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東京公演編
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しおりを挟む「トージって、タカヤくん嫌いなの?」
*
公演初日が迫っている。
2年前に人気を博した舞台の再演。
今回はほとんどのキャストを入れ替えての上演とあって、発表後さまざまな物議を醸してきた。
その中で、前回に引き続き参加しているトージは、小さく息をついて、ペットボトルに手を伸ばした。
時代物であるこの作品は殺陣が多い。
体力に自信があって、体を動かすことも得意なトージではあるが、殺陣となると勝手が違った。
基礎は前回公演のときに叩き込まれている。
だけど同じ役を演じる以上、前回と同じものを見せるわけにはいかない。
トージの稽古着はびっしょり汗に濡れていた。
思えば役者を志し、高校を中退してまで上京したのである。
演技の勉強をしつつ、様々なオーディションを受けるも、たまにエキストラしか受からない日々。気がつけば芝居よりもバイトに時間を取られることが多くなっていた。
もう十分がんばったんだから、帰ってきなさい。
成人式を言い訳に、上京後初めて帰省すると、母親がぽつりともらした。
そのひと言がやけに胸を叩き、トージは泣きそうになりながら式場に向かった。
式の間じゅう、偉い人の祝辞などまったく耳に入って来ず、ひたすら母親の言葉が頭の中で渦を巻いた。
母親の言うとおり、がんばらなかったわけじゃない。
最大限の努力をして、それでだめだった。
見切りをつけるのも勇気じゃないか。
夢を手放すにはまだまだ若い。そう思わなくもない。
だけどかつての同級生が大学で勉学に励んでいる姿や、スーツを身に着けて社会の荒波と戦っている姿を目の当たりにすると、どうしても焦ってしまうのだ。
みんなは一歩一歩確実に未来へと進んでいる。
比べると自分は実も形もない夢という美しいだけの霞の中で彷徨っているように思えた。
成人式の式場から、晴れやかな顔をした同級生たちが吐き出される。
彼ら・彼女らの笑顔がいやに眩しくて、トージは声をかけられないうちに、そそくさと建物から離れた。
その帰り道のことである。
マネージャーから、舞台のオーディションに合格したという連絡が入ったのは。
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