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神戸公演編
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しおりを挟む意識して、トージはもう一歩、確実に後退した。
先年からダンスを本格的に習い始めたおかげで、滑らかな動きだった。
「トージ!」
ケイの意志を無視した形で手からトージの裾が離れ、代わりに声が追いかけてきた。
「ごめん。俺ちょっとナーバスになってるみたい」
恋人に背中を向け、努めて明るく、そしてちょっぴり情けない声を作ってみせる。
もちろんそれで騙されるケイではない。
いみじくもトージが自覚しているとおり、演技に関してはケイのほうが上手だった。
「じゃ、こっち見てよ」
「………」
「トージ」
心臓の鼓動がそのまま時間を刻む音でもある。
この状況でとっさに適切な言葉を見つけられないことにケイは焦りつつも、トージが振り向いてくれるのを期待した。
自分から近づいていけばいいのに、それができない。
トージの背中がケイを拒絶しているからだ。
理不尽じゃないか。
湧き上がった気持ちに泣きたくなった。
でもケイは堪える。
だって堪えるのは簡単だ。
演技だと思えばいいのだから。
それくらいケイにはわけない。
だけど、本当は、トージ絡みでそれがまともに成功したことなど、数えるほどしかない。
誰か一人をそこまで想えることは誇らしいのに、今はとにかくもどかしい。
もしこの場面でケイが泣いてしまうと、間違いなくトージに丸め込まれ、誤魔化される。
そんな事態に陥ることは避けなければならなかった。
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