たそがれ色の恋心

空居アオ

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神戸公演編

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 ……ふわり。
 万感の意を込めて、トージはケイの身体を腕に抱いた。

「ごめん」

 ケイの耳もとで謝罪の言葉が紡がれる。
 今日、トージが発したどんな言葉よりもやさしく、真摯に、ケイの鼓膜に響いた。

「俺、一人で悩んで、悩みすぎて、ケイのこと全然考えてなかった。――いや。考えてたけど、考えてたつもりになってただけだった。勝手にケイの気持ち決めつけて、勝手に落ち込んだ」
「………」
「俺だってケイが好きだ。ちゃんと好きなんだ。佐野孝矢にくだらないヤキモチ焼くくらい、ケイのこと…愛してる」

 ケイが言葉の意味を噛み砕くよりも先に、耳まで真っ赤になった。
 愛してるなんてセリフ、どちらかといえば硬派のトージが――あのトージが口にするとはとても信じられなかった。

 この男がとてつもなく誠実な人柄であることは知っている。
 そんな男の言葉に嘘がないこともわかっている。

 だから余計に気恥ずかしくて、――だから嬉しい気持ちが上昇に気流に乗って、成層圈をも飛び出す。

「……バカ。何こっ恥ずかしいこと言ってんの。バカだろ」

 ふて腐れたような口調は、明らかに照れ隠しだった。
 トージは腕に一層力をこめた。

 傷つけてごめん。
 別れるって言ってごめん。
 おまえの気持ちをちっとも考えなくてごめん。
 バカな俺でごめん。

 それでも好きでいてくれてありがとう。
 怖かったろうに、立ち向かってくれてありがとう。
 最後まで俺を信じ切ってくれてありがとう。
 バカな俺を見捨てないでくれてありがとう。

 愛してる。
 好きってだけじゃ足りない。
 だから、愛してる。
 愛してる。
 愛してる。
 数えきれない「ごめん」と「ありがとう」よりもずっと、ずっと、ずーっとたくさんの「愛してる」をあげる。

「ばかでもなんでも、これが俺の正直な気持ちなんだから」
「………」
「ヒラン、諦めて」

 ケイ。
 愛してる。



***


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