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神戸公演編
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しおりを挟むケイの顔じゅうに戸惑いの雲が立ち込める。
トージがわからない。
なんでこんな表情をするか。
なんで至近距離にもかかわらず、何もしないのか。
振り返ってみる。
みんなが楽しくゲームをしていた。
トージはその輪に加わらず、でもみんなと――ケイと同じ空間にいてくれる。
これはいつものことだった。
一人勝手に何かをしすぎることもなければ、といって輪を保つためにあえて自分自身を曲げてまで他人に合わせることもしない。
ゲームには興味ないけど、みんなの近くにはいてくれる。
本や雑誌を広げたり、スマホで調べものをしたり。うるさいと思わないのか、一番よくしているのは台本を読むことだった。
ケイにはそれが嬉しかった。
幼少の頃から大人の中に混じって仕事してきたため、彼の物事の捉え方は平均的な二十歳の青年とは、少し違っていたりするところがある。
特に恋愛方面がそうだ。
たとえば、恋人同士だからといって、何もかもを共有する必要はないと思っているし、また相手が何をしているのか、過剰に気になることもない。
なんでもかんでもくっついていなければ気持ちがない――気持ちを確かめられないなんて、そんな蜂蜜よりも甘ったるい思考や行動は、付き合いたての恋人同士にだけ許されること。
少なくともケイはそう思っているし、そういうふうに振る舞っている。
だからあの手この手でこちらの挙動を知ろうとする恋人の存在が煩わしく、以前はそれで彼女に冷たいとレッテルを貼られたことがあった。
――自分はひょっとして本当の恋愛をしたことがないのかもしれない。
これまでの彼女もちゃんと好きじゃなかったのかもしれない。
そう悩んだことだってあった。
だけど違った。
トージに対しても同じだったのだ。
トージのことは過去の彼女たちとは比べられないくらい大好きだけど、付き合うことに対する姿勢は変わらない。
変わらず「冷め」ている。
くっついているときは気持ち悪いくらいくっついている。
といって離れていてもあんまり気にならない。
トージも同じだった。
ときどき「俺はペットか?」とケイがうんざりするほどの構い方をしてくるのに、仕事が立て込んでくると笑っちゃうほど放置される。
これは明らかに役者という職業のせいだった。
二人とも役者だからこそ、強いて語り合う必要がなく、相手のスタイルを空気で感じ、肌で理解し、結果、無理をすることなく付き合うことができた。
最初からピッタリ合っていたのだ、ケイとトージは。
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