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第18話 結婚するしかない (リヒター視点)

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 海賊船を退けたあと、リヒターは忙しい日々を送っていた。
 砦に詰めて、捕虜からローゼス海賊団の情報を聞き出そうとしているのだが、なかなかうまくいかない。
 ティノに会えなくなってから、もう2週間が経つ。
 伝令係に頼んで、ティノが住む寮に手紙とプレゼントを届けているが、それでは足りない。生身のティノと対面し、彼の細い体を抱き締めたかった。
 季節は秋の終わりがけに差しかかっている。
 寒い夜には人肌が恋しくなった。

━━ティノ。きみの笑顔が見たい……。

 湯浴みを終えたあと、砦の内部にある小さな部屋で休んでいると、伝令がやって来た。

「ティノ・アザーニ様からお手紙です」
「ありがとう」
 
 伝令が立ち去ると、リヒターはすぐに手紙の封を切った。真っ白な便箋を広げる。

『リヒター、元気か? このあいだは手紙とプレゼントをありがとう。毎日のように手紙が届くから、寂しくないよ』

 ティノらしい健気な文章だった。
 口元を緩ませながら読み進めていったリヒターであるが、ある一文を目にして固まった。

『俺、あんたのお屋敷の担当を外れることになった』

━━何だって!?

『上司に伝えたんだ。あんたと恋仲になったって。これからは俺の後輩のトマが出入りすることになるから、よろしくな』

 リヒターはてっきり、恋仲になったあともティノと取引を続けられると思っていた。

『公私の区別はつけた方がいいって思ったからさ。あんたに相談もなく決めてごめんな。これから俺は、新しい営業ルートを探す。心配するな。海賊襲来の時に、うちの会社はポーションを配っただろう? あれが好評でさ。アルセーディア社と取引したいっていうお店や個人のお客さんが増えてるんだ』

 ティノの言葉は前向きだった。

『というわけで、俺はたんまりカネを稼ぐつもりです。あんたも忙しいだろうけど、食事と睡眠だけはちゃんととれよ。今度会う時は、元気な姿を見せてくれ。愛してる。ティノより』

 恥ずかしがり屋のティノが「愛してる」と書いてくれたことは嬉しいが、リヒターは寂しくてたまらなかった。ティノが屋敷を訪れる回数は今後、減ってしまうだろう。

━━結婚して一緒に暮らすしかないな。

 まだキスもしていないのに先走ったことを考えるリヒターであった。
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