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08. 愛のきざし?
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まぶたを開けると、シミ一つない天井が見えた。僕は寝室のベッドに横たわっていた。体を起こすと、周囲からざわめきが起きた。
「アルディ様、意識が戻られたのですね!」
ベッドサイドにいたメイドが僕に水を勧めてきた。僕はよく冷えたそれを口に含んだ。体の末端まで覚醒していく感じがする。
窓から射し込んだ夕日が、部屋を茜色に染めている。僕はどれぐらいのあいだ寝込んでいたのだろうか。
サイドテーブルには黄色い花が飾られていた。誰かが用意してくれたらしい。小ぶりな花びらがとても可愛らしい。初めて見る品種なのに、懐かしい気持ちになる。
「アルディ……。無事だったのか!」
ガイウォルト様が寝室に入ってきた。花のかんばせには疲労が色濃く滲んでいる。きっと僕が心配をかけたせいだ。
「ごめんなさい」
頭を下げようとする。ガイウォルト様は「謝るのは俺の方だ」と言って、僕の動きを制した。
紫色の瞳が僕をじっと見つめている。
「無理をさせてしまったな」
「いえ、僕が悪いんです。未来の感情を核にして時水晶を生成するのは禁忌なのに、それを破ったから」
「俺を助けようとしてくれたんだろう?」
ガイウォルト様が拳を握りしめる。
「もっと俺に力があれば、万食獣を駆逐できるのに」
「あの後も万食獣が出没したのですか?」
「ああ、二体ほどな」
万食獣は古代遺跡の守り手である。レイゼン公爵領には多数の古代遺跡が存在するらしい。盗掘を完全に防ぐのは難しいだろう。
「何か手立てがあればいいのですが」
「きみは休養に専念してくれ」
「そうですね。こんなフラフラの体じゃ、足手まといになるだけだ」
僕が微笑むと、ガイウォルト様が視線をそらした。ふたりが恋仲だったら見つめ合って手をつないだりするんだろうな。頭では分かってはいても、自分が旦那様に愛されていないという事実が辛い。
「食事はとれそうか?」
「はい」
「それならばよかった」
ガイウォルト様の表情が和らいだ。
僕はサイドテーブルに飾られた花を指差した。
「綺麗ですね。どなたが摘んできてくれたのでしょう」
「それは……おそらくメイド長ではないか?」
「なんていう花ですか? 僕のふるさと、エマーシス公爵領では見かけませんでした」
「レネルという。レイゼン公爵領で広く愛されている花だよ」
「花言葉は?」
「……『心からの愛』だ、確か」
ガイウォルト様がそわそわしている。次のご予定があるのかもしれない。
「僕はもう大丈夫ですから」
「しっかりと休んでくれ」
くるりと僕に背を向けると、ガイウォルト様は寝室から去っていった。
僕はレネルの花を眺めた。
心からの愛か。ガイウォルト様は万食獣を掃討するために心血を注いでいる。あの方からの愛情が欲しいだなんてわがままを言えるわけがない。僕は時水晶をこしらえて、戦いを支えることにしよう。
メイド長が食事を運んでくれた。
「レネルの花を飾ってくれて、ありがとう」
「恐れ入りますが、お花をご用意したのは私ではございません。あなたたちも違うわよね?」
呼びかけられたメイドたちが全員、「はい」と返事をする。
「そうなの? それじゃ、一体誰が……?」
「そのお花はガイウォルト様がご用意されました。ベッドの上でずっと過ごしているのは退屈だろうから、野の花を眺めて心を慰めてほしいと仰せでした」
あのガイウォルト様が僕のために? 信じられない。僕たちは恋仲ではないのに。
これって、期待してもいいのかな。
よーし、元気を取り戻さないと。僕は出された食事を平らげた。
「アルディ様、意識が戻られたのですね!」
ベッドサイドにいたメイドが僕に水を勧めてきた。僕はよく冷えたそれを口に含んだ。体の末端まで覚醒していく感じがする。
窓から射し込んだ夕日が、部屋を茜色に染めている。僕はどれぐらいのあいだ寝込んでいたのだろうか。
サイドテーブルには黄色い花が飾られていた。誰かが用意してくれたらしい。小ぶりな花びらがとても可愛らしい。初めて見る品種なのに、懐かしい気持ちになる。
「アルディ……。無事だったのか!」
ガイウォルト様が寝室に入ってきた。花のかんばせには疲労が色濃く滲んでいる。きっと僕が心配をかけたせいだ。
「ごめんなさい」
頭を下げようとする。ガイウォルト様は「謝るのは俺の方だ」と言って、僕の動きを制した。
紫色の瞳が僕をじっと見つめている。
「無理をさせてしまったな」
「いえ、僕が悪いんです。未来の感情を核にして時水晶を生成するのは禁忌なのに、それを破ったから」
「俺を助けようとしてくれたんだろう?」
ガイウォルト様が拳を握りしめる。
「もっと俺に力があれば、万食獣を駆逐できるのに」
「あの後も万食獣が出没したのですか?」
「ああ、二体ほどな」
万食獣は古代遺跡の守り手である。レイゼン公爵領には多数の古代遺跡が存在するらしい。盗掘を完全に防ぐのは難しいだろう。
「何か手立てがあればいいのですが」
「きみは休養に専念してくれ」
「そうですね。こんなフラフラの体じゃ、足手まといになるだけだ」
僕が微笑むと、ガイウォルト様が視線をそらした。ふたりが恋仲だったら見つめ合って手をつないだりするんだろうな。頭では分かってはいても、自分が旦那様に愛されていないという事実が辛い。
「食事はとれそうか?」
「はい」
「それならばよかった」
ガイウォルト様の表情が和らいだ。
僕はサイドテーブルに飾られた花を指差した。
「綺麗ですね。どなたが摘んできてくれたのでしょう」
「それは……おそらくメイド長ではないか?」
「なんていう花ですか? 僕のふるさと、エマーシス公爵領では見かけませんでした」
「レネルという。レイゼン公爵領で広く愛されている花だよ」
「花言葉は?」
「……『心からの愛』だ、確か」
ガイウォルト様がそわそわしている。次のご予定があるのかもしれない。
「僕はもう大丈夫ですから」
「しっかりと休んでくれ」
くるりと僕に背を向けると、ガイウォルト様は寝室から去っていった。
僕はレネルの花を眺めた。
心からの愛か。ガイウォルト様は万食獣を掃討するために心血を注いでいる。あの方からの愛情が欲しいだなんてわがままを言えるわけがない。僕は時水晶をこしらえて、戦いを支えることにしよう。
メイド長が食事を運んでくれた。
「レネルの花を飾ってくれて、ありがとう」
「恐れ入りますが、お花をご用意したのは私ではございません。あなたたちも違うわよね?」
呼びかけられたメイドたちが全員、「はい」と返事をする。
「そうなの? それじゃ、一体誰が……?」
「そのお花はガイウォルト様がご用意されました。ベッドの上でずっと過ごしているのは退屈だろうから、野の花を眺めて心を慰めてほしいと仰せでした」
あのガイウォルト様が僕のために? 信じられない。僕たちは恋仲ではないのに。
これって、期待してもいいのかな。
よーし、元気を取り戻さないと。僕は出された食事を平らげた。
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