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神戸公演編
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しおりを挟む前々からトージへの気持ちの中に、ちょっぴり父性愛っぽいものが混ざっているのではないかと疑っていた。
だけど疑いを持ちつつも、それがどうしたと一方で胸を張ってみせる。
男なら好きな相手に対する保護欲も独占欲も支配欲もあってあたりまえじゃないか。
トージはいつでもどんなときでも、ケイが傷つかないように、万が一傷ついても無理に顔を上げなくてもいいように、ささやかなことでも心の底から笑えるように、そっと、でも強く抱きしめてくれる。
ケイだって同じくトージを守りたい、慰めたい。
愛しい相手が自分の縄張りにいる以上、安心しきってそこにいてほしいのだ。
目を見てくれないトージの唇を見つめる。
ケイのに比べると適度に厚みがあって、弾力も何気にちょうどいい。
何よりも女の子と違って口紅の膜を挟まずに味わえるところが気持ちいい。
あ、でもリップは塗ってほしい。
役者だからとかというよりも、ケイのために。
だってセクシーなのだ。
そう感じるのは同じ男だからなのか、それとも恋人の欲目か。
とにかくこの唇にはいつまでも「健康」で「元気」でいてほしい。
なんなら保険をかけてもいいくらいだが、それを言うと確実に白い目で見られる。
ついでにきっと「ただの唇だろ。おまえにだってあるもんだ」とかなんとか、情緒のカケラもないことを言うに決まっている。
ただの唇。
そりゃそうだ。
ケイにだってある。
そりゃあるだろう。
でも、ただの唇なのに、それがトージのものだと思うと、えも知れぬ情念が湧き出でそうになる。身体の芯を熱くする何か抑えがたいものが、絶え間なくケイに訴えかけてくるのだ。
それのどこが「ただの唇」で「おまえにだってある」って言うのか、紋付き袴を着て正座して問いただしたい今日この頃ってヤツだ。
……ペロリと唇を舐めた。
キスしたい。
だってしょうがないじゃないか。
キスしたい。
したいもんはしたいんだから。
キスしたい。
そうして、した。
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