たそがれ色の恋心

空居アオ

文字の大きさ
上 下
2 / 63
東京公演編

-2-

しおりを挟む

 二年前。
 断崖絶壁から今まさに飛び降りようとしていたところで、引き留めてくれた大切な役。
 それを二年経って、再び演じることができるとは、これほど幸せなこともない。

 前回、二十歳だった自分はがむしゃらに役と向き合って、舞台に臨んだ。今回はさらに一層、より深くキャラクターを掘り下げていかなければ、自分自身はもとより、観客も納得しないだろう。
 役に対して毎日発見があって、その度にやることが増えていく。
 それでも役に振り回されないように自身をコントロールし、けれどもいくらやっても追いつかなくて、足りなくて、気がつけば初日が迫っていた。

 どうしようもなく焦りに囚われたとき。
 自分の心が弱みをにじませたとき。
 ふと周りが目に入った。

 初演とは違う顔ぶれの仲間たち。

 今回は若手をばかりがキャスティングされたため、一部のファンから風当たりが強いと聞く。
 再演というプレッシャーは、初演が好評だった分だけ、新キャストの心と体に圧し掛かっていることだろう。
 しかし弱音を吐く奴はいない。
 みんなただただ舞台を成功させたくて、一生懸命だ。
 初演より劣るなんて言わせない。ましてや「再演には再演のよさがある」なんていう甘えを、誰一人としてこの稽古場に持ち込む者はいなかった。

 目に見えぬ気概が静かに燃え上がり、揺蕩う。
 その中にトージは、二年前の自分の影が見え隠れしているように感じた。

 ――ああ、そうだ。
 今は余計なことを考えるな。
 ただ舞台とだけ向き合え。

 芝居に正解というものはなくても、その時々に必要な答えは、必ずある。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

馬鹿な先輩と後輩くん

ぽぽ
BL
美形新人×平凡上司 新人の教育係を任された主人公。しかし彼は自分が教える事も必要が無いほど完璧だった。だけど愛想は悪い。一方、主人公は愛想は良いがミスばかりをする。そんな凸凹な二人の話。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。 本来は二次創作にて登場させたモブでしたが余りにもタイプだったのでモブルートを書いた所ただの創作BLになってました。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...