たそがれ色の恋心

空居アオ

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東京公演編

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 そういえば…と思い出して、トージは寝転がると同時にベッドに放り出したカバンを引き寄せる。
 スマホを探り当て、お気に入りからケイのブログに飛ぶ。
 開いたページは今日のではなく、数日前に更新されたもの。
 その日はケイと帰りが一緒だったので、楽屋口前で写真を撮り、ケイがブログに上げた。
 2ショットをブログに上げたのはちょっとぶりだった。
 ファンも喜んでくれたし、何よりも自分たちが一番嬉しかった。

 トージはしばらくスマホの画面をじっと見つめた。
 笑っているケイと自分がいる。
 その日のケイの日記を読む。
 真摯な言葉が綴られている中、照れ隠しも見え隠れする文面。
 これを読んで勘ぐる奴はいないが、一部の女性が喜んで飛びつきそうな内容かもしれない。
 いわゆるBLというヤツだ。
 トージにはその辺のことはさっぱりわからないが、事務所の先輩が主演を務めたBL映画のDVDなら見せてもらったことがある。

 そこまで考えたら、どうにもちょっとおかしくなって、トージのスマホは主の手よりシーツの上に滑り落ちた。
 自分とケイはBLじゃない。
 同性愛だ。
 リアルであって、物語じゃない。
 先輩の映画は性別を別にしても、共感できる部分があったし、とてもいい話だった。

 じゃあ自分たちは?
 これは「いい話」?

 リアルはときとして物語よりも残酷で、物語ほどには美しくならない。
 それがトージの選んだ道であり、ケイに選ばせた道であった。

 二人の始まりはトージの告白からになる。
 結果としてケイも同じ気持ちだったとはいえ、巻き込んだのは自分だとトージは思っている。
 あのとき、自分はすでに成人している大人で、ケイは未成年だった。
 今でもそこに負い目を感じると言えば、きっとケイは怒るだろう。
 しかし、こればかりは仕方がない。
 トージという人間はそういうふうにできているのだから。

 もし逆の立場だったらケイはどう思っただろう。

 トージは枕を引き寄せ、うつぶせになる。
 いくらも考えないうちに、クツクツと喉を鳴らす。
 ifなんてくだらない。
 人生に「もしも」なんて存在しえない。
 すでに起こったことは、起こるべくして起こった唯一のことなのだ。
 それなのにケイのこととなると、たとえどんなことでも考えてしまう。
 確かに苦しいこともしんどいこともたくさんある。
 現在進行形でイライラしている。
 でもそんな感情すべては、ケイが好き、という疑いようの真理の上に成り立っていた。
 苦しむのもしんどくなるのも、悩むのも落ち込むのも、トージの勝手だ。
 ましてや嫉妬など、ケイの預かり知らぬこと。

 ――それはとても良い・・結論ではあるが、逆に言えばあたりまえすぎて、解決の決め手にはならないのだ。

 トージはベッドから身を起こす。
 重い足取りでバスルームに向う。
 今日も今日とて気分は晴れることがなかった。





 明日、東京公演は千秋楽を迎える。
 そしてカンパニーは地方公演に出る準備をしなければならなかった。










~東京公演編 終~

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