【読み切り作品】BL短編集

古井重箱

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イケメン彼氏の独占欲が強すぎる!

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 クリスマスの夜、俺たちは結ばれた。
 鈴懸さんの腕の中で、俺はたっぷりと甘やかされた。丁寧な愛撫に優しい口づけ。ベッドの上でも鈴懸さんは紳士だった。

「幸せすぎて怖い……」

 そうつぶやくと、鈴懸さんにぎゅっと抱きしめられた。

「慈生くんは愛されると不安になるの?」
「俺、人の不幸をメシの種にしてるだろ? それなのに、自分ばっかりがいい思いをしていいのかなって」
「きみは謙虚なんだね。僕は欲張りだから、仕事も恋も諦めたくない」

 鈴懸さんの唇が近づいてきて、俺の鎖骨に柔らかなキスを落とす。

「一緒に幸せになろう」
「うん……」

 肩を寄せ合って、俺たちは眠りについた。


◆◆◆


 サロンに出勤すると、朱鷺子さんが腕組みをした。

「慈生くんの背中に、白い蛇と黒い蛇が見えるわ……」
「えっ。それって凶兆ですか?」
「そうねぇ、絡まり合った蛇の黒い方は凶兆かもしれない。でも、白蛇は吉兆の象徴だから、一概に悪い相とも言えないわ。例の彼とベッドインしたの?」
「……朱鷺子さんには敵いませんね」
「その彼、何かありそうね」

 五つ星占い師の朱鷺子さんの発言を、俺は無視することができなかった。なんだろう。鈴懸さんには俺の知らない一面があるのかな? 俺がカラダを許したあとも、これまでと変わらない態度で接してくれているけど。

「慈生くん、不安にさせてごめんね。でも、違和感を覚えたら相手とは距離を置くのよ」
「心配してくださって、ありがとうございます」

 俺はサロンの掃除をしながら、鈴懸さんの顔を思い浮かべた。
 どんなにいい人にも欠点がある。でもそれはお互い様だ。俺の長所は切り替えが早いところだが、別の見方をすれば薄情ということになる。
 これまでの俺は、相手に深入りしないインスタントな関係によって寂しさを慰めてきた。
 だけど、鈴懸さんに出会ってから、自分の考えが貧しいことに気付かされた。じっくりと互いのことを知っていき、絆を構築していく喜びを教えてもらった。
 俺は鈴懸さんとこれからも一緒にいたい。
 予約を受け付けたすべてのセッションが終わり、退勤時刻になった。スマートフォンが振動した。鈴懸さんからのメッセージが届いたようだ。

『今日、仕事納めだったんだ。慈生くんのお店も休暇が始まるんだよね? 明日、うちに泊まりに来ない?』
『迷惑じゃないですか?』
『そばにいてほしい』

 俺はじんと胸が熱くなった。
 鈴懸さんは駆け引きをして相手を操ろうとするタイプではない。俺はお誘いを受けることにした。

『ありがとう、慈生くん。楽しみにしてるね』

 スマートフォンを眺めながらニヤニヤしていると、朱鷺子さんがため息をついた。

「双頭の蛇が巨大化したわ……。その彼、あっちの方がかなり強いようね。慈生くん、イきすぎて失神しちゃうかも」
「下品なことを言わないでください。あの人は俺の嫌がることなんてしないんですから!」

 かくして俺は休暇に突入した。


◆◆◆


 年末の荻窪駅前は混み合っていた。
 鈴懸さんと俺は、商業ビルの中に入っている雑貨屋に向かった。

「慈生くんがうちで使うマグカップを準備しないとね」

 俺はモノにこだわりはない。陳列棚に並んだいくつものマグカップのうち、どれか一つを選ぶように言われても困ってしまう。  
 
「もしかして悩んでる?」
「うん。何色がいいかなぁ」
「慈生くんは青系統の服を着ていることが多いから、これなんてどう?」

 鈴懸さんが、星座が描かれたブルーのマグカップを手に取る。俺はそれに決めた。
 会計を済ませて雑貨屋を出る。エスカレーターに向かって歩いていると、前方から見知った人物が現れた。

「慈生! 久しぶり」
「おお、浩太。元気だった?」
「まあな。またうちの店に来てくれよ」
「うん」

 俺は笑顔で浩太を見送った。すると、隣にいる鈴懸さんが刺々しい声で言った。

「今のは誰?」
「元カレ」
「……どれぐらいのあいだ、交際してたの?」
「三ヶ月かな」
「そう……」
「お試しで付き合ったけど、俺たちやっぱり友達だよねってことになって」
「別れてからも会ってるんだ?」
「俺、そういうパターンが多いんだ。ケンカ別れした相手ってほとんどいなくて。恋人から友達に落ち着くんだよね」

 鈴懸さんが無表情になった。これまでに見たことがないほど冷たいまなざしを向けられて、俺は焦った。

「そういう関係性、僕には理解できない。さっきの元カレは慈生くんのことを狙ってるんじゃない?」
「まさか。浩太は惚れっぽいから、今は新しく好きな人がいると思うよ」
「僕のことは鈴懸さんって苗字で呼ぶのに、彼のことは名前で呼ぶんだね」

 いつも微笑みを絶やさない鈴懸さんであるが、浩太のことがよほど気に入らなかったらしい。眉間にシワが寄っている。
 俺は鈴懸さんの腕に抱きついた。
 
「そんなに怖い顔をしないで。あいつとはもう、何でもないんだから」
「彼は何かお店をやってるの?」
「うん。ダーツバー」
「ひとりで彼のお店に行ったらダメだよ。僕もついて行く」
「鈴懸さん、不安にさせてごめん。俺、これまでフラフラしてきたから……。でも、鈴懸さんと真剣に付き合いたい。だから、誤解を招くようなことはしない」
「そうしてくれると助かる」
 
 買い物を終えてマンションに着くと、鈴懸さんが後ろから抱きしめてきた。

「慈生くんは僕のものだよね?」
「うん……」

 床に荷物を置いた瞬間、俺は唇を奪われた。かぶりつくようなキスで呼吸を封じられる。はくはくと浅い息をこぼす俺の下腹部に、鈴懸さんのそれが当たった。衣服をまとっているものの、兆しつつあるものの熱さや硬さが如実に伝わってくる。恥じらう俺の耳たぶを鈴懸さんが甘噛みした。

「他の誰にも渡さない」
「鈴懸さん……っ」
「やっと見つけたんだ。きみには僕だけの慈生くんでいてほしい」

 鈴懸さんが俺のファスナーを下ろした。
 ボクサーパンツの布越しにペニスを撫でられる。じゅわりと先走りが滲み出てきた。鈴懸さんがその場にかがみ込んで、ボクサーパンツから取り出した俺の性器を咥えた。亀頭の丸いラインを執拗に舐められる。ペニスがじんじんと熱を帯びていく。
 
「だめだっ……! シャワー浴びさせてっ」
「慈生くんのちんこ、嬉しそうだよ」
「あ、や……っ、やめっ! 出ちゃうっ」
「出しなよ」

 ねっとりとした口淫に耐えきれず、俺は吐精した。鈴懸さんは俺が放ったものを嚥下すると、濡れた唇で微笑んだ。

「今日は恥ずかしいことをいっぱいしてあげる。僕以外の男のことなんて忘れるように」

 鈴懸さんは俺をバスルームにいざなった。
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