たそがれ色の恋心

空居アオ

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神戸公演編

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 それはケイにだってわかっていないはずなんてない。
 わかったうえでそれでも、羨ましいのでも妬ましいのでもなく、ヤキモチを焼くという言い方をした。
 矛盾だらけで、公私混同も甚だしく、すこぶるばかげた主張である。
 しかしいくら理性面で順序だって物事を理解しても、恋人として、感情面では引っかかってしまうのは仕方がない。
 抑えつけようと、隠そうとする自分に、頑なに――当然の権利と言わんばかりに、所有者は自分なのにと子供のように訴えかける。

 どうして好きなヤツは本当の意味で自分だけものになりえないのか。
 どうしてアイツを上へと押し上げるのは自分じゃないのか。
 どうして自分のほうが年下なのか。
 どうしてこんなに大好きなのに助けられないのか。

 トージを傷つける出来事の数々をケイも見聞きしていた。
 それはケイにも経験のあることだった。
 だけど自分のときよりもずっと痛い。
 痛くて痛くて、同時に、悔しくてならなかった。
 アイツがどれだけ努力してるかなんて、誰も何も知らないくせにッ

 年の差はどうしたって覆せない。
 だったら力をつけるしかない。
 この世界は実力がものを言う。
 ケイがこの世界でしっかりと根を張り、枝を伸ばせば、それが大きければ大きいほど、大切な人間をより固く守ることができる。
 トージを守る。
 男なら好きなひとを守ってこそじゃないか。
 自分は確かに若い。
 今は無理だ。
 けれども将来も無理だなんて…誰にわかる?

 そう決断したから、ケイは自分の中の幼稚な声をなだめ、マイナスになりがちな感情を整理し、消化する方向に持っていくことにした。
 これがケイとトージの違いだった。
 トージは真面目であるがゆえに己を追い込みすぎて、視野が狭まった。結果、ストレートに恋人にやつあたりし、果てに逃げを打ってしまうことになる。
 一方のケイは、どうしても目に入るというのなら、いっそさらに視野を広めることにした。すべてを把握した中で、目標を定め、そこへ向かって黙々とやるべきことをやることにしたのである。

 だから今回のことがなければ、ケイは一生、自分のわがままな感情を隠し通すつもりでいた。
 10年後、20年後になって振り返れば、二十歳そこそこの若造だった自分が考えていたことなんて、単なる思い出のひとつになっているに違いない。黒歴史ってヤツだなと、笑い飛ばせるようになっていればあっぱれだ。
 むしろそうなることを期待しているふしすらある。

 それでいい。
 それがいい。
 トージさえ側にいてくれれば。
 トージとずっと一緒にいられれば。


 それが本望ってもんだ。




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