たそがれ色の恋心

空居アオ

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神戸公演編

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「嘘つかずに?」

 急がず急かさず、しかしケイは手綱を緩めることもなく畳みかける。

「つかずに」
「本当に?」
「本当に」
「全部?」
「全部」
「俺に嫌われても?」
「――たとえおまえに嫌われても、隠さずに話す」

 決心が鈍らないように勢いよくトージはベッドに起き上がり、姿勢を正した。
 じっと恋人を見つめる目は怖いくらい真剣で、ケイはたじろぐ心を隠したまま、同じく真剣な表情で体を起こした。

「おまえを傷つけた罰も受ける。俺はケイを傷つけるすべてのものを許さない。それが俺自身なら余計、許せない」

 腹を括ったトージは迷いも躊躇いもない。
 断罪の剣を自ら差し出す。
 振り下ろすのは、ケイの役目だ。

 ケイは、真っ直ぐ揺るがず自分の目を捉えてくる男を見つめ返す。
 しばらくすると、クスッと口もとを緩めた。

「なんかさ。前にも似たような会話をしてなかったっけ、俺たち」

 言われてみると、確かにそんなこともあった。
 そう遠くもない記憶は簡単にトージの脳裏によみがえる。
 あのときは立場が逆で、泣いていたのはケイだった。
 見ようによっては、自分も今、泣きそうに見えるのだろうか。
 あれからさほど時間が経っているわけでもないのに、なんだかひどく昔の出来事のように感じられた。

 ずっと、感情の起伏がひとりでに激しかったのは事実だ。
 あれこれ可笑しかったり、何かが憐れだったり、自暴自棄になったり、開き直ったつもりが完全に失敗したり……
 嘘をついたのではなく、自分を奮い立たせたかった。
 ポーズでもなく、自分を慰めたかった。
 嘲笑すらした。
 それなのに滑稽なことに、自分へ投げつけた様々な言葉は結局ただの言い訳にすぎなかった。
 棒読みされたセリフとなんら変わりはない。
 中身のない、骨組みだけが残る虚ろな文字の羅列だった。
 その結果、空虚な文字は内へ内へと自己完結を繰り返すことを助長したのである。

 もちろん、トージ自身は自業自得でしない。わかってる。たとえ1ミリであろうとも言い逃れはできない。
 しかし傷ついたのはケイだった。
 自分ではなく、ケイだ。
 これほど痛いことはない。
 トージは思い知った。

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