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東京公演編
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しおりを挟む「タカヤくん」
呼ばれて顔を上げると、満面の笑みのケイがいた。
「よぉ」
「よかった、タカヤくんだけでも捕まえられて」
そのどこかホッとした様子を見て、タカヤは訝しげな表情になる。
ケイは事務所の後輩で同じグループの仲間だが、近頃はメンバーそれぞれが忙しく、動画配信サイトでの月一の冠番組にすらなかなか全員が揃わなくなってきている。
だから会えて喜ぶのはわかる。
が、それにしても「捕まえた」と言うのだろうか。
「タカヤくんにお願いがあるんだけど」
言いながらケイが差し出したのは、少し前に発売された自分たちのファースト・シングルとサインペンだった。
「友達か親戚にでも頼まれたんか」
微苦笑をこぼしつつもタカヤは断らない。
このサインが誰の手に渡ろうとも気にしない。
タカヤはただ可能な限り仲間の頼みは聞きたいと思っているだけで、彼はそういう男気のある青年だった。
「あ、違う。トージにあげんの」
歌詞カードを開ければ、すでに三人のメンバーのサインが書かれてあった。
「――蘭堂?」
「そう。アキのトージ」
蘭堂暁はトージが演じている役の名前である。
ケイが演じる千花斐ノ介とは幼馴染みの親友同士ながら敵対し、戦うことになる。そして斐ノ介は暁のことを劇中でアキと呼んでいる。
その吾妻統司に、ケイはサイン入りのCDをあげると言う。
タカヤは脳裏に疑問符を浮かべるも、とりあえず歌詞カードの空いているところにサインした。
「ありがとう!」
嬉しそうに顔を綻ばせるケイに、何故かしら違和感を覚える。
サインを求められて、ほかの三人は何も思わなかったのだろうか。
「時間できたら舞台観に来て」
去り際、ケイはそう言った。
「蘭堂……トージ…」
一度ちゃんと会ってみたい。
タカヤは思った。
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