13 / 28
BL営業をしていたら、相手役の俺様イケメンにガチで惚れられました
3
しおりを挟む
▪️
今日もまた俺は『ハレハレ』に出勤していた。
黎人さんが顔を寄せてくる。知性を宿した目は自信に満ちている。どこにも翳りはない。俺は先日のスケッチでこの人の何を描き出したのだろう?
「膝枕してくれる?」
「はい」
「んじゃ、失礼」
黎人さんが俺の腹の下で、ごろんと横になる。
彼女がいた時、膝枕をしながら耳かきをしてもらったことがあった。逆の立場になるのは不思議な感覚である。男の太ももなんて硬くて首が痛くなりそうだ。しかし黎人さんは目を細めている。
「悠也、すごいな。どんどん度胸がついてる」
「自分でも意外です」
マジックミラーの向こう側には、この部屋の音声は聞こえないようになっている。お客さんからすると、俺と黎人さんは睦言を交わしているように見えるようだ。ピンク色のランプが点灯している。
その後、黎人さんとくっついたり、わざと嫌がってみせたりしているうちに時間になった。
さて帰ろうと思って廊下に出ると、黎人さんがその場にうずくまった。
「どうしました!?」
きゅるるというお腹の音が聞こえた。
「もしかして、また食費削ってました?」
「太った豚になるより、痩せたソクラテスになる方がいいっていう名言があるだろ?」
「健康体重のソクラテスを目指してください」
俺は黎人さんを近くにある定食屋に案内した。ここはおかわり自由である。黎人さんはごはんを3杯も食べた。
「生き返る……」
「体、大事にしてくださいよね? 俺、黎人さん以外のキャストと絡みたくないし」
「俺のこと結構気に入ってるんだ?」
「……だって黎人さん、オレ様っぽい雰囲気なのに、すごく気を遣ってくれるし」
「好きな子だから大切にしてるんだって言ったら?」
「えっ」
食べかけの生姜焼き定食を前に、俺は固まった。
黎人さんって俺に気があるの? いやいや、待って。俺たち男同士だから。
戸惑いを浮かべたまま沈黙していると、黎人さんが目を伏せた。
「冗談だよ。困らせて悪かった」
「もう。もっと笑えるジョークにしてくださいよ」
「ごめん」
謝られると、なんだかこちらまで申し訳ない気持ちになってくる。
「黎人さん。またモデルをお願いしたいんですけど、空いてます?」
「ごめん。最近、立て込んでて」
「そうですか。時間ができたら教えてください」
食事を終えると、黎人さんは足早に去っていった。
俺、何かまずいこと言ったかな?
モヤモヤを抱えながら俺はアパートに帰った。
▪️
俺が大学の製作室でペインティングナイフを操っていると、『ハレハレ』から着信があった。
廊下に出て、通話ボタンを押す。店長からだった。
「えっ? 黎人さんが店を辞める?」
本人を説得して引き留めてほしいと言われた。
俺は黎人さんに「会いたいです」とメッセージを送った。すぐに既読がついて、「店の件なら考えは変わらないから」という返事をよこされた。
どうしたものかと困っていると、黎人さんから着信があった。
「今どこですか?」
『自分の部屋』
「会いに行ってもいいですか」
『あんたもあの店を辞めてほしい』
「えっ」
『……きなんだよ、あんたが!』
電波の乱れが起きたため、よく聞こえなかった。俺は最寄り駅を教えてもらうと、黎人さんに会いに行った。
おいしいバイトを辞めるだなんて、よっぽどのことがあったのだろう。
親バレか? 学内で取り沙汰されたとか?
それとも、俺が原因なのか?
電車を乗り継いで黎人さんが待つ駅に向かう。
北口の階段を上ると、黎人さんが待っていた。いつもの明るいオーラは消えていて、表情が沈んでいる。
「黎人さん、どうしたんですか。俺、何かしちゃいましたか?」
次なる質問を投げかけようとした瞬間、俺の唇に黎人さんの人差し指が当たった。
「……好きなんだ。悠也のことが」
「えっ、俺!?」
「最初はただの営業行為だと思ってた。でも、俺の腕の中で反応する可愛いあんたを見てたら、……本気になっちまった」
黎人さんはつまらない嘘をつくような人ではない。俺を見つめてくるのは真剣そのものだった。
俺が黎人さんをモデルにした時に描き出した孤独感って、俺への片恋が原因だったのか?
「あの……、俺は男ですよ」
「関係なくなるんだよ、そういうの。本気で好きになるとさ」
黎人さんが俺に向かって手を伸ばした。でも、その指先が俺に触れることはなかった。黎人さんの腕は震えていた。
「……俺を軽蔑してくれ。ガチ惚れしてたのに、バイトにかこつけて体を触りまくってたんだから」
「嫌じゃありませんでしたから」
「でも俺とキスしたりセックスしたりはできないだろ?」
俺が答えられずにいると、黎人さんが寂しそうに笑った。
「すまねぇ。自分の気持ちばかりぶつけちまった」
「黎人さん……」
「さよならだ。今までありがとう」
くるりと踵を返した黎人さんを追いかけることは今の俺にはできなかった。
今日もまた俺は『ハレハレ』に出勤していた。
黎人さんが顔を寄せてくる。知性を宿した目は自信に満ちている。どこにも翳りはない。俺は先日のスケッチでこの人の何を描き出したのだろう?
「膝枕してくれる?」
「はい」
「んじゃ、失礼」
黎人さんが俺の腹の下で、ごろんと横になる。
彼女がいた時、膝枕をしながら耳かきをしてもらったことがあった。逆の立場になるのは不思議な感覚である。男の太ももなんて硬くて首が痛くなりそうだ。しかし黎人さんは目を細めている。
「悠也、すごいな。どんどん度胸がついてる」
「自分でも意外です」
マジックミラーの向こう側には、この部屋の音声は聞こえないようになっている。お客さんからすると、俺と黎人さんは睦言を交わしているように見えるようだ。ピンク色のランプが点灯している。
その後、黎人さんとくっついたり、わざと嫌がってみせたりしているうちに時間になった。
さて帰ろうと思って廊下に出ると、黎人さんがその場にうずくまった。
「どうしました!?」
きゅるるというお腹の音が聞こえた。
「もしかして、また食費削ってました?」
「太った豚になるより、痩せたソクラテスになる方がいいっていう名言があるだろ?」
「健康体重のソクラテスを目指してください」
俺は黎人さんを近くにある定食屋に案内した。ここはおかわり自由である。黎人さんはごはんを3杯も食べた。
「生き返る……」
「体、大事にしてくださいよね? 俺、黎人さん以外のキャストと絡みたくないし」
「俺のこと結構気に入ってるんだ?」
「……だって黎人さん、オレ様っぽい雰囲気なのに、すごく気を遣ってくれるし」
「好きな子だから大切にしてるんだって言ったら?」
「えっ」
食べかけの生姜焼き定食を前に、俺は固まった。
黎人さんって俺に気があるの? いやいや、待って。俺たち男同士だから。
戸惑いを浮かべたまま沈黙していると、黎人さんが目を伏せた。
「冗談だよ。困らせて悪かった」
「もう。もっと笑えるジョークにしてくださいよ」
「ごめん」
謝られると、なんだかこちらまで申し訳ない気持ちになってくる。
「黎人さん。またモデルをお願いしたいんですけど、空いてます?」
「ごめん。最近、立て込んでて」
「そうですか。時間ができたら教えてください」
食事を終えると、黎人さんは足早に去っていった。
俺、何かまずいこと言ったかな?
モヤモヤを抱えながら俺はアパートに帰った。
▪️
俺が大学の製作室でペインティングナイフを操っていると、『ハレハレ』から着信があった。
廊下に出て、通話ボタンを押す。店長からだった。
「えっ? 黎人さんが店を辞める?」
本人を説得して引き留めてほしいと言われた。
俺は黎人さんに「会いたいです」とメッセージを送った。すぐに既読がついて、「店の件なら考えは変わらないから」という返事をよこされた。
どうしたものかと困っていると、黎人さんから着信があった。
「今どこですか?」
『自分の部屋』
「会いに行ってもいいですか」
『あんたもあの店を辞めてほしい』
「えっ」
『……きなんだよ、あんたが!』
電波の乱れが起きたため、よく聞こえなかった。俺は最寄り駅を教えてもらうと、黎人さんに会いに行った。
おいしいバイトを辞めるだなんて、よっぽどのことがあったのだろう。
親バレか? 学内で取り沙汰されたとか?
それとも、俺が原因なのか?
電車を乗り継いで黎人さんが待つ駅に向かう。
北口の階段を上ると、黎人さんが待っていた。いつもの明るいオーラは消えていて、表情が沈んでいる。
「黎人さん、どうしたんですか。俺、何かしちゃいましたか?」
次なる質問を投げかけようとした瞬間、俺の唇に黎人さんの人差し指が当たった。
「……好きなんだ。悠也のことが」
「えっ、俺!?」
「最初はただの営業行為だと思ってた。でも、俺の腕の中で反応する可愛いあんたを見てたら、……本気になっちまった」
黎人さんはつまらない嘘をつくような人ではない。俺を見つめてくるのは真剣そのものだった。
俺が黎人さんをモデルにした時に描き出した孤独感って、俺への片恋が原因だったのか?
「あの……、俺は男ですよ」
「関係なくなるんだよ、そういうの。本気で好きになるとさ」
黎人さんが俺に向かって手を伸ばした。でも、その指先が俺に触れることはなかった。黎人さんの腕は震えていた。
「……俺を軽蔑してくれ。ガチ惚れしてたのに、バイトにかこつけて体を触りまくってたんだから」
「嫌じゃありませんでしたから」
「でも俺とキスしたりセックスしたりはできないだろ?」
俺が答えられずにいると、黎人さんが寂しそうに笑った。
「すまねぇ。自分の気持ちばかりぶつけちまった」
「黎人さん……」
「さよならだ。今までありがとう」
くるりと踵を返した黎人さんを追いかけることは今の俺にはできなかった。
20
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!



目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる