【完結】守銭奴ポーション販売員ですが、イケメン騎士団長に溺愛されてます!?

古井重箱

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第11話 やられてたまるか!

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 俺と営業部長の前に現れたのは、飢えた狼のような目をした男だった。
 ゲルトシュタットにはゴロツキがいっぱいいるけれども、海賊っていうのはまた違ったオーラを持っているものだな。  
 細い肩に彫られた薔薇とドクロのマーク。こいつ、暗黒大陸でも一、二を争うほどにヤバいローゼス海賊団の一員か。
 海賊は大きな曲刀を構えている。
 幅の広い刃は血に濡れていた。男の体つきは華奢だが、油断しない方がよさそうだ。
 
「アルセーディア社の評判は、海の上にも届いているぜ。なあ、最高にイけるポーションをくれねぇか」
「旦那様、命だけは助けてくださいっ! 商人ギルドの至宝のありかをお教えします!」

 営業部長が地べたに身を投げ出した。
 俺も同じポーズを取った。
 さっき、ちらりと交わした視線で分かった。営業部長がさすまたを放り出して土下座したのは作戦の一環だ。海賊の嗜虐心を煽って、油断させるつもりなのだろう。

「銭ゲバ揃いのゲルトシュタット商人がこさえた宝か。いいねぇ、聞いてるだけで勃っちゃいそうだぜ」
「至宝は、マンモニウスの神殿にあるんです! 神殿への近道は、このティノが知っております」
「旦那様。俺について来てください!」

 海賊はコロリと騙された。
 高笑いをして、「今夜の手柄は俺がもらった!」と胸を張る。

「よし。じゃあ、ティノとやら。早速マンモニウスの神殿に案内してもらおうか。立てよ」
「承知しました」
「腕を背中に回せ」
「はいっ」

 海賊が荒縄で俺の腕を縛った。
 営業部長が額を地べたにこすりつける。

「旦那様! どうか、ティノの命だけは……」
「さーて。それはその時の気分次第だな。おら、行くぞ」
「はい」

 海賊が俺の背中を蹴っ飛ばす。
 俺は哀れな商人を演じるため、ガックリとうなだれた。
 心の中で舌を出す。
 海賊なんかにやられてたまるか! 俺はリヒターともう一度、ちゃんと話がしたい。あいつの気持ちを受け入れるのか、それとも断るのか、ケジメをつける必要がある。
 
「ヒャハハッ! 情けねぇツラしてんなぁ。非戦闘員ってのは哀れなもんだねぇ」
「うぅっ。何卒ご容赦ください」

 海賊め。
 マンモニウスの神殿に着いたら、ミストポーションで一網打尽にしてくれる。
 曲がりくねった道を歩いていると、港がある方角から轟音が聞こえてきた。

「くそっ。黄金騎士団め。俺たちの船に大砲をぶっ放しやがったな」

 港エリアには、黄金騎士団の砦がある。砦には最新型の兵器が多数備わっていると聞く。
 リヒターは今頃、砦で指揮をとっていることだろう。
 あいつのことだ。自ら先陣を切ってゲルトシュタットを守っているに違いない。
 リヒターのことを考えると、闘志が湧いてきた。あいつが頑張ってるのに俺が逃げるわけにはいかない。

「まだ着かねぇのか」
「もう少しです」

 やがて、マンモニウスの神殿が見えてきた。
 海賊が意気揚々として扉を開け、神殿の内部に入り込む。天井が高い建物の中には、俺たちの他に人影はない。
 さて。
 まだ海賊を一人、誘い込んだだけだ。もっと多くの海賊を騙して、ミストポーションの餌食にせねば。俺は作戦を成功させるために、必死で次の手を考えた。
 海賊が大きなあくびをする。

「誰もいねぇんだな。お宝がある割には、警備が手薄じゃねぇか」
「それは……ここに商人ギルドの至宝があることを知らない者の方が多いからです」
「ふーん。で? そのお宝はどこにあんのよ」
「神殿の最奥部です」

 俺は嘘をついた。至宝のありかなんて、ペーペーの俺が知るわけがない。

「かなりの重量があるので、お一人で運ぶのは無理かと」
「えぇっ? マジかよ。俺、手柄を独り占めしたいんだけどなぁ」

 海賊が俺に疑いのまなざしを向ける。

「……本当にこの神殿にお宝があるのか?」
「はい。お仲間を呼んでください」
「取り分が減っちまう。気が進まねぇな」
「最奥部に入るためには、扉の前に置かれた台座の上に、大人数でのっかる必要があります」
「へぇ。人間の体重がお宝の鍵ってわけか」
「誰かが抜け駆けをしてお宝を持ち出さないように、そのようなカラクリが仕掛けられているのでしょう」
「なるほど」

 俺の説明はすべてデタラメだった。
 この海賊には何としてでも仲間を呼んでもらわないといけない。商人の武器であるトークスキルを駆使して、海賊を丸め込む。

「そういうことなら仕方ねぇな。仲間を呼ぶか」

 懐から木製の笛を取り出すと、海賊は俺を睨んだ。

「覚悟はいいな? これからここに野郎どもが押し寄せる。嘘が発覚した場合、そのヒョロい体は切り刻まれて、魚の餌になるんだからな?」
「マンモニウスに誓って、私は嘘をついてはおりません」
「はっ。マンモニウスってのは邪神じゃねぇか。まあ、いいだろう。ここは魔都、そしておまえは悪名高いゲルトシュタット商人だ。おまえがちらつかせているお宝という毒。皿まで食ってやろうじゃねぇの」

 海賊が笛を吹く。
 ひゅうっと風を切るような音が聞こえた。随分とか細い音だ。こんな音量で、街に散らばった仲間に届くのだろうか?
 俺が疑問に思ったその時、海賊の様子が変わった。
 口が耳元まで裂けて、鋭い牙がのぞいている。側頭部から突き出た耳、そしてふさふさとした尻尾。

「じゅ、獣人?」
「そうだよ。さっきの笛、おまえにはあまりよく聞こえなかっただろう。俺たち獣人は人間とは可聴域が異なる」
「左様でございますか……」
「お宝がもうすぐ手に入るのか。高まるぜ! おまえ、一緒に楽しいことをしないか?」
 
 毛むくじゃらの手が、俺のうなじを撫でた。
 ぞわりという嫌悪感が全身を走った。

「その反応、男を知らねぇみたいだな、ひひっ。小さくて可愛らしいケツだぜ。おまえのアソコ、キツそうだな。仲間を待つあいだ、楽しませてもらおうか」
「旦那様、お戯れを!」
「俺は上手いぜ?」

 下腹部をおっ立てた獣人が、俺を押し倒した。
 素早い手つきで、俺のベルトが緩められる。腕を縛られている俺であるが、必死で体をばたつかせて、獣人の手を拒もうと試みた。

「やっ、やめっ! こんなの……俺っ」
「んー? 誰か好きな相手でもいるのか? そいつに犯されてると思えばいいだろ、ひひひっ」

 獣人の荒い吐息が俺の耳元に吹きかかった。
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