4月の恋

太郎月

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後編

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ゲンさんが指定した日は近過ぎて、その間に春風さんと2人で会う事も出来なかった。電話なんてした事ないし、デートの約束以外ではメッセージのやり取りもしてなかったから、俺は何のアクションも起こせないまま、当日を迎えてしまった。

最後だからと姉貴が張り切って、メイクも服も用意した。

マスタード色のチェックシャツ、腹が見えそうな丈の短い黒シャツ(もう首を隠す気もない)、黒いプリーツスカート、網タイツとブーツ。

こんな格好とも、これで最後。それは良いことのはずなのに、俺は何だか気分が晴れない。

ゲンさんは綺麗な女性を連れて来た。ブルーのライダースジャケットに体のラインが分かる真っ黒なワンピース、俺と同じ網タイツにヒールブーツで、本当に系統が似てるんだと思った。

向こうも俺を見て驚いていた。

でも圧倒的に違う所がある。黒くて長い髪と、豊かな胸元だ。彼女もそう思ったのだろう、少しだけ優越感を見せて笑った。

俺達は駅構内にあるコーヒーショップで待ち合わせした。俺は飲めもしないブラックのアイスコーヒーを選んで、向かいで話す2人の会話を黙って聞いていた。

何でも、彼女は春風さんにすごく興味があるらしい。

「あ、来た。ハル、こっち」

「えー、遠目で見た時よりずっとかっこいいじゃん」

ゲンさんと彼女の視線が俺の背後に向けられた。俺は振り向けなかった。近付いてくる足音が止まる。

空席の後ろで春風さんは立っている。きっと彼女を見ている。

「コイツ、アリサ。俺の友達なんだけど、彼氏と別れたばっかで暇してたから連れて来た。今日は4人で遊ぼうぜ」

「お前ってなんでいつも急なの」

春風さんの声が不機嫌だ。

「えー、いいじゃん。可愛いだろ?」

「まあ、可愛いけど」

その言葉に頭をぶん殴られる気分になった。不機嫌なのに、初対面の女性なのに、可愛いっていきなり言うなんて。

俺の知ってる春風さんなら、言わない。

アリサさんは満更でもなさそうに微笑んだ。言われ慣れてるそんな空気を感じる。

2人ともどこか余裕のある大人で、並んだらめちゃくちゃお似合いの良いカップルになるんだろうなと、ぼんやり考えた。

「でも、別に4人で遊ぶ必要ねぇだろ。俺、サクラちゃんと2人で遊ぶからお前らも2人で遊べよ。じゃあな」

春風さんはそう言うと、俺の手を取った。驚いて顔を上げると「行こう」と声を掛けられる。不機嫌さなんて微塵もない優しい声。俺は引かれるままに立ち上がり、強く握られた手に付いていく。

「い、いや!!ハル、待って…!そ、そいつ、ホントは男なんだよ!だから!」

店内に響く声でゲンさんが言った。店内は静かになって、周囲の目線が集まる。俺は恥ずかしくて顔が赤くなるのが分かった。無遠慮な視線に晒されたくない。

春風さんの腕が俺の顔を隠すように肩に回った。抱き寄せられる。春風さんは振り返った。


「知ってるよ。でも俺、サクラちゃんと会えて良かったって思ってるから。性別とかどうでも良い」


吹き抜けて行く暖かな風のように、春風さんの声が俺の心臓を撫でていく。息が詰まる。幸せな閉塞感。

「え!?」

ゲンさんの驚いた声が静かな店内に響く。

「行こう、サクラちゃん」

「……うん…!」

春風さんは視線も戸惑いも全部気にしないで、俺だけに微笑んでくれる。優しい肩の重みに甘えるように寄り添って、軽くなった足取りで店の外に向かう。

「ありがとな、良い子紹介してくれて」

最後にゲンさんに向かって春風さんは朗らかに言って、俺達は手を繋いだまま足早に店を後にした。




「あはは!あー、アイツの顔おもろ。見た?」

珍しく春風さんが大笑いしている。俺達は駅前から離れて、人気の少ない広場に歩いて来た。
離せなくて、離したくなくて、繋いだままの手を、俺は強く握り締めた。

「……見てませんでした…春風さんしか、見てなかったから」

「……え…あ、そう?…そっか。そうだな、アイツは見ても面白くないから」

春風さんは驚いたように目を見開いた後、すぐに照れ臭そうに言った。俺は思わず「はは」と笑って、笑った吐息をゆっくりと収束させる。

「春風さん、俺…」

「うん?」

俺は足を止めた、一歩進んだ春風さんが振り返る。かっこいい人だなとやっぱり思った。

「……俺も春風さんと会えてよかったって、思ってます。…ほんとに…出会い、最悪なのに…もうずっと優しいし…」

「ほんと?サクラちゃんも俺と同じ気持ちなら嬉しいよ」

繋いだ手を離さないでくれるのは、どんな意味があるんだろう。俺は更に強く握った。それでも春風さんの大きく力強い手には敵わない。春風さんの指の力も、温度も、何も変わらない。



「……同じじゃないです」



良くも悪くも、変わらない。きっと俺が貴方に及ぼせる影響なんてないんだと思わせる程に、貴方は変わらない。

「えっ!?」

そう思ってたのに、驚いた春風さんの顔は初めて見たから、心が少しだけ落ち着いた。そしてもっと、春風さんを揺さぶりたくなった。


「俺の方が、もっと重いです。本気で俺、春風さんが好きだから」


風が抜けて行く。日差しは暖かいのに風はまだ寒かった。慣れたと思った網タイツはやっぱりまだ寒い。

「…………あー…」

失敗した。でも、後悔はない。自分の心に、やっと素直になれたから。

「…すんません、急に。男にこんな風に思ったの、初めてなんで…どうすれば良いか、俺も分かんなくて…気持ち悪いこと言って、すんません…」

「いや、気持ち悪くねぇよ。俺も好きだし」

「…………え?」

あまりにもサラッと言われて、俺は聞き間違いかと思った。

「…サクラちゃん、かっこいいな。俺は言えなくてモダモダしてたのに。その上、めちゃくちゃ可愛いとか、すげぇな」

「い、いや、誰の話してます?俺、そんな可愛くもかっこよくもないですよ!」

「サクラちゃんの話しかしてない。かっこいいよ、可愛くて、かっこいい。最初は、なんでこれで女じゃねぇのって悔しいくらいだった」

「………っ」

「でもさっき、アイツが連れて来た女見て、あ、違ぇなって思った。女とか男じゃなくて……サクラちゃんと、2人が良いと思ったんだ。俺、サクラちゃんといると自然と笑っちゃうんだよな」

「……俺も、春風さんと2人が良いです。俺、春風さんが笑った顔が、めちゃくちゃ好きで。笑ってくれると、すげぇ幸せな気分になれて」

「………うん」

「だから、俺にだけ笑って欲しい。俺だけのものにしたい。春風さんと、ずっと一緒に居たい」

言いながら、こんなガキみたいな独占欲を持つ俺は、やっぱりかっこよくも可愛くもないと思った。

「……サクラちゃん」

離れていた一歩。春風さんが戻って来る。

「キスしたい、良い?」

人気が少ないと言っても誰がどこで見てるか分からない。でも俺は、頷いた。その唇に覆われたいと思った。

春風さんは遠慮なく、少し痛いくらいに腰を抱き寄せた。重なる唇も強くて息まで奪われる。舌なんて入れてない、唇同士の吸い合いなのに、今まで感じたことのない激しい滾りを腹の底で感じていた。

「……サクラちゃん、俺の恋人になって欲しい」

唇を少し浮かせて囁くように春風さんが言った。吐息が吹き込まれるような言葉は、じわりと心まで染み込んだ。

「…ん、なる」

間を置かず、春風さんの唇に口を塞がれる。啄み合うだけのキスがもどかしくて、俺から舌を出して唇を舐めてみた。そしたら春風さんがバッと口を離した。

舌はダメなのか。

「……ごめんなさい、俺、がっついて…」

「いや、…違う。サクラちゃん、場所変えよう」

「…あ、…はい、そ、ですね」

キスしてる内に外と言う事を忘れていた。俺は多分真っ赤になった。

「……あー…頼むからその顔、他の奴に見せないでね」

頬へ口付けながら春風さんが呟いた。

「可愛過ぎるから」

ぶっきらぼうな声。春風さんこそ、そんな顔他の人に見せないでと言いたくなるくらい、何かを堪えるように赤らんだ顔が可愛かった。

俺達は自然と歩き出す。いや、殆ど走ってた。

.
.
.

日も暮れてない内にホテルに入ったのは初めてだった。
部屋に入ってすぐ、唇を奪われたのも。

「ん…っ…」

春風さんの大きな手が腰を強く抱く。俺は首から手を回して抱き返した。

春風さんは舌も大きい気がした。招き入れるように開いていた唇を、更に抉じ開けるような動き。ぬるりと入り込む熱が口の中をみっしりと満たす。俺は吐息を懸命に逃しながら、その舌を舐め返す。舌と舌が擦れ合う度に産まれる疼きが、下半身に蓄積していく。

「…ん…んっ…ぁっ…」

春風さんは口を離さないまま、上着を脱ぎ捨てた。その動作だけで俺の身体はゾクゾクと震える。これから起こる事への期待感だろうか。春風さんの手が、今度は俺の上着代わりのチェックシャツを引っ張った。脱がしたいんだと伝わって来て、俺は鼓動を早めながら手を下ろし、剥ぎ取られるシャツから腕を抜いた。

口からずっとぬるついた音を立てながら。

その音が止まったのは、春風さんに押し倒されてからだ。覆い被さっていた春風さんが濡れた口を軽く拭いつつ、俺を見下ろして来る。
俺はあまりにも激しいキスに、それだけで全身の熱が昂っていて、ハアハアと呼吸を荒くしてぼんやりしてしまう。俺の濡れた口元も、春風さんがそっと拭ってくれた。

「……サクラちゃん、確認なんだけど。…俺が抱く側で良い?」

「…………はい?」

俺は思わず聞き返した。この流れで、確認する事なのかなと。

「いや、万が一にでも、サクラちゃんが、抱く側を希望してたらと思って」

「……俺が抱く側を希望したら、春風さん抱かれるんですか…?」

「………………サクラちゃんが、どうしても、…どうしても、そっちじゃないとダメなら…」

唸るような声で絞り出された。不本意も不本意なのだろうけど、そんな事言って俺が悲しまないようにと思ってるのだろう。思わず笑みが溢れる。

「………優し」

「好きな子の為なら、覚悟決めるよ…俺も…」

「あはは」

尻を差し出す覚悟だと思うと笑ってしまう。俺が1人で笑う姿を、春風さんは少し拗ねるように見ていた。そんな顔も見せてくれるんだ。俺は嬉しくて、くすぐったくて、笑いを収めると春風さんの頬に触れた。

「じゃあ…俺、我儘言っても良いですか?」

「……どうぞ」

「…春風さんに抱かれたい、です」

春風さんに再び唇を奪われた。押し込まれた舌を吸いながら、俺を閉じ込める春風さんの逞しい腕に触れる。俺とは本当に全然違う。そんな俺の薄っぺらい腹は捲れ上がったTシャツの裾から丸見えになってる。春風さんの片手が、その腹を撫でた。

「…ふ…っ…!」

大きな手から伝わる温度。肌が冷えていたのか、熱くて、その熱が溶け込んでくると腰がぞわぞわした。
音を立てて口を離し、春風さんが身をズラす。
更に捲り上げられたシャツに、晒された胸元。肉なんかついてない。俺は春風さんが萎えるんじゃねぇかって不安で、そんな事ありませんようにって祈るように彼を見詰めるしか出来ない。

「……ん…っ」

春風さんの舌が乳首を舐めた。赤い舌が先端で弾いてくる。俺は全身が更に熱くなる。

「…は、春風さん、舐めんのは……」

「ん?いや?」

「イヤとかじゃ……風呂も、入ってないし…」

なんだか恥ずかしいのだ。舌が引いた。俺は少し安心していたのだけど、今度は吸いつかれた。

「え…ッ…!」

戸惑う俺の顔を見上げてくる、春風さんの目は優しく細められたけど、少しギラついて見えた。硬くて小さい胸なんて吸っても面白くないだろうに、春風さんはちゅうちゅうと強めに吸っている。

(赤ちゃんみたいだ)

なんて考えて、春風さんの頭を撫でる。

「………っ…ん…!」

軽く乳首を甘噛みされ、少しだけピリピリとした刺激を覚えた。そのまま口の中で突かれたり、舐められたりする内に、刺激は少しずつ大きくなる。

それはむず痒く、もどかしい。

「乳首、あんま好きじゃない?」

口が離れて、指で捏ねられる。春風さんの問い掛けに俺は頭を振る。

「わ、分かんない…触られたこと、ないから…」

「いや?」

「いやじゃない……もっと…して、欲しいです…」

春風さんの指や舌で与えられる、このじわじわと広がるような快感は程良くて、離れると寂しくさえ感じた。ごくっ…と喉を鳴らす音が聞こえた気がする。恥ずかしくて見れなかった春風さんの顔を見上げると、さっきよりギラギラとした目付きになっているような気がする。

「……じゃあ、上、脱がして良い?」

「あ…はい」

裾を握る春風さんに合わせ、俺は軽く身体を浮かせた。頭から抜かれたシャツから腕を抜く。上から春風さんがまたキスして来た。

「ん…っ……ん、あ…」

キスは唇から顎、首へと下がって行く。俺は唇が触れる所から疼くように、情けなく甘えた声が漏れて恥ずかしくなり、口を手の甲で隠した。
どんどん下がる口付けは、ついにウエストまで来た。春風さんの顔を追いかけていた視界に、スカートに出来た山が入り込む。勃起している。

春風さんの顔が浮いた隙に、サッとスカートを押さえるように手で山を隠した。男の部分を見られて、萎えさせたくない。

「……下、触られんのイヤ?」

「あ、う、ちが…」

頭を振るが手は退けられなかった。春風さんは身を起こし、腰を挟むように両手をスカートの下に突っ込んだ。

「破ったらごめんな、弁償する」

そう言って網タイツを引っ張り、下着のボクサーパンツごと脱がそうとする。少し乱暴な動きには余裕がなくて、俺の身体が下にズレる程だった。
脱がされても俺はスカートの前から手を退けられない。春風さんは何も言わず、俺の膝を持ち上げて、唇を這わせた。

「んっ…!」

「サクラちゃんの生足、ずっと見たかったんだよ。スラッとしてて綺麗で…男の脚と思えねぇな」

唇で何度も膝から内腿にかけてキスされて、舌まで這うから、駆け上ってくる疼きに俺は身を震わせた。足をさりげなく開かされ、片手を差し込まれた事に気付いたのは、他人に触れられた事のない後ろの蕾に指が触れた時だった。

「ひ……っ…!」

ヒタリと触れる指は湿ってるようだった。何かを塗りつけるように襞を撫でられ、俺は快感よりも緊張感を強く覚えた。

春風さんが強張った俺に気付いて、手はそのままで横に座り、優しくキスしてくれる。

「……無理そうなら無理って言ってな」

「…っ、…だ、大丈夫です」

俺は更に睾丸も持ち上げるように掴んで隠しつつ、頷いた。春風さんの指に恥ずかしい所を触られてると言うのは、羞恥と共に興奮も感じた。

「あ…ん…っ…」

指が入り込んでくる、俺は出来るだけ開こうとしてみるが、それ以上に指が太く感じて押し広げられる感覚がした。気持ちいいとか分からない。それでも春風さんと深く繋がりたい。その一心で集中していると、再びキスされた。

「ん……っ…あふ…ぁ…っ」

舌を伸ばして食べ合うように吸い合う。口付けに意識を向けている内に、指がどんどん奥に進んでくる。ゆっくりと抽送が始まって、襞が指を締め付けた。

「は、っ…あ…っ…ゆ、指、入り、ました…?」

「入った。ほら、根本まで。分かる?」

顔を浮かせて春風さんが笑った。臀部に春風さんの手の感触、そして深くを擽る指先の動き。俺は嬉しくて、へらりと微笑んだ。

「う、うれし…これで、春風さんの、いれれるね」

その瞬間、春風さんの頬にビキッと血管が浮いた気がした。そして奥歯を噛み締めるような顔。俺は途端に胸がざわついた。

「…あ、俺、変なこと言っ………ッッ!!」

「……俺ね、余裕ないから、あんま煽んな。頼むから」

ぐちっと体内で音がした。その音は止まらず、実際に耳に聞こえるようになって来た。乱暴じゃないけど強くなった刺激。解されるように中を掻き回す指が、ある一点に触れた瞬間、腰が跳ねた。

「あッッ!……ッ??」

「きた?…ここか」

「…あッ!…な、なに、なんか変ッ…!」

内側からペニスに電撃が走るような、押される度に射精感が込み上げて来て、今までとは段違いの快感に声が上擦る。

「これ、前立腺。多分。俺も触るのは初めてだからな…どう?気持ちいい?」

「んっ…あっ…わか、わかんなッ…あ、あ、やだ、なんか、イキ、イキそ……ッ」

「あー…そう、そんなイイんだ。良かった」

「やッ…でも、イケな…イケない…ッ…あ、あッ!」

春風さんの笑う吐息にもゾワゾワした。シーツを踵で蹴るけど、込み上げてくる射精感が逃せない。我慢出来ずに膝を閉じたけど、春風さんの指は容赦なく弱い所を音を立てて掻き回す。

「な、この手、退けて」

春風さん側にある腕を口付けられた。俺は片手だけ外すと、春風さんは乳首に吸い付いて来た。

「あ、ぁん…ッ…!あッ、やば…ッ…春風さ…ッ…!」

温かくてぬるついた熱に包まれた乳首から、じわりと快感が伝わる。中が解れたのか、少し楽になったと思ったら、再び押し広げられる感覚に埋まる。指を増やされたんだ。

音がひどくなって、刺激も強くなって、俺は堪らず、スカートを押さえていた手で、勃起したそれを軽く扱いてしまった。

「あッ!」

そしたらもう歯止めが効かなくなった。春風さんに乳首を舐められながら、後ろを指で解して貰う。その間、夢中で前を扱いた。

「んっ……!あっ…!ふっ…あッ!!」
(気持ちいい、気持ちいい、後ろ擦れんのやばい…イク、イクイクッ…イ、くッ…!!)

スカートで押さえ込んで射精を受け止める。先走りで濡れてた部分が、更にぬるぬるとした粘液を染み出す。
指が抜かれ、ヒクヒクと後ろが勝手に動くのが分かった。ドンドンと胸を叩く心臓がうるさい。呼吸を懸命に繰り返す事しか出来ない俺の脱力していた脚を、大きな手が掴んだ。

「……は…っ…春風さ……」

俺は気付いて、慌ててスカートの前を押さえた。春風さんはチラとその手を見たけど、すぐに目線は俺の目へと向けられた。

「…いれるよ、サクラちゃん」

「あ……っ…は、はい…どうぞ……いや、どうぞは変…?」

「…はは」

春風さんが笑った。俺は甘く胸が締めつけられると同時に、幸福感が広がった。

「可愛い」

頬にちゅっと口付けられて、ぶわっと全身に血液が巡り出す、ような感覚。ヒクついていた蕾へとヒタリと当たる熱くて太い感触。

俺はギュッと前を押さえ込む。反応しても春風さんには見られないように。

「…ん、っ……く…」

割り入って来るものは、指とは桁違いの質量を感じさせた。春風さんはゆっくりと慎重に、時々止まりつつ進んでくれる。それでも痛くて、苦しい。

「サクラちゃん、呼吸して」

「……っ…ふう…ふう…」

「どうしても無理ならやめるから」

「やめない…」

「……サクラちゃん」

「や、やだ…やめないで…!」

ここでやめたら、つまんないって、やっぱ男同士は面倒臭いって、思われるかもしれない。

「は、春風さんも、き、気持ち良くなって…」

俺ばっかり気持ち良いなんて良くない。

「俺で、いっぱい、気持ち良くなって…」

後ろに力を込めて、熱い肉棒の感覚を包み込む。誘うように。

「んあ…ッ!」

太いうねりが押し込まれた。苦しくて顎を逸らすけど、俺は後ろを開く事を懸命に意識した。

「……っ」

春風さんの息が生々しく聞こえた。下腹を盛り上げるように入り込んで来た熱。多分一番太い雁の部分を超えたのか、少しだけ楽になった。
そのまま入り込んでくる高温の塊に、俺は背骨が震えた。

「は……ッ…!あッッ…!」

一部を擦り上げられた。指で散々いじめられた前立腺だ。一際跳ねた声に春風さんも気付いたらしく、腰を掴んで俺の体を固定し、熱を前後させた。前立腺を擦られる。

「はあッ…あっ…!あっ!んっ!」

「はーー…良かった、中、感じるんだな」

「かんじ、感じるッ…苦し、けど、指より、気持ちい…っ!」

「じゃあ、もう少し…」

「あんッ!あッ!は、春風さんッ…春風さんッ」

ピストンが早まって、ぐぽぐぽと卑猥な音が立つ。前立腺を潰されるような刺激は、段々苦しさを忘れさせてきて、押さえ付けるスカートの下を膨らませた。
俺は無意識にスカートごと握り、再び自分の熱を扱いた。

「は…っ…は…!イク…ッ…春風さん、俺、イッちゃう…ッ」

「いいよ、我慢しないで。たくさんイッて、サクラちゃん」

「ダメッ…はる、春風さんも…ッ、一緒、一緒が良い…ッ…あ!あんッ!」

「……はあ…ホント、サクラちゃんは……じゃあ、もう少し我慢して」

溜息吐かれて俺はやらかしたと思った。でも春風さんの目は呆れたようには見えなかった。それどころか、なんだか顔が火照って、俺をすごく欲しがってるように見えた。

ズ、と奥へと進む春風さんの熱。

「んっ…!く…ぅ…っ!」

すごく奇妙な感覚だった。窮屈で下腹が張る。初めての感覚。奥、だろうか。コツンと行き止まりを突かれて、俺はビクッと腰を震わせる。

「…ふ、うーーーー…ッ。サクラちゃん、動くよ」

「……っ、ん、…はい……ッあ、あ、」

長く重い春風さんの呼吸が耳をぞわりと舐めていく。徐々に早まるピストンに、硬かった内壁がどんどん解されていく。春風さんにも伝わってるのか、ストロークも長くなって、激しさが増して来た。

「はあッ!あっ!あ、あん!は、春風さん、きもち、気持ちい、ですか…ッ…あ、あッ!」

「…ッ…ん、…すっげぇ、いい。サクラちゃんの中、めちゃくちゃ良いよ」

「あ、う、うれし…ッ…んあッ!あ、あっ!」

ズチュズチュと音が立つ。俺は間違ってもスカートが捲れないように、ずっと手で押さえてるけど、段々前も寂しくなって来て、つい根本を押さえつつ先っぽを扱いた。

その姿を春風さんが喉を鳴らしながら見てるなんて、想像もしてないまま。

腰を掴む春風さんの手に力が入って、穿つようなピストンの動きが快感を攻め立てる。

「ああッ…イク…ッ…イッ…ーー~~ッッ!!」

俺はまたスカートの中に射精しつつ、春風さんの熱を締め上げた。太くて筋張った形を覚えるように、射精が終わった後も抱き締めるように後ろを締める。
春風さんは「…く」と顔を歪めた。イクのを我慢するようなその顔が、とんでもなく色っぽくて、腹の底がキュンキュンする。

こんな感覚も初めてだった。

「……サクラちゃん、どう?抱かれる側で、良さそう?」

呼吸が落ち着いた頃、春風さんが優しく問い掛けてきた。俺は驚いてしまう。

「ま、まだ気にしてたんですか?」

「いや、そりゃ……サクラちゃんも、別に男性経験があった訳じゃねぇだろ。ヤッてみたら違った…とかあるかもしれねぇし」

「……さっきも言いましたけど、俺、春風さんに抱かれたい、から、こっちで、良いんです…つか、も、分かるでしょ。俺、春風さんので、めちゃくちゃ感じてるし…今も…」

スカートの中は見せられないくらいにどろどろだし、繋がった部分を離したくなくて、ずっと締め付けてしまっているし。春風さんはやっと納得してくれたのか、嬉しそうに微笑んだ。

「ん、良かった。俺、ずっとサクラちゃんを抱く想像してたから」

「…それ、俺をオカズにしてたって事ですか」

「……………失言」

違うって言えば信じるのに、真面目に返す春風さんに俺は頬が緩んだ。他の人はどうか知らないけど、俺は素直に嬉しかった。

「…ふ、……想像の俺より、抜いてあげられたら、良いな」

気恥ずかしそうにする春風さんの頬をそっと撫でた。

「………っ…!」

「ああっ!!」

唐突に、ずちゅんと奥を穿つ春風さんの熱。そのままの強さで何度も奥を叩かれて、俺は苛烈を極める快感に仰け反った。スカートが捲れて、折角隠してた俺の下半身が丸見えになる。律動に合わせて揺れるペニスから先走りが散るほどに激しい。隠さないとと思うのに、全身を揺さぶられる動きに翻弄されて、俺は仰け反りながら快感に身悶えるしか出来ない。

「あんっ!あっ!あっ!は、春風さん…っ!はあんっ!あっ!あっ!」

腰を掴む春風さんの手首を縋るように握り、足裏でシーツを押す。浮いた腰に更に打ち付けられる太い杭が、奥の奥に続く隘路を抉じ開け始める。
俺は軽くブリッジするように背を浮かせ、強い快感にみっともなく喘ぎ声を溢した。

「ああんっ!だめっ…!そこ、入っちゃう…!はるかぜさん!そこだめぇッ…!!もっと気持ちいいのくる!」

「はあ…っ…サクラちゃんが、可愛すぎるから…悪い」

責任転嫁だと思っても、全然嫌な気がしなかった。寧ろ、春風さんを煽れた事が嬉しくて、後ろを強く締め上げた。春風さんが気持ち良さそうに「…っ」と声を漏らしたから、俺まで更に気持ちよくなってしまう。

「サクラ、可愛い。全部俺にくれ、お前の全部」

春風さんが覆い被さり、口付けて来た。俺からも啄み、舌を絡め合う。腹の奥に入り込もうとする熱が、徐々に隘路を広げていく。

「はぁ…はっ…!んっ…は、はっ…!お゛ッ!!」

結腸へと入り込んだ熱に、すごい声が出てしまった。初めてのことなのに、俺はびゅるびゅると射精していた。窮屈で息が止まる。

「サクラ、大丈夫か?」

春風さんは止まってくれてる。俺が顎を仰け反らしたまま動かなくなったから心配している。ハッハッと呼吸を繰り返し、俺は顔を戻す。

「…ん…だいじょぶ……うご、動いて、春風さん…もっと…」

苦しいけど、春風さんに気持ち良くなって欲しくて俺は腰を揺らす。柔らかい所をぎちぎちに満たす熱が擦れると、俺は無意識に顎を震わせた。

「はあ…あ…っ…あっ…!」

春風さんはじっとしていた。腰を揺らす俺の顔をじっと見下ろしている。

「うご、いて…ぇ…動いて…ッ…春風さん、春風さん…っ」

動いてくれないのに、俺は自分でどんどん気持ち良くなってくる。小刻みな動きしか出来ないから快感はもどかしくて、春風さんの首にしがみついて、カクカクと腰を揺らし続ける。

「おく、奥にきてるよ…春風さん、して、してくれないの…?ね、…俺のここ…やって、ゴンゴンして…春風さ……んっっ!!!」

「はーー…さいっこう…」

「ひ、あ、ああーー~~ッッ!!…は!あっ!やっ!んん…ッ!はあッ!!あっ!あっ!はるか、ぜさッ…やッ!止まって…!」

柔らかい部分を春風さんの熱が激しく擦り上げた。俺は絶頂と射精を同時に食らい、泣くような声が上がった。
突然始まった刺激は俺自身がねだり付けたものなのに、あまりに強過ぎる快感に思わず中断を願ってしまう。

でも春風さんは止まらなかった。

「いやッ…これ変ッ…!あっ!あんっ!だめだめッ…!またくる…っ!すごいのくるッ…!!ッッーーー~ッ!!」

「サクラ…可愛い、サクラ…はあ…想像の何倍もエロい…」

「待っ…イッた!俺、イッたよ、春風さ…ッ!あ!あ!待って、おねが…っ…ひッ…!あうッ!あーーーッ!あーーー……ッッッ!!」

春風さんが俺の膝を押さえつけられ、足裏が天井を向いた。覆い被さった重い春風さんの体に潰されて、上から打ち込まれる太い肉の杭は、全身が痙攣するみたいに気持ち良くて、もう勃起も出来なくなったペニスからダラダラと愛液が垂れ落ちるだけ。スカートで隠れている腹は、薄い皮膚を引き攣らせてる。

「……あーー…すっげ、射精止まんね…」

「……っ…」

春風さんは腰をぐっと押し付けて、射精しているようだった。本当に長い射精だったと思う。

「はー…抜くよ」

ちゅっと頬にキスされて、春風さんは身を起こす。
ゆっくりと抜かれる瞬間さえ気持ち良くて、俺は身悶えながら我慢していたのだけど、最後の瞬間「…あん」と声が漏れた。恥ずかしくて、俺は誤魔化すように

「うわ、い、いっぱい出しましたね…」

と、更に恥ずかしい事を言ってしまった。いや、でもしょうがない。春風さんのものを包むスキンは重たげに白濁をぶら下げていた。俺はあんな量出した事ない。

「………生で、…いや、腹壊すって言うし…」

何やら春風さんはぶつぶつ良いながら、スキンを外した。俺はその時、自分のだらしない格好に気付いて、捲り上がっていたスカートを下ろし、膝を引き寄せて身を起こした。全身が熱くて、重怠い。

「…あの、俺、スカート、脱ぎますね…」

なんかもう良いような気がして、寧ろ、スカートだけしっかり着込んでる事に羞恥心が湧いた。

「待って」

ベッドから降りた俺の腰を後ろから掴む春風さんの手。

「サクラちゃん、このまま腰下ろして」

「…え?……っ…!はるかぜさ…あ…また…するの…?」

言われるままに腰を下ろそうとすると、緩んだままの蕾へと春風さんの熱が触れた。思わず浮きそうになった腰を春風さんが無理やり引いて戻す。ぬぶ、と入り込んでくる熱に、中途半端に屈んだ腰が砕かれるようだった。

「うん、スカート可愛いから、履いたまま、もっかいだけ」

やっぱり女性が好きだからだろうか。スカートなら男の象徴はある程度隠せるから。少しばかり胸がチクリとした。だからこそ、快感に縋るように俺は自ら腰を落とした。春風さんの膝に座る形だ。

「う…ッ…!はあ、はっ…」

背面座位だと当たる場所が変わる。じわじわと春風さんの熱が溶け込んでくるようで、快感が燻る火のように駆け上がってきた。

「ここが、スカートを持ち上げんのがエロくて良い…」

「あっ…!!」

「気持ちい?さっき、ずっと握ってて触らせてくんなかったからさ…ずっと触りたくて」

スカート越しに握りしめられたペニス。そのまま先端付近を扱かれて、俺の膝がガクガクし始めた。そして更に腰を落としてしまう。ずぶんッと全部入った。

「はあんっ…!!」

もう勃たないと思ってたペニスは、春風さんの手でスカートを持ち上げていた。春風さんの手がペニスから離れ、今度は胸元を弄られ始める。

「…っ!」

散々舐められていた乳首を摘まれ、指先で転がされて、先程はそれほど感じなかったのにビクビクと腰が跳ねる程に気持ち良かった。

「…どこもかしこも硬くしてんの、可愛い。男でも乳首ってデカくなんのかな?」

「んんッ…!はあ、知らない…っ、あ、知らない…ッ…」

「…デカくしてぇな、サクラの乳首」

「あっ…!」

「はは、可愛いサクラ。中ぎゅーって締まったぞ。乳首、デカくしてぇんだな」

言われた通り、俺は喜んでしまった。乳首を育てて欲しいからじゃなくて、男の俺の体に春風さんがしっかり興味を持ってくれてる事にだ。

「はあん…ッ!」

ピン、ピン、と乳首を弾かれて、甘く高い声が漏れる。頸や肩を舐められたり、キスマークを付けられる感触に、俺の腰が勝手に動く。
ぐちぐちと奥の柔らかい所を捏ねて貰い、更に腰を上下して擦り上げる。

「あっ…あんッ…春風さん…っ…気持ちい、春風さん…っ…あ、ぁ…好き…春風さん…好き…あ、やっ!それイクっ…!!」

乳首を弄られながら媚肉を擦られて、どんどん脳みそまで気持ち良くなって来ていた所で、乳首を強めに摘まれて軽く中イキをしてしまう。
前に倒れないように腹に力を込めつつも、項垂れて、淡い絶頂にうっとりとしていた。

春風さんが腰を掴んだまま立ち上がったので、俺は慌てて数歩前に置いてあった机に手を付いた。

「あっ!!あッ!!」

また腰が揺れ始めた。熱が鋭く快感を突き上げて来る。突然の立ちバック。机に手を付いて深く項垂れるけど、春風さんは倒れる事を許してはくれない。

「あっ!待って…!ああッ!」

「俺を止める気ないだろ、サクラちゃん。さっきからツボな事ばっか…」

「わかんない…!分かんなッ!あっ!あっ!ああ、イクッ…!春風さん…っ!イクッ!イク!!」

「こんな可愛い子、どうすりゃ良いんだよ。くそ。マジで射精止まんねぇよ…っ!」

「ああーー~~ッッ!!」

床にポタポタと愛液を落とし、俺はまた絶頂した。膝が耐え切れず、床に倒れた俺に追い打ちをかけるように春風さんのピストンは止まらなかった。

俺の絶頂も、とまらなかった。











「……すんげぇ…腰怠いです…」

「ごめん、マジで。ごめん」

ぐったりとベッドに沈む俺の横で、水のペットボトルを持ってベッド脇にしゃがみ込む春風さんがずっと謝っていた。

「ちょっと、マジで、ヤリ過ぎた。本当にごめん。これ飲めるか?頭痛くねぇ?」

「………ん、…飲ませて、春風さん」

「分かった」

俺は甘えたい一心で言ってみた。漫画なんかで見た口移しを期待して。見てる時は(実際はちょっと抵抗あるだろうな)とか思ってたのに、こんな気持ちになるなんて。
春風さんは、俺の首の後ろにサッと片手を入れて身体をやすやすと起こすと、ペットボトルを口元に当てて飲ませてくれた。

「ちがう…」

「え?」

消防士だからだろうか。本当にスムーズに身体が起き上がったし、飲ませ方まで丁寧で、なんなら自分で飲むより飲みやすかったし、飲んだけど、そうじゃない。

違うの?て顔をしてる春風さんを見てたら、段々笑えてきて、俺は自分で座り直す。スカートは履いてない。布団を掛けてるだけ。春風さんは履いてきたズボンを履いていた。

「春風さん、キスしましょ」

両手を広げると春風さんは嬉しそうに腕の中に入ってきて、俺を強く抱き締めながらキスしてくれた。
ちゅっと音を立てながら何度も口付ける。

「……これからは恋人として、いっぱいデートしような」

「……ん、デートいっぱいしたいです。ただ、あの、俺、普段、普通に男なんですよ。だから……」

これからは女装する必要がなくなる。デートは嬉しいが、春風さんとしては人前では女装の方が嬉しいんだろうかと気になっていた。もしそうなら、春風さんに合わせるが、『いつもの俺』に興味がないのも悲しい気がした。

春風さんは「ああ」と何かを思い出しように頷いた。

「そうだった。いつか、サクラちゃんの普通ってやつも見せて欲しいと思ってたんだ。楽しみにしてる」

「…うん」

すごい、まだ好きになる。

俺は頬が緩んだ。もう、痩せ我慢せずに好きなだけにこにこした。春風さんも釣られるように、優しく微笑み掛けてくれる。


.
.
.


ゲンさんはあの後、アリサさんにめちゃくちゃ八つ当たりされて奢りまくったとか。更にその現場を姉貴に見られて「浮気はマジでない」と言われて、更に姉貴のご機嫌取りに散財しまくったそうだ。

でも久々に実家に顔を見せた姉貴は、ゲンさんと別れたと話していた。

「アイツ、あの時なんて言ったと思う?『これがドッキリだとしたら、蝶子、心狭いんじゃね?』だって!バッカじゃない!?仕込みだったのかよ!?そんなにドッキリが好きなら1人で死ぬまでやってろってーの!はー!実家が太いから優良物件って思ってたけどもう無理!」

母親は久々の姉貴の帰宅に喜んでいたが、その話には呆れ気味だった。

「安心してお母さん。アイツは幻だったの。アタシ、現実見るわ」

胸を張る姉貴の事を俺はあんまり信じてないが、母は嬉しそうだったので何も言わない事にした。
姉貴も俺と春風さんの事をゲンさんから聞いていたようだったけど、それについては何も言ってこないからだ。あんなに人を勝手にゲイにしようとしていたのに。

まあ、単にそれどころではないのかもしれない。

「行ってきます」

母と姉に声を掛けて、俺は出掛けた。雨上がりの日差しが眩しい。俺は夏前の暖かさに似合うサンダルでアスファルトを駆け抜けた。

電車に乗って、そわそわしつつ目的地に向かう。待ち合わせ場所にはいつも先にいる春風さんも、もう上着は着ていない。

俺はドキドキしながら、最後にビルのガラスに映る自分を確認した。アイロンで軽く巻いたりしていた髪のセットも今日はワックスのみ。メイクもなし。青いビッグTシャツを着た、いつもの俺だ。

「春風さん…うす…」

勇気を出して近付いた。スマホを見ていた春風さんが顔を上げる。俺はドキドキしつつ、顔を見詰めた。

「あ……やっぱり、イケメンだな」

春風さんは笑った。いつもの春風さんだ。良かった気もするし、少しだけ肩透かしを食らった気もした。

「じゃあ、今日は何しよっか?前言ってたラーメンでも食い行く?サクラちゃん、何かしたい事ある?」

女装してた時、当たり前に繋いでた手。そう言えばいつから当たり前だったんだっけ。流石に男同士だと繋がないだろうなと、春風さんがスマホをポケットに押し込むのを見ていた。

その手が伸びてきて、当たり前に俺の手を取った。胸がギュッと締め付けられる。お互いの為にも繋がない方が良いのかとも思うけど、俺は嬉しくて振り解けない。

「…あの、春風さん」

歩き出しながら、俺は口を開く。

「うん」

「名前、呼んで欲しいんすけど」

「……サクラちゃん?」

「いや、本名で」

「…………え、サクラって本名じゃねぇの?」

「あ、ハイ。サクラは漢字のひとつが、その字だったんで…本名は桜に介助の介の字で、桜介おうすけって言うんです」

「かっこいい名前だな、桜介くん」

「そこはくんなんですね。男って言った後もずっとチャン付けだったから、敬称チャン付けの人かと思ってました」

「……そう言えば俺、ずっとチャン付けしてたな」

「……無意識?」

「……今気づいた」

「……あはは!春風さんの偶にあるソレなに?マジで可愛い」

「…いや、そう言えば何でだろ。男って認識してたのに…」

「はー…いや、まあ、チャンでもクンでも良いんだけどさ」

漸く伝えられた。それだけで俺は十分やり遂げた気がして、満足していたのだけど、

「桜介」

「……」

息がひゅってなった。

「桜介、呼び捨てしていい?」

「……イヤとか、言わないですよ」

「桜介も俺のこと、呼び捨てにしてよ」

「……春風……」

春風さんが頬を緩めた。珍しくデレデレとした顔立ちになって、俺は、

「…さん…」

耐え切れず敬称を追従させた。

「なんで?」

「す、好きすぎて、無理です…」

手を強く握り締めると同時に顔を歪めた。本当に照れ臭い。

「…そんな事言われたら、変えてって言い難いだろ」

「……慣れます、その内」

「…そうだな、時間はたくさんあるし。ゆっくり慣れてって」

手を引かれて、肩を優しくぶつけ合う。覗き込んでくる顔が、これから先の長い時間を一緒に過ごすんだと伝えて来るようで、俺は更に照れ臭くなった。

告白してからの方が、春風さんは電話でもメッセージでもグイグイ来るようになって、照れるのは俺の方が多くなってしまった気がする。

「………あー…もう…めっちゃ好き…」

「うん、…俺もめっちゃ好き」

耐え切れずに心から溢れ出た独り言に、春風さんは照れ臭そうに笑いながら返してくれた。
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