【完結】守銭奴ポーション販売員ですが、イケメン騎士団長に溺愛されてます!?

古井重箱

文字の大きさ
上 下
3 / 30

第3話 おいしい話

しおりを挟む
 突然現れたこの男。
 すっげーイケメンだな。
 簡素な服を着ているのに、舞台俳優のように華やかだ。
 背も高い。
 美丈夫という言葉は、こういう手合いのためにあるんだろうな。
 太陽の申し子のような男は、魔法使いをそっと抱きしめた。
 そして、彼女の亜麻色の髪を長い指でくしけずった。
 男が魔法使いの耳元でそっと囁く。

「レティ。きみは今、どこにいる?」
「リヒター様の……腕の中です」
「だったらもう、仕事のことは忘れるんだ。甘い夢だけを思い描いてくれ」
「リヒター様……」

 魔法使いからは荒々しさがすっかり消えて、目がとろんと潤んでいる。恋する乙女の表情だ。
 けっ、なんだよ。
 結局この世界でもイケメンが無双するわけか。
 俺はヒーローを引き立てる脇役なんですね? あーはいはい。分かってましたよ。フツメンの俺に、女の人をぎゅっと抱き締めて、よしよしナデナデする力なんてありませんよーだっ!

「きみ、アルセーディア社の新人さんかな? レティを止めてくれてありがとう」

 リヒターなるイケメンが、俺に向かって微笑んだ。
 この顔面の造形美。
 見ていて恐ろしくなるぜ。この世って本当に不公平だな。その美しさ、俺にも分けてくれ。こういう男は鼻の穴をのぞき込んでも、きれいに整っているんだろうな。
 イケメンと関わったところで、俺に何のトクもない。
 仏頂面を返してやりたかったが、この男も未来の顧客になるかもしれん。俺は愛想笑いを浮かべた。

「リヒター様とおっしゃいましたね。こちらこそ、助けていただきありがとうございます」
「レティは俺の友人なんだ。大切な女性だよ」
「左様でございますか」

 友人? どう考えても、互いの肌を熟知している間柄にしか見えないのだが……。
 それとも、ベッドインなしでこの親密さなの?
 イケメン、こわい。
 群衆から、「リヒターさまぁっ!」という黄色い声が聞こえてきた。このリヒターって男は、有名人なのかな?
 リヒターはファンの女性たちに優しい微笑を送っている。
 女性にキャーキャー言われても動じない余裕。そして、場の注目をかっさらっていくスター性。
 リヒターとやら。
 あんたは、地味なフツメンである俺の敵だ。

「レティ。いい子だ。さあ、目を閉じて、もう休むんだ」
「んっ……。ここは、恥ずかしいわ。みんなに見られてて……」
「では、静かなところへ行こうか」

 おいおい、お持ち帰りかよ。
 慣れてんなー。
 リヒターめ。俺のリア充観測メーターの針が振り切れたぜ。
 あんた、レティさんだけじゃなく、いろんな女の人に優しくしてるだろ? このスケコマシが。

「私はこれで失礼します」
「きみ、名前は?」
「ティノ・アザーニです。アルセーディア社のポーションをどうぞよろしくお願いいたします」

 リア充の相手をして消耗している場合ではない。
 俺は目的地である、黄金騎士団の詰め所に向かって歩き出した。
 すると、後ろからレティを抱えたリヒターがついてきた。

「連れ込み宿は路地裏にあるのでは?」
「何を言っているのかな。レティは大事な友人だぞ。そんな場所に連れて行けるわけがない」
「じゃあ、どこに向かってるんですか」
「黄金騎士団の詰め所。俺の職場さ」
「あなたは……騎士様なのですか?」
「ああ。団長を務めている」
「そうなんだ……。ははっ」

 思わず乾いた笑いが漏れた。
 イケメンってのは、社会的地位も優れてるんだな。
 俺がいじけそうになったその時、リヒターの元へ、赤毛の青年が近づいてきた。見るからに上質そうな革鎧に、腰に下げた白銀の剣。こいつも騎士様か。

「リヒター団長! レティさんとご一緒だったんですね! 非番なのに、申し訳ないです」
「気にしないでくれ、ハンス」
「これで王立研究所にまた、貸しが一つできましたね。所長、レティさんの悪癖にほとほと困っていたから」
「あの……ポーション中毒って、ちゃんとした治療が必要なのでは?」
「誰だ、貴様は」

 会話を遮った俺を、ハンスが鋭く睨めつけた。

「ふん。アルセーディア社の販売員か。ポーション中毒者の健康を心配するとは。がめついゲルトシュタット商人とは思えない発言だな」

 ハンスは挑発するように俺をせせら笑った。

「ポーション依存症の人間は、きみたちにとってはいいカモじゃないか」
「確かに俺はカネが大好きですよ。でも、人の不幸を食いものにしたくはありません」
「甘っちょろい男だ。守銭奴になりきれていないようだな。それでは、この商都ゲルトシュタットでは生きていけないぞ」
「そうだろうか、ハンス。俺はティノの志はとても素晴らしいと思うよ」
「リヒター団長ったら。まったく、誰にでも優しいんだから……」
「きみとは仲良くなれそうだよ、ティノ」

 リヒターが感心したように俺を見つめる。
 ああ、くそっ。
 こいつ、とんでもない男だな。
 社会的地位が下の者に対して惜しみのない賞賛を送るだなんて、心までイケメンじゃねーか。

「リヒター団長」
「きみは今日から俺の友人だ。リヒターと呼んでくれ」
「……リヒター。黄金騎士団のみなさんにわが社の商品を紹介したいのですが、よろしいでしょうか」
「それは無理だ。うちは王立研究所と契約を結んでいる」
「やっぱりダメですよね……」
「だから、俺個人と取引をしてほしい」
「えっ!?」
「ティノ。黄金騎士団ではなく、このリヒター・フォルトニウスと契約を結んでくれ。勤務時間外にアルセーディア社のポーションを使う分には、王立研究所との契約違反にはならない」

 強欲の神、マンモニウス様。
 俺はこれまで、あんたに祈りを捧げたことは一回もなかったけど、どういうことっすか? おいしい話がポンと転がり込んできたんですけど!?

「それは……是非ともお願いします!」
「よろしく頼んだよ」

 かくして俺は、リヒターの屋敷に出入りすることになった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

嫁さんのいる俺はハイスペ男とヤレるジムに通うけど恋愛対象は女です

ルシーアンナ
BL
会員制ハッテンバ スポーツジムでハイスペ攻め漁りする既婚受けの話。 DD×リーマン リーマン×リーマン

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話

NANiMO
BL
人生に疲れた有宮ハイネは、日本に滞在中のアメリカ人、トーマスに助けられる。しかもなんたる偶然か、トーマスはハイネと交流を続けてきたネット友達で……? 「きみさえよければ、ここに住まない?」 トーマスの提案で、奇妙な同居生活がスタートするが……… 距離が近い! 甘やかしが過ぎる! 自己肯定感低すぎ男、ハイネは、この溺愛を耐え抜くことができるのか!?

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

処理中です...