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第3話
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振り向いたリュシアンの顔は、意外にも冷静で穏やかだった。
微かに笑みすら湛えている口もとは、神父に向けてさらに何か言いたげだったが、実際にはより多く言葉を紡ぐことをしなかった。
ふわりと夜風が神父の髪を撫でる。
月光を浴びて、一層冴え冴えと冷たい輝きを放つその一本一本が、ダンピールの心を惑わした。
「やっぱあんた、人間じゃねえな」
空気を突き破るようにして口を開いたかと思えば、神父はそんなことを言う。
リュシアンはおかしそうに喉を鳴らした。
やっぱり、ということは、こちらを見抜いていたらしい。
違和感だらけの胡散臭い神父だとは思っていたが、なかなか鋭い感性を持っているようだ。
そのうえ面と向かって確信の確認をとってくるなんて、たいした度胸ではないか。
さすが聖職者(規格外だろうとも)
これではますます欲しくなる。
これ以上求めさせるなんて、どうしろと言うのだ。
リュシアンは手を伸ばす。
「だとすればどうするのです」
カサリ。
神父が一歩進み出る。
なんの気負いもないのんびりとした足取りで人外生物に近づく。
左手が持ち上がり、その中にあるものが月の光を受けて姿を現す。
銃だった。
「どうして欲しい」
わずかなずれもなく急所へと定められた銃口を見て、ああ、とリュシアンは納得する。
きっとあの中にある弾は銀製だ。
リュシアンの牙がこの神父の首に埋まることが真理であるのと同じように、神父の弾丸もまたリュシアンの心臓を貫くことが運命である。
彼ならばそう考える。
自分と同じ感じ方をし、考え方をする。
この事実のなんと官能的であることか。
ダンピールの内臓がゾクゾクと震えた。
「あなたが欲しい」
「やけに情熱的なヴァンパイアだな」
演技なのか本気なのか、神父は目を丸くする。
「あなたは勘違いをしています」
「……?」
「私はヴァンパイアではありません」
「俺が欲しいって言ったの、嘘か」
「あなたこそ何を言うのです。そんなに私のものになりたいのですか」
神父が笑った。
クツクツともれる笑声は、やがて収まりきれず、大きく夜空に散布された。
「ああ、そうだ。ただし、俺があんたのモンになるんじゃねえ。あんたが俺のモンになるんだ」
言うや否や、神父は銃の引き金を引く。
サイレンサーつきの武器から出るくぐもった音が、なんとも間抜けに聞こえる。
撃鉄をあげる音がしなかったので、つまりは最初から外したまま持っていたことになる。
鉄の筒より目にも止まらぬ速さで弾き出された小さな銀製の凶器は、至近距離であるにもかかわらず、ダンピールの心臓を貫くことができなかった。
人外生物は人外生物らしく、弾丸以上のスピードで、己を狙う凶器を難なくかわしたのである。
「ま、そらーそうだな」
神父は首にまとわりつく髪を払う。
一発で仕留められなかった悔しさはない。
むしろ避けられたことを当然だと思っている様子だった。
「残念ですね。私はとてもあなたが欲しいのに、あなたがこうもつれないとは」
「こっちのセリフだ。素直に俺のモンになれよ」
「そこは妥協して欲しいところですが」
「無理な相談だ」
「本当に、つれない方です」
言いながらリュシアンは跳ぶ。
神父目掛けて振り下ろされた爪が数センチほど伸びていて、月光に反射してキラリと鋭く光った。
人間より遥かに優れた身体能力をもつ魔物の攻撃である。
当然、仕留められないとは考えられない――考えていない。
ところがこちらもまた信じ難いことに、神父はその爪をかわした。
人間ならばとうていかわせないはずなのに。
どんなに訓練を積んだとしても、人間である限りかわすことのできないスピードであったのに、風変わりな神父はそれをやってのけた。
リュシアンの目は驚愕で見開かれる。
そんなばかなと、手を振り下ろした姿勢のまま、呆然と僧衣の男を見上げた。
微かに笑みすら湛えている口もとは、神父に向けてさらに何か言いたげだったが、実際にはより多く言葉を紡ぐことをしなかった。
ふわりと夜風が神父の髪を撫でる。
月光を浴びて、一層冴え冴えと冷たい輝きを放つその一本一本が、ダンピールの心を惑わした。
「やっぱあんた、人間じゃねえな」
空気を突き破るようにして口を開いたかと思えば、神父はそんなことを言う。
リュシアンはおかしそうに喉を鳴らした。
やっぱり、ということは、こちらを見抜いていたらしい。
違和感だらけの胡散臭い神父だとは思っていたが、なかなか鋭い感性を持っているようだ。
そのうえ面と向かって確信の確認をとってくるなんて、たいした度胸ではないか。
さすが聖職者(規格外だろうとも)
これではますます欲しくなる。
これ以上求めさせるなんて、どうしろと言うのだ。
リュシアンは手を伸ばす。
「だとすればどうするのです」
カサリ。
神父が一歩進み出る。
なんの気負いもないのんびりとした足取りで人外生物に近づく。
左手が持ち上がり、その中にあるものが月の光を受けて姿を現す。
銃だった。
「どうして欲しい」
わずかなずれもなく急所へと定められた銃口を見て、ああ、とリュシアンは納得する。
きっとあの中にある弾は銀製だ。
リュシアンの牙がこの神父の首に埋まることが真理であるのと同じように、神父の弾丸もまたリュシアンの心臓を貫くことが運命である。
彼ならばそう考える。
自分と同じ感じ方をし、考え方をする。
この事実のなんと官能的であることか。
ダンピールの内臓がゾクゾクと震えた。
「あなたが欲しい」
「やけに情熱的なヴァンパイアだな」
演技なのか本気なのか、神父は目を丸くする。
「あなたは勘違いをしています」
「……?」
「私はヴァンパイアではありません」
「俺が欲しいって言ったの、嘘か」
「あなたこそ何を言うのです。そんなに私のものになりたいのですか」
神父が笑った。
クツクツともれる笑声は、やがて収まりきれず、大きく夜空に散布された。
「ああ、そうだ。ただし、俺があんたのモンになるんじゃねえ。あんたが俺のモンになるんだ」
言うや否や、神父は銃の引き金を引く。
サイレンサーつきの武器から出るくぐもった音が、なんとも間抜けに聞こえる。
撃鉄をあげる音がしなかったので、つまりは最初から外したまま持っていたことになる。
鉄の筒より目にも止まらぬ速さで弾き出された小さな銀製の凶器は、至近距離であるにもかかわらず、ダンピールの心臓を貫くことができなかった。
人外生物は人外生物らしく、弾丸以上のスピードで、己を狙う凶器を難なくかわしたのである。
「ま、そらーそうだな」
神父は首にまとわりつく髪を払う。
一発で仕留められなかった悔しさはない。
むしろ避けられたことを当然だと思っている様子だった。
「残念ですね。私はとてもあなたが欲しいのに、あなたがこうもつれないとは」
「こっちのセリフだ。素直に俺のモンになれよ」
「そこは妥協して欲しいところですが」
「無理な相談だ」
「本当に、つれない方です」
言いながらリュシアンは跳ぶ。
神父目掛けて振り下ろされた爪が数センチほど伸びていて、月光に反射してキラリと鋭く光った。
人間より遥かに優れた身体能力をもつ魔物の攻撃である。
当然、仕留められないとは考えられない――考えていない。
ところがこちらもまた信じ難いことに、神父はその爪をかわした。
人間ならばとうていかわせないはずなのに。
どんなに訓練を積んだとしても、人間である限りかわすことのできないスピードであったのに、風変わりな神父はそれをやってのけた。
リュシアンの目は驚愕で見開かれる。
そんなばかなと、手を振り下ろした姿勢のまま、呆然と僧衣の男を見上げた。
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