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神戸公演編
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斐ノ介と暁は劇中で最終的には敵対することになる設定でも、本来は「背中を預け合う者」同士として描かれてある。
お互いが唯一無二の友人だからからこそ、敵対せざるを得ない悲哀と、それでもなお断固として信念を捨てず、義を貫く男たちの微妙で強靭な心の動きを見せなければならない。
設定だけを見ても人気が出ないわけのないキャラクターだ。
しかし一方で、演じ方をわずかでも間違えてしまえば、「感動を売りにしている」わざとらしさが漏れかねない、そういう難しい役でもある。演じる側には緻密で精確な芝居が求められた。
これまではどちらかといえば感覚で芝居をしてきたケイにとって、意図的に、細部までこだわってひとつの役を作り上げるという作業は、実は初めての経験であった。
同じくほぼ駆け出しの新人に等しいトージからすれば、暁は越えられない巨大な山のように眼前に鎮座していた。
アキのキャラクターはトージが役を自分に寄せたうえで、少なからず自身の理想を具現化させたものである。
初演の稽古のとき、ケイはアキの愚直なまでの真っ直ぐさを現実味がないと感じ、不器用な真面目さを作りすぎだとささやかな嫌悪感すら覚えたくらいだった。
そんなアキをバンッと目の前に提示されても、ケイとしてはにわかに受け入れがたい。もともと自分が向かおうとした斐ノ介像と、ケイがイメージする斐ノ・アキの関係にもひずみが生じた。
体を簀巻きにされたかのような息苦しさがケイの感情を尖らせていく。
ケイにだってキャラクターを芝居を持っていきたい方向性があったのに、トージは自身がこうありたい、あるべき暁に固執するばかりで、コンビであるところの斐ノ介や二人の関係をまったく顧みず、すべて強引に進めようとしていることに怒りすら湧いた。
少し考えればそんなはずはないとわかることなのに、この時期のケイは本気でそう思っていた。
…これでは芝居どころか、キャラクターそのものすら築けない。
個人としてもコンビとしても成り立たない。
稽古場でイライラが溜まっていく。
ケイがトージに対して。
トージがケイに対して。
相手が歩み寄ろうとしてくれないことに苛立つばかりで、自分からどうやって歩み寄ればいいのかという考え方は、どちらの頭にもなかった。
お互いが唯一無二の友人だからからこそ、敵対せざるを得ない悲哀と、それでもなお断固として信念を捨てず、義を貫く男たちの微妙で強靭な心の動きを見せなければならない。
設定だけを見ても人気が出ないわけのないキャラクターだ。
しかし一方で、演じ方をわずかでも間違えてしまえば、「感動を売りにしている」わざとらしさが漏れかねない、そういう難しい役でもある。演じる側には緻密で精確な芝居が求められた。
これまではどちらかといえば感覚で芝居をしてきたケイにとって、意図的に、細部までこだわってひとつの役を作り上げるという作業は、実は初めての経験であった。
同じくほぼ駆け出しの新人に等しいトージからすれば、暁は越えられない巨大な山のように眼前に鎮座していた。
アキのキャラクターはトージが役を自分に寄せたうえで、少なからず自身の理想を具現化させたものである。
初演の稽古のとき、ケイはアキの愚直なまでの真っ直ぐさを現実味がないと感じ、不器用な真面目さを作りすぎだとささやかな嫌悪感すら覚えたくらいだった。
そんなアキをバンッと目の前に提示されても、ケイとしてはにわかに受け入れがたい。もともと自分が向かおうとした斐ノ介像と、ケイがイメージする斐ノ・アキの関係にもひずみが生じた。
体を簀巻きにされたかのような息苦しさがケイの感情を尖らせていく。
ケイにだってキャラクターを芝居を持っていきたい方向性があったのに、トージは自身がこうありたい、あるべき暁に固執するばかりで、コンビであるところの斐ノ介や二人の関係をまったく顧みず、すべて強引に進めようとしていることに怒りすら湧いた。
少し考えればそんなはずはないとわかることなのに、この時期のケイは本気でそう思っていた。
…これでは芝居どころか、キャラクターそのものすら築けない。
個人としてもコンビとしても成り立たない。
稽古場でイライラが溜まっていく。
ケイがトージに対して。
トージがケイに対して。
相手が歩み寄ろうとしてくれないことに苛立つばかりで、自分からどうやって歩み寄ればいいのかという考え方は、どちらの頭にもなかった。
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