14 / 63
東京公演編
-14-
しおりを挟むタカヤはケイの稽古場に向かっていた。
事務所から、今後のために見学しておいたほうがいいと言われた――のが建前。
本音は、どうやら仕事の都合で東京公演を観に行けそうにないので、せめて稽古だけでもケイの顔を見に行こうということだった。
そして。今日になってケイが足を怪我したと聞いた。
怪我といっても軽く捻っただけで、通常どおり稽古に参加しているらしく、舞台自体にもさほど影響がないそうな。
それでもタカヤはちょっぴり心配してしまう。
一緒にいるときはいつもにふざけ合ったり、騒いだりするケイだが、仕事に対してどれほど真剣で貪欲か、よく知っている。
たとえささやかな怪我だとしても、ケイが今どんなにか悔しい思いをしているのか、これもタカヤには簡単に想像できた。
ケイから怪我をしたという連絡はない。
なくてあたりまえだ。
自分がケイの立場でも、そんなことくらいでいちいち連絡したりしない。
だから――ならば直接顔を見に行くまでだ。
タカヤはエレベーターを降り、左右を見回す。初めての場所だが、すぐに案内図を見つけ、稽古場の位置を確認する。
そこへふと、ヒランという単語が耳にかすめた。
休憩中でもないようだし、一瞬気のせいかと思ったが、続けてケイの声でトージと呼ぶのが聞こえた。二人でセリフ合わせをしているのだろう。
事務所を通して許可を得ているとはいえ、部外者が稽古を見学するのはやはりどこか気が引ける。
先にケイに会えるなら、いくらか稽古場にも入りやすくなるだろう。
タカヤは声のほうに足を向けた。
それにしてもセリフ合わせだというのに、ケイも吾妻統司も声を抑えすぎである。話し声は聞こえるのに、何を言っているのかさっぱり聞き取れない。周りを気遣っているにしても、これじゃ稽古にならないのに…
このカンパニーではこれが普通なのだろうか?
そんなことを考えているタカヤの耳に、今度は信じられないひと言が飛び込んできた。
トージのバカ。
これだけやけにはっきりと聞き取れて、タカヤは目を丸くした。
ひょっとして、ただごとじゃない状況なのか。
まさか初日を目前にして、今さら喧嘩?
…でも本当に喧嘩なら仲裁してやらないと。
どこまでも兄貴肌のタカヤは急いだ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
馬鹿な先輩と後輩くん
ぽぽ
BL
美形新人×平凡上司
新人の教育係を任された主人公。しかし彼は自分が教える事も必要が無いほど完璧だった。だけど愛想は悪い。一方、主人公は愛想は良いがミスばかりをする。そんな凸凹な二人の話。
━━━━━━━━━━━━━━━
作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。
本来は二次創作にて登場させたモブでしたが余りにもタイプだったのでモブルートを書いた所ただの創作BLになってました。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
とある隠密の受難
nionea
BL
普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。
銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密
果たして隠密は無事貞操を守れるのか。
頑張れ隠密。
負けるな隠密。
読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。
※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。
道の途中
阿沙🌷
BL
新人俳優の新崎迅人は、多忙と野望のため、思いを寄せる人・千尋崇彦となかなか会えない毎日を送っていた。そんななか、どっきり企画のオファーを受けた街中のロケ中に千尋の姿を見つける。きっと自分の存在に気付いてもらえるはず、そう思ったのだが――。
✿一次創作BL版深夜の真剣一本勝負さんよりお題『赤い耳/「ちょっとくらいは気付けよ」をお借りして制作したものです。
✿前作「delete=number」役者くん×日曜脚本家さん
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる