たそがれ色の恋心

空居アオ

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神戸公演編

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 さほど大きいとは言えない部屋に、嫌な沈黙が漂う。
 気が遠くなる。
 加えて中途半端に息苦しい。

 トージの頬が無意識にヒクリとひきつり、ケイの手がじんわりと汗ばんできた。

 嫌な沈黙。
 嫌な空気。
 ――埒があかない。
 このままでは自分も相手も動かない。動けない。

「わりぃ」

 己のうちで絶えず痙攣を繰り返す暗い熱を踏みつけて、トージが先に口を開いた。
 それはケイが何かを言いかけたのと同じタイミングだったが、視線をベッドの枕に定めているトージにはわかろうはずもなかった。

 ケイに顔を見られなくなかったのか。
 それともケイの顔を見られなかったのか。
 トージは自分の心の声に耳を傾ける余裕を失っていた。
 背中に突き刺さる恋人の視線が乱反射して、それをかき消し、奪い、さらには大海原に浮かぶただひとつの木片に縋りつくように、トージはそのまま自分自身を直視することを放棄した。



「今日はもう帰れ。俺ももう寝るから」

 振り向かず、どこか疲れを滲ませたかのような男の言葉は、乾いた部屋にむなしいほど綺麗に、潔いほど冷たく響く。
 どこまでが演技で、どこからが本音なのか、本人に推し量れるどれほどの誠意があっただろうか。
 理解できないものは、たとえそれが自分の気持ちであっても、無視することを選択した。
 これは決して逃避じゃないよ、と、やさしい猫撫で声が耳を掠めた。

 今は――だって――とにかく一人になりたい。
 違う。
 ケイと一緒にいたくない。
 このままではどんなことでも仕出かしてしまいそうな予感がする。
 それは憐れなほど凶暴な衝動であり、笑い飛ばしてしまうほど脆弱な自己防衛であった。


 トージはギュッと目を瞑る。
 頼むから部屋に帰ってくれと心の中で恋人に懇願し、こんな俺はもう見捨ててくれと、ケイが絶対にしないことを卑怯にも願った。
 そうしてそんな自分に、トージはまた傷つくのだった。


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