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第12話 天翔ける騎士の誕生 (リヒター視点)

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 魔法石の力によって、リヒターの目の前には港の様子が映し出されていた。
 ここはゲルトシュタットの港エリアにある黄金騎士団の砦。
 リヒターは指揮官室に詰めていた。
 部下から上がってきた報告によると、市中に多くの海賊が紛れ込んでいるという。

━━ティノ、どうか無事でいてくれ……!

 砲撃の音が轟く。
 しかし、海賊船は俊敏な動きで大砲をかわした。
 今のところ、海賊船からの反撃はない。砦を落とせるほどの大砲は備えていないようだ。
 場に居合わせた部下たちが、苛立ちの声を上げた。

「おのれ、海賊船め。ちょこまかと逃げおって」
「こんな機動力を備えた船、見たことがありません」
「くそっ。船だけでも駆逐できれば……!」

 ゲルトシュタットの港には武装商船も停泊しているが、防戦に徹しているようだ。民間人に街を守る義務はない。リヒターたち騎士が海賊を片付ける必要がある。
 早く手を打たねば。このままでは夜になってしまう。

「出陣する。副団長よ、今後の指揮を任せた」
「承知致しました」

 リヒターは席を立った。
 指揮官室を出ようとすると、部下のハンスに制止された。

「待ってください、団長! 例の兵器を試すおつもりですか?」
「ああ。座していても、戦局を打開することはできないからな」
「考え直してくださいよ。新兵器はまだ試作品ということじゃないですか。危険ですってば」
「誰かが試さねば、技術の進化はない」
「まったく。前線大好き人間なんだから」

 リヒターは廊下を駆け出した。
 途中、救護室に立ち寄る。
 リヒターの登場に気づいた負傷者たちが、寝台から体を起こそうとした。

「よせ、傷に障る。楽な体勢でいてくれ」
「団長。俺たちまだ戦えます」
「治癒の魔法石が残り少なくなっている。これ以上、おまえたちに無理はさせられない」
「ですが、黄金騎士団の一員として海賊を見過ごすわけには……」
「おまえたちは充分に戦ってくれた。外敵との戦いはこれからも続く。次の戦いに備えて、今は養生してくれ」
「……承知致しました」

 救護室をあとにしたリヒターは、砦の屋上に向かった。
 太陽が沈みかけている。
 残された時間はあとわずか。海賊を一掃するためには新兵器の力が必要である。

「リヒター様。新兵器を試されるのですね」

 屋上では、王立研究所に所属する魔法使いたちが待っていた。
 ポーション依存症の魔法使い、レティの姿もあった。
 広場での騒動のあと、休息を取るようになったらしい。以前よりも顔色がいい。
 レティは、リヒターの前に新型の魔法石を差し出した。

「……こちらをどうぞ」
「ありがとう」

 円錐形の魔法石は淡い金色の光を放っている。

「ほう。美しいものだな」
「まだ試作品です。稼働時間はおそらく、1回の召喚につき10分程度……」
「充分だ。幻術の魔法石も貰えるか?」
「はい。こちらは性能に問題はございません。リヒター様が望めば、竜の幻影を召喚することも可能です」
「では、行って来る」
「ご武運を……」

 リヒターは魔法石を中空に放った。

「出でよ、ヴェルトゥール!」

 金色の光が濃くなっていく。
 虚空に現れたのは一頭の馬だった。神話に出てくる天馬のように、背中から翼が生えている。
 リヒターはヴェルトゥールに跨った。
 魔法方程式によって構築された馬は、リヒターを試すように荒々しく地面を蹴り出した。
 リヒターの体が宙に浮き上がる。
 この日、ゲルトシュタットに天翔ける騎士が誕生した。
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