たそがれ色の恋心

空居アオ

文字の大きさ
上 下
48 / 63
神戸公演編

-48-

しおりを挟む

 前々からトージへの気持ちの中に、ちょっぴり父性愛っぽいものが混ざっているのではないかと疑っていた。
 だけど疑いを持ちつつも、それがどうしたと一方で胸を張ってみせる。
 男なら好きな相手に対する保護欲も独占欲も支配欲もあってあたりまえじゃないか。
 トージはいつでもどんなときでも、ケイが傷つかないように、万が一傷ついても無理に顔を上げなくてもいいように、ささやかなことでも心の底から笑えるように、そっと、でも強く抱きしめてくれる。
 ケイだって同じくトージを守りたい、慰めたい。
 愛しい相手が自分の縄張りにいる以上、安心しきってそこにいてほしいのだ。



 目を見てくれないトージの唇を見つめる。
 ケイのに比べると適度に厚みがあって、弾力も何気にちょうどいい。
 何よりも女の子と違って口紅の膜を挟まずに味わえるところが気持ちいい。
 あ、でもリップは塗ってほしい。
 役者だからとかというよりも、ケイのために。
 だってセクシーなのだ。
 そう感じるのは同じ男だからなのか、それとも恋人の欲目か。
 とにかくこの唇にはいつまでも「健康」で「元気」でいてほしい。
 なんなら保険をかけてもいいくらいだが、それを言うと確実に白い目で見られる。
 ついでにきっと「ただの唇だろ。おまえにだってあるもんだ」とかなんとか、情緒のカケラもないことを言うに決まっている。

 ただの唇。

 そりゃそうだ。

 ケイにだってある。

 そりゃあるだろう。

 でも、ただの唇なのに、それがトージのものだと思うと、えも知れぬ情念が湧き出でそうになる。身体の芯を熱くする何か抑えがたいものが、絶え間なくケイに訴えかけてくるのだ。
 それのどこが「ただの唇」で「おまえにだってある」って言うのか、紋付き袴を着て正座して問いただしたい今日この頃ってヤツだ。



 ……ペロリと唇を舐めた。

 キスしたい。

 だってしょうがないじゃないか。

 キスしたい。

 したいもんはしたいんだから。

 キスしたい。


 そうして、した。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

処理中です...