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第3話 おいしい話
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突然現れたこの男。
すっげーイケメンだな。
簡素な服を着ているのに、舞台俳優のように華やかだ。
背も高い。
美丈夫という言葉は、こういう手合いのためにあるんだろうな。
太陽の申し子のような男は、魔法使いをそっと抱きしめた。
そして、彼女の亜麻色の髪を長い指でくしけずった。
男が魔法使いの耳元でそっと囁く。
「レティ。きみは今、どこにいる?」
「リヒター様の……腕の中です」
「だったらもう、仕事のことは忘れるんだ。甘い夢だけを思い描いてくれ」
「リヒター様……」
魔法使いからは荒々しさがすっかり消えて、目がとろんと潤んでいる。恋する乙女の表情だ。
けっ、なんだよ。
結局この世界でもイケメンが無双するわけか。
俺はヒーローを引き立てる脇役なんですね? あーはいはい。分かってましたよ。フツメンの俺に、女の人をぎゅっと抱き締めて、よしよしナデナデする力なんてありませんよーだっ!
「きみ、アルセーディア社の新人さんかな? レティを止めてくれてありがとう」
リヒターなるイケメンが、俺に向かって微笑んだ。
この顔面の造形美。
見ていて恐ろしくなるぜ。この世って本当に不公平だな。その美しさ、俺にも分けてくれ。こういう男は鼻の穴をのぞき込んでも、きれいに整っているんだろうな。
イケメンと関わったところで、俺に何のトクもない。
仏頂面を返してやりたかったが、この男も未来の顧客になるかもしれん。俺は愛想笑いを浮かべた。
「リヒター様とおっしゃいましたね。こちらこそ、助けていただきありがとうございます」
「レティは俺の友人なんだ。大切な女性だよ」
「左様でございますか」
友人? どう考えても、互いの肌を熟知している間柄にしか見えないのだが……。
それとも、ベッドインなしでこの親密さなの?
イケメン、こわい。
群衆から、「リヒターさまぁっ!」という黄色い声が聞こえてきた。このリヒターって男は、有名人なのかな?
リヒターはファンの女性たちに優しい微笑を送っている。
女性にキャーキャー言われても動じない余裕。そして、場の注目をかっさらっていくスター性。
リヒターとやら。
あんたは、地味なフツメンである俺の敵だ。
「レティ。いい子だ。さあ、目を閉じて、もう休むんだ」
「んっ……。ここは、恥ずかしいわ。みんなに見られてて……」
「では、静かなところへ行こうか」
おいおい、お持ち帰りかよ。
慣れてんなー。
リヒターめ。俺のリア充観測メーターの針が振り切れたぜ。
あんた、レティさんだけじゃなく、いろんな女の人に優しくしてるだろ? このスケコマシが。
「私はこれで失礼します」
「きみ、名前は?」
「ティノ・アザーニです。アルセーディア社のポーションをどうぞよろしくお願いいたします」
リア充の相手をして消耗している場合ではない。
俺は目的地である、黄金騎士団の詰め所に向かって歩き出した。
すると、後ろからレティを抱えたリヒターがついてきた。
「連れ込み宿は路地裏にあるのでは?」
「何を言っているのかな。レティは大事な友人だぞ。そんな場所に連れて行けるわけがない」
「じゃあ、どこに向かってるんですか」
「黄金騎士団の詰め所。俺の職場さ」
「あなたは……騎士様なのですか?」
「ああ。団長を務めている」
「そうなんだ……。ははっ」
思わず乾いた笑いが漏れた。
イケメンってのは、社会的地位も優れてるんだな。
俺がいじけそうになったその時、リヒターの元へ、赤毛の青年が近づいてきた。見るからに上質そうな革鎧に、腰に下げた白銀の剣。こいつも騎士様か。
「リヒター団長! レティさんとご一緒だったんですね! 非番なのに、申し訳ないです」
「気にしないでくれ、ハンス」
「これで王立研究所にまた、貸しが一つできましたね。所長、レティさんの悪癖にほとほと困っていたから」
「あの……ポーション中毒って、ちゃんとした治療が必要なのでは?」
「誰だ、貴様は」
会話を遮った俺を、ハンスが鋭く睨めつけた。
「ふん。アルセーディア社の販売員か。ポーション中毒者の健康を心配するとは。がめついゲルトシュタット商人とは思えない発言だな」
ハンスは挑発するように俺をせせら笑った。
「ポーション依存症の人間は、きみたちにとってはいいカモじゃないか」
「確かに俺はカネが大好きですよ。でも、人の不幸を食いものにしたくはありません」
「甘っちょろい男だ。守銭奴になりきれていないようだな。それでは、この商都ゲルトシュタットでは生きていけないぞ」
「そうだろうか、ハンス。俺はティノの志はとても素晴らしいと思うよ」
「リヒター団長ったら。まったく、誰にでも優しいんだから……」
「きみとは仲良くなれそうだよ、ティノ」
リヒターが感心したように俺を見つめる。
ああ、くそっ。
こいつ、とんでもない男だな。
社会的地位が下の者に対して惜しみのない賞賛を送るだなんて、心までイケメンじゃねーか。
「リヒター団長」
「きみは今日から俺の友人だ。リヒターと呼んでくれ」
「……リヒター。黄金騎士団のみなさんにわが社の商品を紹介したいのですが、よろしいでしょうか」
「それは無理だ。うちは王立研究所と契約を結んでいる」
「やっぱりダメですよね……」
「だから、俺個人と取引をしてほしい」
「えっ!?」
「ティノ。黄金騎士団ではなく、このリヒター・フォルトニウスと契約を結んでくれ。勤務時間外にアルセーディア社のポーションを使う分には、王立研究所との契約違反にはならない」
強欲の神、マンモニウス様。
俺はこれまで、あんたに祈りを捧げたことは一回もなかったけど、どういうことっすか? おいしい話がポンと転がり込んできたんですけど!?
「それは……是非ともお願いします!」
「よろしく頼んだよ」
かくして俺は、リヒターの屋敷に出入りすることになった。
すっげーイケメンだな。
簡素な服を着ているのに、舞台俳優のように華やかだ。
背も高い。
美丈夫という言葉は、こういう手合いのためにあるんだろうな。
太陽の申し子のような男は、魔法使いをそっと抱きしめた。
そして、彼女の亜麻色の髪を長い指でくしけずった。
男が魔法使いの耳元でそっと囁く。
「レティ。きみは今、どこにいる?」
「リヒター様の……腕の中です」
「だったらもう、仕事のことは忘れるんだ。甘い夢だけを思い描いてくれ」
「リヒター様……」
魔法使いからは荒々しさがすっかり消えて、目がとろんと潤んでいる。恋する乙女の表情だ。
けっ、なんだよ。
結局この世界でもイケメンが無双するわけか。
俺はヒーローを引き立てる脇役なんですね? あーはいはい。分かってましたよ。フツメンの俺に、女の人をぎゅっと抱き締めて、よしよしナデナデする力なんてありませんよーだっ!
「きみ、アルセーディア社の新人さんかな? レティを止めてくれてありがとう」
リヒターなるイケメンが、俺に向かって微笑んだ。
この顔面の造形美。
見ていて恐ろしくなるぜ。この世って本当に不公平だな。その美しさ、俺にも分けてくれ。こういう男は鼻の穴をのぞき込んでも、きれいに整っているんだろうな。
イケメンと関わったところで、俺に何のトクもない。
仏頂面を返してやりたかったが、この男も未来の顧客になるかもしれん。俺は愛想笑いを浮かべた。
「リヒター様とおっしゃいましたね。こちらこそ、助けていただきありがとうございます」
「レティは俺の友人なんだ。大切な女性だよ」
「左様でございますか」
友人? どう考えても、互いの肌を熟知している間柄にしか見えないのだが……。
それとも、ベッドインなしでこの親密さなの?
イケメン、こわい。
群衆から、「リヒターさまぁっ!」という黄色い声が聞こえてきた。このリヒターって男は、有名人なのかな?
リヒターはファンの女性たちに優しい微笑を送っている。
女性にキャーキャー言われても動じない余裕。そして、場の注目をかっさらっていくスター性。
リヒターとやら。
あんたは、地味なフツメンである俺の敵だ。
「レティ。いい子だ。さあ、目を閉じて、もう休むんだ」
「んっ……。ここは、恥ずかしいわ。みんなに見られてて……」
「では、静かなところへ行こうか」
おいおい、お持ち帰りかよ。
慣れてんなー。
リヒターめ。俺のリア充観測メーターの針が振り切れたぜ。
あんた、レティさんだけじゃなく、いろんな女の人に優しくしてるだろ? このスケコマシが。
「私はこれで失礼します」
「きみ、名前は?」
「ティノ・アザーニです。アルセーディア社のポーションをどうぞよろしくお願いいたします」
リア充の相手をして消耗している場合ではない。
俺は目的地である、黄金騎士団の詰め所に向かって歩き出した。
すると、後ろからレティを抱えたリヒターがついてきた。
「連れ込み宿は路地裏にあるのでは?」
「何を言っているのかな。レティは大事な友人だぞ。そんな場所に連れて行けるわけがない」
「じゃあ、どこに向かってるんですか」
「黄金騎士団の詰め所。俺の職場さ」
「あなたは……騎士様なのですか?」
「ああ。団長を務めている」
「そうなんだ……。ははっ」
思わず乾いた笑いが漏れた。
イケメンってのは、社会的地位も優れてるんだな。
俺がいじけそうになったその時、リヒターの元へ、赤毛の青年が近づいてきた。見るからに上質そうな革鎧に、腰に下げた白銀の剣。こいつも騎士様か。
「リヒター団長! レティさんとご一緒だったんですね! 非番なのに、申し訳ないです」
「気にしないでくれ、ハンス」
「これで王立研究所にまた、貸しが一つできましたね。所長、レティさんの悪癖にほとほと困っていたから」
「あの……ポーション中毒って、ちゃんとした治療が必要なのでは?」
「誰だ、貴様は」
会話を遮った俺を、ハンスが鋭く睨めつけた。
「ふん。アルセーディア社の販売員か。ポーション中毒者の健康を心配するとは。がめついゲルトシュタット商人とは思えない発言だな」
ハンスは挑発するように俺をせせら笑った。
「ポーション依存症の人間は、きみたちにとってはいいカモじゃないか」
「確かに俺はカネが大好きですよ。でも、人の不幸を食いものにしたくはありません」
「甘っちょろい男だ。守銭奴になりきれていないようだな。それでは、この商都ゲルトシュタットでは生きていけないぞ」
「そうだろうか、ハンス。俺はティノの志はとても素晴らしいと思うよ」
「リヒター団長ったら。まったく、誰にでも優しいんだから……」
「きみとは仲良くなれそうだよ、ティノ」
リヒターが感心したように俺を見つめる。
ああ、くそっ。
こいつ、とんでもない男だな。
社会的地位が下の者に対して惜しみのない賞賛を送るだなんて、心までイケメンじゃねーか。
「リヒター団長」
「きみは今日から俺の友人だ。リヒターと呼んでくれ」
「……リヒター。黄金騎士団のみなさんにわが社の商品を紹介したいのですが、よろしいでしょうか」
「それは無理だ。うちは王立研究所と契約を結んでいる」
「やっぱりダメですよね……」
「だから、俺個人と取引をしてほしい」
「えっ!?」
「ティノ。黄金騎士団ではなく、このリヒター・フォルトニウスと契約を結んでくれ。勤務時間外にアルセーディア社のポーションを使う分には、王立研究所との契約違反にはならない」
強欲の神、マンモニウス様。
俺はこれまで、あんたに祈りを捧げたことは一回もなかったけど、どういうことっすか? おいしい話がポンと転がり込んできたんですけど!?
「それは……是非ともお願いします!」
「よろしく頼んだよ」
かくして俺は、リヒターの屋敷に出入りすることになった。
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