【完結】イケメンのギルド長に、ハニートラップを仕掛けてみた

古井重箱

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11. 俺の生きる道

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 雪がちらついている。
 寒いとか、重たいといった文句の一つも口にせず、ジェラルドは俺を背負って歩き続けた。
 やがて、宿屋の二階に着いた。
 ジェラルドが俺をベッドに寝かせる。
 俺は自分に呪いをかけた。魔女メイリーンの魂よ、ハディク人である俺に力を授けてくれ。この男を誘惑したい。
 俺はジェラルドの首に腕を巻きつけた。

「あんた……ずっと俺を見てたよね? すごく物欲しそうな目で」
「アリーズ、俺は」
「言い訳なんてするな。俺のことを好きなだけ食い散らかせばいい」
 
 服をすべて脱ぎ捨てる。
 ジェラルドの視線が俺の裸を舐め回した。低い気温に反応して、俺の胸の突起がツンと尖る。薄桃色をしたそこが隠れるように、ジェラルドが服を覆い被せてきた。

「そんな真似はやめろ!」
「街の噂で、あんたは酒よりも甘いものが好きだって聞いたけど、女より男が好きっていう意味だったのかな」
「俺は……確かにきみに惹かれている。どこか寂しそうな瞳を慰めたいと思っている。でも、こういう行為は求めていない!」
「嘘つき」

 俺はジェラルドをベッドに引っ張り込むと、太ももを撫でた。唇を合わせて、舌と舌を絡める。俺が下腹部を撫でさするたびに、ジェラルドが苦しそうに眉根を寄せた。

「我慢強いんだな。それとも、手じゃ満足できないのか?」
「アリーズ……! もうよせ」
「あんたとは、違う形で会いたかった」

 ジェラルドの左胸に両手を当てて、スキルファイアを奪いにかかる。こめかみに汗が浮かんできた。しかし、どれだけ意識を集中させてもスキルファイアを盗み取ることができない。
 俺は荒い息を吐いた。異能を発動させたため、体が鉛の板を貼り付けられたように重くなる。俺は渾身の力でジェラルドの左胸を押した。

「どういうことだ!?」
「内臓逆位。俺の心臓は右側にある」
「えっ……?」
「きみの異能は、相手の心臓の近くに触れないと発動しない。すべて分かっていたよ」

 ジェラルドが俺の両方の手首を掴んだ。俺はベッドの上にはりつけにされた。

「どうしてだ! 俺はスキルファイアのことなんて、ひと言も……」
「シーニュに来た初日、露天商のガインを懲らしめただろう? 俺はあの日、路地裏の巡回に出ていた。だから、ガインからきみの情報を聞いた」
「全部分かっていたうえで、俺をそばに置いたのか?」
「アリーズ。きみはもう苦しまなくていい。正式に俺たちの仲間になってほしい」

 屋内にいるのに雨が降っている。おかしいなと思ったら、それは自分が流した涙だった。

「俺はあんたを騙してたのに!」
「こっちだって、きみに騙されたフリをしていた。きみが葛藤しているのを知っておきながら、ずっと黙っていた。おあいこだ」
「ヌルの……依頼主の言うとおりにしなければ、冒険者ギルドのみんなが危ないんだよ! さっき、そんな幻覚を見せられた。相手は王家とヴェリテアード教団だぞ?」
「姑息な幻覚なんかじゃなく、俺と俺の仲間達を信じろ、アリーズ」
「ジェラルド……!」

 俺は裸のまま、ジェラルドに抱きついた。頼んでもいないのに涙が止まらない。素っ裸で泣き叫んでいるだなんて、まるで二度目の産声を上げているかのようだ。

「俺は……永住権と家に釣られて、あんたを陥れることを選んだ」
「ハディク人のきみにとって一番欲しいものをちらつかせたんだな。大司教め」
「ヌルの正体って、大司教なのか?」
『大当たりです』

 ヌル、いや大司教の声が部屋に響いた。ジェラルドが琥珀色の目を見張る。彼にもこの声は聞こえているらしい。
 
『使えないハディク人だ。メイリーンを見習って、ジェラルドをたらし込むことすらできなかったとは。そんなに魅惑的なカラダをしているというのに』

 ジェラルドが虚空に向かって落ち着いた声を投げかけた。

「大司教。そんなに俺が怖いですか?」
『ああ。市井のカリスマほど、王政にとって目障りなものはない』
「カイトゥス様はお強い。正々堂々と御前試合を行えばいいのでは?」
『ふふっ。そうですね。彼らには頑張ってもらいましょう』
「彼ら……?」
『詳細は当日のお楽しみです』

 大司教が高笑いをした。俺は耳を塞いだ。

「うるさい……! このままこいつの声を聞いていたら、頭がおかしくなりそうだ」
「アリーズ。何か幻覚の触媒になるようなものを持たされてはいないか?」
「もしかしたら……」

 俺は報酬として受け取った革袋を取り出した。
 
「この中に入ってる金貨が触媒になっていたようだ。使ってもいないのに、だいぶ中身が減っている」
『ようやく仕組みが分かりましたか。それでは最後の通告です。ジェラルドよ、冒険者をお辞めなさい。そして、シーニュの自由都市化に関する一切の運動から手を引くのです』
「断る」
『愚かな男だ。墓を用意しておきますよ。御前試合があなたの命日です』
「あいにく、ヴェリテアード教は信じていない」
『ふん。異教徒が』

 革袋がしぼんだ。もう大司教が幻覚やら音声やらを飛ばして来ることはなさそうだ。
 俺は着衣の乱れを直した。

「……あんたには情けないところを見られてしまったな」
「アリーズ。すべてが終わったらきみに伝えたいことがある」
「なんだよ。今言えばよくないか?」
「俺は臆病だから無理だ。自分が勇敢だっていうことを証明できたら、きみに全部を打ち明けるよ」
「なんでもいいけど、死ぬなよ?」
「任せておけ」

 ジェラルドは俺の肩に手を置いた。この命のぬくもりと、ジェラルドが抱いている志を守ろう。それが俺の生きる道だ。
 俺はジェラルドの手を、ぎゅっと握った。
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