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14. 御前試合
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すり鉢の形をした闘技場が、御前試合の会場だった。
各地から集まった貴族やその騎士団によって眺めのいい席が埋め尽くされている。平民は隅っこの席に集められていた。
俺たち冒険者ギルドの面々は、前方の席に座るよう指示された。
「そこで目の当たりにするがいい。貴様らの大将ジェラルドが、カイトゥス様に倒される姿をな」
神聖騎士団の騎士が、俺に手を伸ばしてきた。手首を掴まれる。
「何をする!」
「カイトゥス様は褒賞として貴様をお望みだ」
「アリーズさんを離して!」
「獣人は黙っていろ」
リスティが突き飛ばされないように、俺はあいだに割って入った。騎士は舌打ちをすると、俺に金属製の手錠をかけた。
手を後ろに回されなかっただけマシか。ここは大人しく従って、反撃の機会を待つとしよう。
「俺はどこに座ればいい?」
「こちらだ」
連れて行かれたのは、一番眺めのいい貴賓席だった。顔の上半分を仮面で隠したうえに白いフードを被った男がニタリと笑う。
「ようこそ。魔女メイリーンと血の系譜を同じくするハディク人よ」
「ヌル……。いや、大司教。あんたの隣にいるのが国王か?」
「不敬ですぞ。陛下とお呼びしなさい」
国王は40代半ばと思われる、痩せた男だった。日頃からだいぶ不摂生をしているらしい。目玉ばかりがギョロギョロとしていて、血色が悪い。
「ハディク人……。時空の鍵……。唯一神ヴェリテアードの降臨……」
俺をチラリと見ると、国王はぶつぶつと独り言をつぶやいた。不気味なことこの上ない。こんな男が国家元首だなんて、レイゲン王国はそれでいいのか?
大司教が国王に小さな盃を渡す。ぷんと薬草の匂いがした。
「陛下、いつものお薬ですよ」
「世界の審判、断罪、勇者への転生……」
「今日でジェラルドは終わりです。陛下を苦しめる者はすべて消え去ります」
国王の隣には、王妃らしき女性が心配そうな表情で座っていた。震える王妃の肩に触れた青年は、第一王子ミハエル様だった。素顔のミハエル様は聡明そうな瞳の持ち主だった。すべての王族が正気を失っているわけではない。
希望はまだ残っている。
「これより、御前試合を開催する」
ラッパが鳴り、闘技場にジェラルドと聖騎士カイトゥスが現れた。ふたりが剣を鞘から引き抜く。
ジェラルドの表情は落ち着いていた。一方のカイトゥスは心なしか高揚しているように見える。
審判が朗々と宣言した。
「始めよ!」
先に踏み込んだのはジェラルドだった。カイトゥスの青白く輝く鎧の上腕部に斬りかかる。ジェラルドの攻撃が当たり、カイトゥスが剣を取りこぼす。勝負あったかと思われた刹那、空に鉛色の雲が立ち込めた。
あたりを黒い霧が覆う。
「アンデッドの瘴気がこんなところに……!?」
俺が驚きの声を漏らすと、大司教がふふふっと笑った。
「とくとご覧なさい! ジェラルドの最期を!」
カイトゥスを守るように、無数のアンデッドが出現した。剣、戦斧、槍、弓。構えている武器は違うけれども、アンデッドたちはみな一様にジェラルドを狙っていた。
でもジェラルドにはスキル<残像生成>がある。
剣を振りかざしながら、ジェラルドが残像を作った。どれがジェラルドの本体か分からないため、アンデッドたちの動きが散漫になる。
闘技場にジェラルドの声が響いた。
「遠雷のエニス。鉄火のシーゼル。思い出せ。きみたちは誇り高き冒険者だろう? ヴェリテアード教団の操り人形になるために死に戻ったわけじゃない」
呼びかけられたアンデッドが半透明になっていく。彼らは自分がいるべき場所を悟ったのだろう。天に昇っていった。転生の門が開いたらしい。
ジェラルドはその後も、アンデッドに名前を呼びかけていった。
リスティの歓声が聞こえた。
「なるほど! ジェラルド様が台帳を読み込んでいたのはそういうわけだったんですね」
「おい、あの魔法使い、ティナじゃないか?」
「ティナー! 疾風のティナ! おまえはよく戦ったよ。だからもう、苦しまなくていい!」
冒険者ギルドのみんなが、アンデッドと化した仲間の名前を呼んでいく。カイトゥスを取り囲んでいた人垣はもはや崩壊していた。
しかし、カイトゥス自身は余裕の表情である。
「こうなることは予想していましたよ」
「カイトゥス様……! これ以上、俺の仲間を愚弄するのは許さない!」
「あなたにはこの男が斬れますか?」
カイトゥスとジェラルドのあいだに割って入ったのは、長剣を構えた黒髪のソードマスターだった。
「レイン!」
女性の悲痛な声が響いた。
各地から集まった貴族やその騎士団によって眺めのいい席が埋め尽くされている。平民は隅っこの席に集められていた。
俺たち冒険者ギルドの面々は、前方の席に座るよう指示された。
「そこで目の当たりにするがいい。貴様らの大将ジェラルドが、カイトゥス様に倒される姿をな」
神聖騎士団の騎士が、俺に手を伸ばしてきた。手首を掴まれる。
「何をする!」
「カイトゥス様は褒賞として貴様をお望みだ」
「アリーズさんを離して!」
「獣人は黙っていろ」
リスティが突き飛ばされないように、俺はあいだに割って入った。騎士は舌打ちをすると、俺に金属製の手錠をかけた。
手を後ろに回されなかっただけマシか。ここは大人しく従って、反撃の機会を待つとしよう。
「俺はどこに座ればいい?」
「こちらだ」
連れて行かれたのは、一番眺めのいい貴賓席だった。顔の上半分を仮面で隠したうえに白いフードを被った男がニタリと笑う。
「ようこそ。魔女メイリーンと血の系譜を同じくするハディク人よ」
「ヌル……。いや、大司教。あんたの隣にいるのが国王か?」
「不敬ですぞ。陛下とお呼びしなさい」
国王は40代半ばと思われる、痩せた男だった。日頃からだいぶ不摂生をしているらしい。目玉ばかりがギョロギョロとしていて、血色が悪い。
「ハディク人……。時空の鍵……。唯一神ヴェリテアードの降臨……」
俺をチラリと見ると、国王はぶつぶつと独り言をつぶやいた。不気味なことこの上ない。こんな男が国家元首だなんて、レイゲン王国はそれでいいのか?
大司教が国王に小さな盃を渡す。ぷんと薬草の匂いがした。
「陛下、いつものお薬ですよ」
「世界の審判、断罪、勇者への転生……」
「今日でジェラルドは終わりです。陛下を苦しめる者はすべて消え去ります」
国王の隣には、王妃らしき女性が心配そうな表情で座っていた。震える王妃の肩に触れた青年は、第一王子ミハエル様だった。素顔のミハエル様は聡明そうな瞳の持ち主だった。すべての王族が正気を失っているわけではない。
希望はまだ残っている。
「これより、御前試合を開催する」
ラッパが鳴り、闘技場にジェラルドと聖騎士カイトゥスが現れた。ふたりが剣を鞘から引き抜く。
ジェラルドの表情は落ち着いていた。一方のカイトゥスは心なしか高揚しているように見える。
審判が朗々と宣言した。
「始めよ!」
先に踏み込んだのはジェラルドだった。カイトゥスの青白く輝く鎧の上腕部に斬りかかる。ジェラルドの攻撃が当たり、カイトゥスが剣を取りこぼす。勝負あったかと思われた刹那、空に鉛色の雲が立ち込めた。
あたりを黒い霧が覆う。
「アンデッドの瘴気がこんなところに……!?」
俺が驚きの声を漏らすと、大司教がふふふっと笑った。
「とくとご覧なさい! ジェラルドの最期を!」
カイトゥスを守るように、無数のアンデッドが出現した。剣、戦斧、槍、弓。構えている武器は違うけれども、アンデッドたちはみな一様にジェラルドを狙っていた。
でもジェラルドにはスキル<残像生成>がある。
剣を振りかざしながら、ジェラルドが残像を作った。どれがジェラルドの本体か分からないため、アンデッドたちの動きが散漫になる。
闘技場にジェラルドの声が響いた。
「遠雷のエニス。鉄火のシーゼル。思い出せ。きみたちは誇り高き冒険者だろう? ヴェリテアード教団の操り人形になるために死に戻ったわけじゃない」
呼びかけられたアンデッドが半透明になっていく。彼らは自分がいるべき場所を悟ったのだろう。天に昇っていった。転生の門が開いたらしい。
ジェラルドはその後も、アンデッドに名前を呼びかけていった。
リスティの歓声が聞こえた。
「なるほど! ジェラルド様が台帳を読み込んでいたのはそういうわけだったんですね」
「おい、あの魔法使い、ティナじゃないか?」
「ティナー! 疾風のティナ! おまえはよく戦ったよ。だからもう、苦しまなくていい!」
冒険者ギルドのみんなが、アンデッドと化した仲間の名前を呼んでいく。カイトゥスを取り囲んでいた人垣はもはや崩壊していた。
しかし、カイトゥス自身は余裕の表情である。
「こうなることは予想していましたよ」
「カイトゥス様……! これ以上、俺の仲間を愚弄するのは許さない!」
「あなたにはこの男が斬れますか?」
カイトゥスとジェラルドのあいだに割って入ったのは、長剣を構えた黒髪のソードマスターだった。
「レイン!」
女性の悲痛な声が響いた。
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