たそがれ色の恋心

空居アオ

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神戸公演編

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「………」
「………」
「ヒ――」
「トージのばか」
「ヒラン…」
「わかってるよね、トージ」
「………」
「ここまできたら、もう黙秘権はないからな」

 ケイの言葉の意味はわかっている。
 だけどそれと素直に頷くことができるかどうかは別問題のようで、トージは俯いたまま視線をさまよわせるばかりだった。

 深く懊悩する恋人の姿は正直、滑稽である。
 申し訳ないけど、くだらないと思う。
 でも、くだらなくて滑稽であるからこそ――愛おしい。

 ケイはトージにキスしたという衝動に突き動かされ、考えるまでもなく直感的に実行した。

 それは触れるだけ軽いものすぎなかったが、あまりにも突然だった。
 脈絡もなく、唐突だった。
 ケイの顔が離れても、トージは目を丸くしたまま呆気としていた。

 ――クスッ、とケイが笑う。
 ハッと我に返り、弾けるようにしてトージが体をひいた。
 その際ベッドの縁に足を取られ、そのまま倒れ込んだ。
 慌てて体を起こすも、もう一度定めた視線の先にあったのは、ケイのいたく傷つき、何やら恨めしげに拗ねている顔であった。

「ちょっと、トージ。それはないだろ?  その態度は俺に失礼じゃない?」

 言いながらケイもベッドに乗り上げてきた。
 反射的にトージは枕のほうへ逃げた。
 これではますますケイの口角が下がるばかりだ。


「おまえ」

 やっとのことでトージが口を開く。

「怒ったり、笑ったり、マジな顔したり…――い、いきなり、ンなことしたり、ヘンだぞ」
「そう?」
「……っていうか、なんでこっちに寄るんだ!」
「恋人に近づいて、何か問題ある?」

 ない。
 確かに、ない。
 しかし恋人である自分たちはついのついさっきまで、別れ話をしていなかっただろうか。
 もちろん本当は別れたくはないにしても……でも…だからって、このジェットコースターのような展開はなんなのだろう?
 おまけにどう考えても普通のジェットコースターよりも回転数が多いのは…気のせいだろうか?

 ……そんなことよりも、いつの間にか前方を向いていた視線の端に、ホテルの味気ない天井が見える。
 視界のほぼすべてを埋めるのは紛うことなき大好きな青年の顔――わりとアップだ。

 自分の上にのしかかるような格好になった年下の恋人は、ちょっぴり悪い顔でニヤニヤしている。
 ただでさえ身長で(一センチ)負けていることを(若干)気にしているのに、押し倒され、見下ろされるのは、はっきり言って気分がよくない。
 だから体勢を入れ替えようと、トージはベッドに肘をついた。
 が、ゆっくりと降りてきたケイの唇に、ふわり、再びベッドに沈んだ。
 今度のキスは軽いものではないが、だからといって官能を刺激するような熱がこもってもいない。
 ただやさしく、凝り固まったトージの体と心をほぐすように、ケイは繰り返し繰り返し、角度を変えて、強弱をつけて、唇を落としていった。

 トージとケイの場合、いわゆる女役はケイである。
 しかしケイも男であり、トージが特別という以外、性癖もいたってノーマルなのだ。
 好きな人間を目の前にして、脳裏を支配することはひとつ。
 ケイは唇を放し、にっこり微笑んだ。




「ねえ、トージ。このまま俺に抱かれなよ」







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