見や過度な重圧が影響していると判断された」
キリエとその取り巻きは情状酌量の余地があるとされ、3年間救貧院での奉仕活動を行うことになったらしい。救貧院は孤児が集まる場所で、過酷な職場として知られている。
「……キリエに僕はなんて声をかけたらいいんだろう」
「彼からきみに手紙が届いている」
僕は封筒を受け取った。
便箋には流麗な字で、キリエからのメッセージが書かれていた。
『アズリールくん。きみの義務はレヴィウス様と幸せになること。俺の義務は反省をして、社会に奉仕すること。それだけの話だ。俺のことを過度に気にしないでくれる? 俺は大丈夫だから』
僕は封筒を抱きしめた。
「……キリエは誇り高い。僕は余計な言葉をかけず、遠くから見守るのがよさそうですね」
「そうだな。それがいいだろう」
レヴィウス様が僕の肩を抱いた。
「未来は万人に開かれている。奉仕活動を通して、キリエ・フィレンカも新しい自分を見つけることだろう」
「僕、応援してます!」
キリエからの手紙を引き出しにしまう。
僕は再び、机に向かった。
「ミローネ様への私信か」
「はい。サンダスの文化を学ぶサロンは順調だとお伝えするつもりです」
「きっと喜ぶだろうさ」
レヴィウス様は僕に口づけると、僕の部屋をあとにした。
今日のレヴィウス様は国王陛下と内務大臣が出席する会議で、新たな教育要綱を提案する予定である。緊張はされていないようだから大丈夫だろう。
キリエ。
僕は僕で頑張るよ。きみの未来がどうか明るいものでありますように。
僕はサンダス語でミローネ様へのメッセージを綴った。
もう朝なんだな。
起きようと思った僕であるが、レヴィウス様に腰を抱かれていて身動きが取れない。レヴィウス様はまだウトウトしておられるので、僕は可愛い寝顔を眺めた。レヴィウス様のまつ毛って綺麗に揃ってるな。国王陛下の凛々しさと、王妃様の優美なところを見事に受け継いでいる。
僕たちの赤ちゃんってどんな感じなんだろうと想像してしまう。
レヴィウス様にそっとキスをしようとした時、「しまった……」という声が聞こえた。
「おはようございます、レヴィウス様」
「アズリール、おはよう。俺の方が先に起きて、きみの寝顔を見るつもりだったんだが」
なんでも、愛が重い方が後から寝て、先に起きるものらしい。
「昨日は同時に寝てしまったし。失敗だ」
「僕の方がレヴィウス様のことを大好きですよ。だって、あなたのために聖獣になったぐらいですから」
「アズリールはふだん、おっとりしてるのになあ。ここぞという時の力には感心させられる」
「僕はただ夢中で……」
「一生をかけてきみに恩と愛を返すからな」
レヴィウス様は侍女を呼んで、身支度を始めた。
僕たちは洗顔や着替えを終えてさっぱりしたところで、ぎゅっと抱き合った。
おはようのキスを交わす。
「朝だから軽めにな」
そう言いながらも、レヴィウス様は僕の上顎のざらざらしたところを舐めた。僕は思わず甘えた声を漏らしてしまった。
「ああ、夜が待ち遠しい」
「……レヴィウス様ったら」
僕たちは食堂に向かった。
食堂には国王陛下、王妃様、そして第二王子のヘクター様が待っていた。
「国王陛下、王妃様。ヘクター様。おはようございます」
「アズリール、おはよう」
「……ふむ。一番最後に来るとは、昨晩だいぶレヴィウスの寵愛を受けたようだな。なんだか肌艶もいいし……」
「あなた。アズリールが困るようなことを言わないで」
昨日は宴があったので、食卓にのぼったのは軽くつまめる料理だった。僕は大食いなので、ぺろりと平らげてしまう。国王陛下がそんな僕をじっと見ている。
「あ、あの。すみません、僕はよく食べるので……」
「ふん。その頑丈そうな体ならば、ややをいくらでも産めるだろう」
「あなた。またアズリールを困らせて。アズリール。こんなおじさんの話など聞き流していいですからね」
「お、おじさんとはなんだ!」
国王陛下は王妃様に勝てないようである。僕が笑っていいのか迷っていると、レヴィウス様がカラカラと笑った。ヘクター様もつられて笑ったので、僕もくすくすと笑い声をこぼした。
「母上と父上が揃って食事をとるのは久しぶりですね」
「そうね、レヴィウス。いつ以来かしら」
「お父様たちの凍りついていた時間をアズリールさんが溶かしてくれたんですね」
ヘクター様のお言葉に僕は恐縮した。
「僕は……何もしてません」
「いてくれるだけでいいよ、アズリール」
「レヴィウス様……」
「ああ、二人の視線の濃密さと言ったら! 僕も結婚がしたくなりました」
「おまえは俺のように愛する人を危険にさらしたりするなよ、ヘクター」
食後のお茶を飲みながら、レヴィウス様たちが談笑している。僕はその一員になれたことを嬉しく思った。
◇◇◇
秋風に木の葉が舞う季節になった。
僕が隣国サンダスの国家元首ミローネ様への私信をしたためていると、レヴィウス様が部屋にやって来た。
「キリエ・フィレンカの処遇が決まった」
「……どうなったのですか!?」
「彼は法廷で、みずから一番重い刑を課してほしいと言ったらしい」
「では、キリエは……?」
「彼が起こしてしまったことは、彼だけに責任があるわけではない。この国のオメガへの偏見や過度な重圧が影響していると判断された」
キリエとその取り巻きは情状酌量の余地があるとされ、3年間救貧院での奉仕活動を行うことになったらしい。救貧院は孤児が集まる場所で、過酷な職場として知られている。
「……キリエに僕はなんて声をかけたらいいんだろう」
「彼からきみに手紙が届いている」
僕は封筒を受け取った。
便箋には流麗な字で、キリエからのメッセージが書かれていた。
『アズリールくん。きみの義務はレヴィウス様と幸せになること。俺の義務は反省をして、社会に奉仕すること。それだけの話だ。俺のことを過度に気にしないでくれる? 俺は大丈夫だから』
僕は封筒を抱きしめた。
「……キリエは誇り高い。僕は余計な言葉をかけず、遠くから見守るのがよさそうですね」
「そうだな。それがいいだろう」
レヴィウス様が僕の肩を抱いた。
「未来は万人に開かれている。奉仕活動を通して、キリエ・フィレンカも新しい自分を見つけることだろう」
「僕、応援してます!」
キリエからの手紙を引き出しにしまう。
僕は再び、机に向かった。
「ミローネ様への私信か」
「はい。サンダスの文化を学ぶサロンは順調だとお伝えするつもりです」
「きっと喜ぶだろうさ」
レヴィウス様は僕に口づけると、僕の部屋をあとにした。
今日のレヴィウス様は国王陛下と内務大臣が出席する会議で、新たな教育要綱を提案する予定である。緊張はされていないようだから大丈夫だろう。
キリエ。
僕は僕で頑張るよ。きみの未来がどうか明るいものでありますように。
僕はサンダス語でミローネ様へのメッセージを綴った。
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