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学園編 2年目
男爵家男孫の冬 hunt
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あれから1週間が経った。
在校生の帰省や、貴族科と騎士科の卒業生達が本格的に退寮し始めたので学園内は随分と静かだ。
ハンスとテオドールも帰省、ギルバートは残っているが騎士科の冬季合宿とやらに参加しているので不在。
ロキも魔塔主からの誘いを受けて外出していて、友人の中ではイルラだけが寮に残っていた。
そんなイルラは寒さに弱く引き篭もっているので、ジンが寮室の暖炉に持ちの良い魔術の火を点け、更にお手製の火熱結晶球の山を部屋の至る所に置いてあげた。もう隠す事もないから、存分に。
それでも厚手のカーディガンを着込むイルラの、身体より大きな服のシルエットが愛らしい。服の中にはカカココが入っている。
暖かくなった部屋の中で、手入れの行き届いた観葉植物に囲まれた従魔スペースにイルラは居た。絨毯の上に座って本を読んでいる。その襟元から双頭だけ出したカカココは、主人の顔の横で出掛ける準備をしているジンを眺めていた。
「今日もギルドか」
脇にマントを抱えて立ち上がったジンを視界の端に捉えると、イルラは本から顔を上げた。学園公認になったので、ジンは堂々と装備品を身に付けている。ハイネックの半袖黒シャツは寒々しいのだが、本人は気にしていない。その首元を指で整えながらイルラを見る。
「うん」
「ここ最近毎日行ってる、忙しいのか」
「そう、忙しい。今のギルド長が試験のやり直しを決行したら、降格になった連中が山ほど出たんだよ。おかげでAランク以上が足りてねぇの」
夏の特別課外授業後、中央ギルドは大々的に組織の立て直しを始めた。前々ギルド長であるザバンが逮捕された時に本来はやるべきだったが、ローガンでは登録者達の反発を止められなかったのだ。今回ガランと中央へ残ってくれたランディを主体に、連日連夜ランク試験を強行したのだが、ガランも流石に予想だにしなかった人数のランク降格が決まり頭を抱えていた。
ここが中央でなければ、殉職者が続出しているレベルだ。まあ、それを見越した上でザバンは登録者達を唆していたのかもしれない。
シヴァと別れたあの日、ギルドから速達が届いた。それから今日まで休みなくギルドへ通っている。
「頼りにされているのは分かるが、先生が帰って来たら特訓も始まるんだろ。少しは休んだ方が良い」
「そうだな、特訓が始まる前には休むよ。心配してくれてありがとう、行ってくる」
「……うん、気を付けて」
イルラの顔に「ウソだ」と書いてあった。だがオレンジの目が少し不満そうに睨め付けてくるだけで何も言わないでくれる。
「ジン」
と思ったがやはり何か言いたいのか。出て行こうとしたジンは再び振り返った。
「窓から出て行くのはやめた方が良い」
窓に引っ掛けていた足、ドラゴとフィルもいつでも出れるように既に待機している。ジンは「うーん…」と唸ってから口端を吊り上げた。
「考えておく」
言いながら窓枠を蹴り、飛び降りる。窓を閉めるのはドラゴの仕事だ。家に居た頃から窓からこっそりと出る事は多かったので手慣れたものだ。ジンと2頭の気配はすぐに消え、彼らが出て行った窓をイルラは暫く眺めていた。
窓の外は冬の朝らしい薄曇りだった。
.
.
.
(休むって、ちょっと苦手なんだよな)
ジンは過ぎ行く景色を駆け抜けながら思った。心配はありがたいし、身体を休める大事さは分かってるつもりだ。
だが昔から動いている方が楽だった。
ドラゴとフィルからの付随特性なのか、体力は男性平均と比べれば無尽蔵のようにあるし、疲労感も感じにくい。疲れる理由は大体気疲れだ。少し寝れば魔力も体力もある程度戻るし、一晩寝れば全回復する。
ジンの体力と魔力を削り落とせるのは高ランクの魔物か魔獣か、ロキくらいだろう。
(……やっぱ先生最強説…)
ドラゴンやフェンリルの共有魔力や付随特性があるジンと違い、ロキはその身だけなのだから。肉体的な強さや体力はもちろんジンより大きく下回るので、肉弾戦になれば話は違う。だがそれも結界や防御、肉体強化や操作で応戦出来るのかもしれない。
まともに反撃をした事がないので、実際の所は知らない。
「ジン遅い!!オレ様はもっと早い!」
頭上から声が降って来た。姿の見えないドラゴだ。思考の散漫はどうしても動きに影響する。いつもより遅くなっていた足に、ギルドに行きたくて仕方ないドラゴは不満なようだ。
(まあ、こいつらが本物な訳だけど)
ドラゴとフィルが本気を出したらジンもロキもひとたまりもないだろう。
ドラゴは痺れを切らして先を行く。足の左側で並走するフィルを見た。視線に気付いたフィルが顔を上げる。その目が楽しそうに見えて、ジンも微笑んだ。
「ドラゴに追いつこう」
フィルは「わふっ」と息のような声を出し、スピードを上げたジンと変わらず並走する。
人気のない道や屋根の上を走り、ギルドの手前で裏路地へと降りた。鼻につく嗅ぎ覚えのある匂い。
血だ。
おまけに騒ついている空気がギルドの建物周辺まで漂っていた。
(何かあったか)
黒い狼口とフードを被り、ドラゴの重みを左肩に感じながらギルドの表へと出た。入口から中の怒号が聞こえた。「急いで向かえ!」のような声だ。慌てて飛び出していく男達と擦れ違いにジンは中へと入る。血の匂いは一層強まった。血を流した登録者達が床に寝かされている。
「こっちに!急いで!」「Aランクの冒険者を至急呼び戻せ!!」「谷方面でも依頼対象外の魔物の闖入発生してると報告が…!」「回復薬が足らない!誰か応急処置のケース持って来て!!」
バタバタと走り回るギルド員や手伝いに回っている登録者達を眺める。各カウンターでは列が出来て、待ちくたびれた登録者達が苛立っている。ランク落ちのせいで高額依頼を受けられなくなった連中は、声も掛けられないから無関係を振る舞っているようだ。
「ニンゲンはうるさい」
ドラゴも無関係とあくびをしながら左肩で呟いた。見えないドラゴをチラリと見て、少し笑う。こう言う存在が傍に居ると慌てるのが馬鹿らしくなる。まあ、逆にパニックに陥ってる人間を見て冷静になる事もあるが。
(さてと)
ガランの気配がない。この騒動の現場に向かったのだろう。状況を把握してそうな奴が居ないかと探っていると、背後のドアから人が飛び込んできた。中央に来た頃、ここのルールが云々と声を掛けて来て、特別課外授業にも来ていた男。青褪めた顔で、赤髪の女を肩に担いでいる。女は意識なくダラリと項垂れていた。
「誰か!コイツを手当てしてやってくれ!!」
叫び声は慌ただしい騒音に混じる。数人は気付くが手が空かず、一瞥しては目の前の作業へ戻ってしまうか、我関せずと無視を決め込む。
「頼む…!誰か!!」
「ほら、これ飲ませろ」
ジンが横から上級回復薬を差し出す。男は目をひん剥いて振り返って来た。
「透影…!」
「死に掛けてんだろ。早く」
「あ、ああ、ありがとう!恩に着る!」
「ここじゃ邪魔になる。あっちへ」
男はドアの前から端へと移動し、床へと寝かせた。転がる女の腹から床にゆっくりと血が広がり、髪から覗く顔に血の気はなかった。
ジンも女を挟んで向かいにしゃがみ込んだ。男に上級回復薬の瓶を渡し、首を持ち上げる。
「もう自力で飲める力はなさそうだ。口移ししろ」
「えっ!?」
「早く」
躊躇う男を見据えると、男は意を結したように口に含んで女へ覆い被さる。その間にもう1本、上級回復薬を片手に出してドラゴに蓋を向けた。「開けてくれ」と呟くと、カリカリと蓋が開けられる。多分両手で開けてる。開いた瓶から女の腹部へと薬を掛けた。
「…はっ…まだ、ダメか」
「全部飲ませろ」
「うう…っ、後で殺されたらお前が謝ってくれよ!」
「分かった。その時は謝っておく」
男は女へ口移しを繰り返し、瓶の中身を空っぽにした。女はゴホッと咳き込んで血を吐いたのを合図に呼吸が戻り、顔色も良くなって来た。顔を横に向けて寝かせ、女を呆然と眺めている男へ顔を向ける。
「それで、何があった」
「……滝のある狩猟区域で、Aランク依頼を受けた連中から応援要請が来たんだ。高ランク魔物の、闖入で。それで、手が空いてるAランクハンターやBランクの冒険者で応援に行ったんだが、あそこは、崖で」
「ギルド長もそこに?」
長くなりそうな返答にジンは言葉を切る。ガランが向かったのならかなりの緊急事態の筈だからだ。
「あ、ああ、そうだ。ギルド長も来てくれた。ランディさんもだ!でも、あの2人も焦ってるように見えた。透影、お前なら何とか出来るんじゃないか!頼む!」
特別課外授業での透影の事はガランの意向で口外禁止となった。とは言え、破落戸も多いこの場では焼け石に水だろうと誰もが思った。
しかし元々ギルドでも影が薄かった透影と、ドラゴンとフェンリルを連れたフェロモン剥き出しの男が合致しない参加者の方が多く、更にその後ますます影を薄くし、より存在を隠して活動していたので、課外授業の件は『謎の男』として片付くと言う珍妙な結果に落ち着いた。
だが目の前の男は、分かってて黙っていた礼節のある男のようだ。
「見てないから何とも。でもまあ、行ってみるよ。滝のある狩猟区域、3箇所あるけど、小中大どこ」
「中だ!今から行くなら俺の馬を…!」
「大丈夫。足ならある。これ、俺からって言わずに渡してくれ。少ないが足しになるだろ」
ジンは立ち上がり、ドアへと向かう。男は手に乗せられた6個ほどの薬瓶を見下ろし、目を見開く。全て上級回復薬だからだ。顔を上げた時にはもうジンも、傍にずっと居たフィルの姿もなかった。女が「うーん…」と唸ったので、意識がある事に安堵した後、慌てて立ち上がって応急処置に走り回るギルド員達の元へと向かった。
.
.
.
「……どうすっか」
ガランは先程までの戦いの傷痕を色濃く残す崖の上で立ち尽くした。死屍累々となった登録者達がまだ地面に転がっている。
「お前は行くな。崖下には俺が行く」
後ろからランディが大振りの剣を振るいながら声を掛ける。ガランは振り返らない。ただ硬く拳を強く握り込んだ。
「……俺の脚は、何でこんなに役に立たなくなっちまったんだろうか」
目の前で崖下へ落ちていく登録者達の姿を見た。正確には魔物に引き摺り落とされたのだが。
日常生活に支障はなくとも、魔物を走って追い掛ける事も、崖下へ飛び降りる事も出来なくなってしまった脚。
「ガラン…」
「ガランの身体はガランにそれ以上危ない事して欲しくなかったんだよ」
ランディが言葉に詰まった所で更に後ろから声が掛かる。2人が振り返るとジンがいつの間にか立っていた。
「…オメーはホントに神出鬼没なガキだな」
「ジ…透影!!どうしたんだお前!」
ランディは呆れてるような声を出した。驚くのも疲れると言った顔だ。ガランはしっかり驚いて、ドスドスと近付いてくる。フィルと共にジンも距離を縮めた。
「ジンで良いよ。それより何があったんだよ。ギルドに怪我人が溢れ返ってたけど」
「呑気に説明してる場合じゃねえ。おい、ボウズ、俺と一緒に崖下に行くぞ」
「そう?分かった」
「待て待て待て!ランディ!ちゃんと説明しろ!!お前も分かったじゃない!!」
「うるせえな、コイツに説明なんて要らねえだろ。蜘蛛が出たんだよ、でっけぇ虫だ。ソイツが登録者共を糸で巻き取って降りてったんだよ」
「ああ…下のデカい気配は蜘蛛なのか」
崖下は滝のせいで気配が読み難いが、確かに魔物の匂いと大きな何かを感じた。川の周りには白い繊維のようなものも多数散っている。蜘蛛の糸なのだろう。
「身体が硬く、すばしっこい。おまけに蜘蛛の糸で軽く飛ぶ事も出来る」
「そか、分かった。ランディ、俺1人で降りて良い?」
「……またこの小僧は…ボウズのが強いから1人が楽ってか?」
「ランディお前…ホント大人気ねぇな…孫に恥ずかしくないように生きろよ…」
ランディはあからさまに不機嫌になり、鼻の頭に皺を作った。まるで猛犬のような顔にジンは微笑ましくなってしまう。その猛犬はガランの言葉に牙を剥き出した。
「孫には見せねぇから良いんだよ!五十路の俺を敬う気がねぇコイツが悪いだろ!!」
「へえ、孫いんの」
「いや、今度産まれるんだとよ。だから中央に残ってなるべく安全な依頼受けてんだ。娘に孫抱くまでは絶対死ぬなって言われてるから。頑固親父も娘には弱いんだよな」
ガランの顔が少しニヤけた。
「なっ…!弱いとかじゃねぇ!ピーピーうるせぇから仕方なくだ!ンな話今はどうでも良いんだよ!」
カッと怒るランディの顔が不機嫌に歪んだが、照れ隠しだと分かる。
「じゃあ孫の為にも生存率上げてあげてよ。ランディは良いじいちゃんになりそうだし」
「オメエだって孫みてぇなモンだろうが。青臭い小僧の癖によ」
そんな場合ではないやり取りをしていると、「ギャオーーーーッッ!!!」と言う叫び声が聞こえた。3人の目が声の方、崖より前方の高い空中で白い糸に胴体を掴まれているドラゴを見た。繭のようになった身体から翼と頭だけを出し、八の字を描くように縦横無尽に飛び回る。下の木々がドラゴの動きで揺れ、枝を折り、葉を散らしているようだ。
「…居ないと思ったら」
呆気に取られたジンの呟きに「離せ!!オレ様はおこるぞ!!!」と吠えるドラゴの声が被さる。口の中にバチバチと閃光が明滅し始める。
「あ、アレは撃つな」
「撃つな、じゃなくて止めろ!!下に連れてかれた連中が居るんだよ!」
「だそうだ、ドラゴ。撃つな」
「グルルルルルルッッ!!!!!」
遠い距離を飛行しつつ、ジンの声が聞こえたのかドラゴは口を噛み締め強く唸った。更に糸を引っ張りながら藻掻き飛ぶドラゴの動きは怒りで激しくなっていく。だが下からも引っ張られているのだろう。高さは変わらず平行にぐるぐる回ってるだけだ。遠目からではまるで糸を付けられた虫のように見える。
「ドラゴ!落ち着け!」
聞こえてる筈だろうがドラゴは全力で無視して暴れ回っている。翼だけしか動かないだろうに元気だ。
「丈夫な糸だな。名のある魔物か?」
下から崖とほぼ同じ高さまで伸び、千切れもしない。白い糸からはハッキリと強い魔力も感じる。ドラゴだから耐えているが、人間ではあっという間に攫われるだろう。
ジンの問い掛けに2人は同時に眉を寄せた。即答しないと言う事は違うのだろう。
「見た目は小型の虎蜘蛛と同じだ、お前も見た事あるだろうよ。六つ目に虎みてぇなガラのある奴だ。ただそれが異常にデカくなって…いや、同種なのかも分からん。兎に角、蜘蛛の魔物には違いない」
ガランの説明に頷く。ジンの目線がドラゴを捕える糸の根本へと向く。
「ランディ、やっぱり俺が行くよ」
「アアッ!?!」
「ジン、待!!」
言葉を最後まで聞かず、ジンは崖から飛んだ。足元に居たフィルもすかさず断崖を駆け降りる。
ガランとランディはギョッとして身を強張らせた。
ジンが飛行術を習得していない事を知っているからだ。
現段階における飛行魔術は魔力消費が大きい割に人間はさほど飛べず、更に感知されやすい。まだ不安定な魔術よりも、上手く使えばある程度の高さからの落下を余裕で防げる防御や結界の方が勝手が良い。
だが、ここの崖の高さはそんなものではすまない。
課外授業時のように受け止められるドラゴも大きくなれない状態だと聞いている。何より今は捕まっているし。
2人は慌てて崖下を覗き込んだ。
何かしら策があって飛んだと頭の片隅で分かってはいても、心配が身体を動かした。
しかし当の本人はどこ吹く風だ。
黒く艶やかなマントが風を孕んで翻る。
第二王子から貰ったこのマントは想像を遥かに超える代物だった。
飛行系魔物特性の『揚力』が付いているので少しの跳躍で高く跳び、滞空時間が長く、一足飛びでかなりの飛距離を稼げた。高い場所から飛び降りても落下速度は遅く、防御魔術なしで着地出来る。ただ浮くだけではないので、飛び方次第で高度も落下速度も調整出来る部分も良い。
おまけにこの揚力は魔物素材の効果なので魔力を消費しないし、感知される事も殆どない。
崖上から途中までは風に乗り、上空から下を見渡した。目標を捉えた瞬間、体勢を変えて空気を切るように滑空。
ドラゴに繋がる糸の根本。そこに居る。
腰に装備していた短剣を右手に構え、落下地点の目標に着地と共に突き刺した。
「!」
しかし、短剣は深くは刺さらなかった。糸だ。円網のメッシュ部に引っ掛かっている。
ーーーキイイィィッッ!!
虎蜘蛛が全身を震わせて鳴いた。立ち上がるような気配にその場から離れようとしたが短剣から糸が離れず、ジンはすぐさま諦めて短剣を置いて前方へとジャンプした。
木々の隙間と言う隙間に蜘蛛の糸が掛けられている事に気付き、後方に跳ぶ事は避けた。指を鳴らして進行方向の糸の巣を焼き払い、宙返りして地面へ着地。案の定、蜘蛛の背後にも縦横無尽に蜘蛛の糸が張り巡らされていた。
背中から糸に飛び込めば、短剣のように絡め取られた事だろう。
「ホントに良く育ったなお前」
確かに見た目は虎蜘蛛だ。複数眼の内、大きな2つはタイガーアイでその下に並ぶ小ぶりな4つの目は黒、特徴的な虎模様の腹部に8本の長い脚。触肢と上顎を動かし、ジンを真っ直ぐと見詰める顔は少し愛嬌がある。
本来ならば大きくてもジンの背丈を超える事はなく、小型に分類される魔物だ。
それが見上げる程大きく、横幅は木々に隠れて全長が見えない。
背中に刺さっただろう短剣を気にもせず、虎蜘蛛はカクカクと首を傾げる仕草を見せた。
(分類は中型か、ランクはどうだろうか)
魔物の強さは体長よりも能力による。ただ大きくなっただけでは脅威とは呼べない。人的被害や自然破壊への影響が大きくなるほどランクは上がる。
ジンの思考を読み取ったかのように、「では見せてやろう」とでも言いたげに口から白いボール状の糸を飛ばして来た。瞬時に避けるとボールは地面に当たって破裂し、蜘蛛の巣状に広がった。
(アレに当たっても捕まりそうだな)
間髪入れずに2弾、3弾と打って来た。闇雲に動けば張り巡らされた蜘蛛の巣に捕まる。ジンは頭を低く保ち、巣に引っ掛からないように駆け出した。
ガランが言っていた、『連れてかれた連中』の場所を把握しなければ。どうにも気配が読み難い。匂いも。虎蜘蛛の糸のせいだ。ただ微かに声がする。
頭上から、散り散りに。
上を見ると繭のような塊が至る所にぶら下がっていた。大小様々で中には蠢いているものもある。
虎蜘蛛の習性だ。捕らえた獲物を糸で巻き上げて保管する。この周辺を既に自分のテリトリーとしたと言う事だ。
それにしても頭上にぶら下がる繭の数が多過ぎるように思う。
(巣を作って、さあごはんだ!と言う時に次々とハンター達が来たからブチ切れたのか?)
この巨体ではそもそもの必要数が平均を大きく上回るのは分かる。しかし虎蜘蛛の習性としては、必要以上に狩猟はしない筈だ。だからこそ見掛けても放置される事が多い魔物だった。
(……この数、ハンター達だけじゃねぇな)
一帯の魔物や獣も手当たり次第に捕らえたような数だ。闖入騒動の前からここに巣食い、食べもしない獲物を吊るしていたと想定しても良さそうだ。
木々の隙間を縦に横にと体勢を変えて追い掛けてくる虎蜘蛛。サッと大きな木の後ろへと隠れると、飛ばされたボールが木の幹にぶつかり広がった。逆側から出ると共に、指を鳴らす。指先で小さな炎が弾け、真っ直ぐと焔が走る。
虎蜘蛛の頭胸部に当たる寸前で、炎は蜘蛛の巣状に広がり消えた。炎が当たった場所に残る蜘蛛の巣が仄かに光っていた。まるで魔術紋や魔法陣のようだ。
「…魔術防御が出来るのか」
加減に加減を加え、かなり弱めに放ったとは言えこうもあっさり防がれるとは。もしかして小型も出来るのだろうか、小型は短剣で十分仕留められるので分からない。
驚くと共にジンは薄笑いを浮かべていた。無自覚に。だがすぐに笑みは消えた。再び飛ばされた糸のボールを避けて走り抜ける。
頭上に吊るされた繭の中にはまだ生きている者もいるだろうから、ここで無闇に魔術を使う訳にはいかない。
短剣は今だに彼の背中に刺さったままだ。
(後で回収するとして…安直に突っ込むのは危険そうだな。短剣同様、糸に絡み取られる恐れがある)
背後からボッ!!と強い音が聞こえ、頭を右へズラすとスレスレを糸ボールが飛んで行った。前方の木に着弾し、広げられた蜘蛛の巣が道を塞く。
ーービュンッ!!
速度を落とした瞬間、風を切る音がした。うなじがソワつき、咄嗟に横へと飛ぶ。マントを掠ったのは蜘蛛の歩脚、その先端の爪だ。ズシャリッと土に深く突き刺さった。
「あぶね」
体躯に比べれば細い先端だが、人間にとっては杭よりも太い爪だ。一撃で殺されるだろう。
土を撒き散らし爪が再び持ち上がる。避けようとしたが左脚が動かない。茂みに隠れていた蜘蛛の巣に足を踏み込んでいた。
「しまった、上にばかり気を取られてたな」
ここまで地面に近い場所に糸はなかったからだ。これが偶然の産物か、実は至る所にこのような罠が仕掛けられているのかは判別つかないが、まんまと引っ掛かってしまった。
ジンの動きを分かってるのか、狙い済ました脚が勢いを持って振り下ろされる。
ーーーギイィンッッ!!
取り出したのは、手に馴染んだ長年愛用していた短剣だ。青白い刀身が防御魔術の残滓を光らせ、爪を受け止めた。虎蜘蛛は力を緩めず、そのままゴリ押しして来る。弾き返すタイミングを窺いつつ、均衡を保つ。
「わんっ!!!」
更に馴染みのある声が横から聞こえたと思ったら、鼻の頭に皺を深く刻んだフィルが横合いから飛び込んで来る。受け止めた歩脚とは別の歩脚がジンの腹を狙っていたようだ。その脚に咬みついて、そのまま引き千切った。ほぼ同時にジンも目の前の歩脚を斬り落とす。
ーーーギイイイッッ!!!
2本の脚先を失った虎蜘蛛は嘶き、緑の体液を飛ばしながら脚を引っ込めた。ガサガサと葉を大きく揺らして後退していく。
「ありがとうなフィル、助かったよ」
隣に立つフィルはしっかりと千切った脚を咥えて、威風堂々と胸を張っていた。しかしよく見ると片耳や背中に蜘蛛の巣が引っ掛かっている。
「…少し捕まってたか」
必死こいて逃げ出して来たのだろう。容赦なかったのはその苛立ちからか。ちょっと笑ってしまった。ペッと吐き出すように脚を横に投げ、フィルが寄って来る。ジンも蜘蛛の巣から逃れようと左脚を強めに動かすも粘つきは剥がれない。依頼中は常に様々な肉体強化を息をするように施しているのに。
「やるな」
感心してると少し距離を取った虎蜘蛛が顔を完全にこちらに向け直し、構えた。「ぐるるるぅーー…」とフィルも頭を低めて牙を剥き出し構え返す。
「フィル、飛び込むなよ。また捕まるぞ」
ピクピクとフィルの耳の先が動いた。伝わったようだ。
虎蜘蛛はジン達に向かってボールを連射した。
「待て」
応戦に身構えたフィルはピタリと動きを止めた。その頭の上を滑る、赤い閃光が全てのボールを溶かし、炎の斬撃が虎蜘蛛へ走った。しかし直前で再び蜘蛛の巣状に散って、炎は雲散してしまう。先程より大きな円網が虎蜘蛛を守っている。ジンは更に指を鳴らし、水の弾を飛ばし、間髪入れずに雷を走らせた。水も雷も矢張り蜘蛛の巣状に広がって消えていく。
(あれは属性関係なく防御出来るのか?もしそうなら、強いな)
見た目は虎蜘蛛と同じ巨大蜘蛛は魔力の潤沢さも使い方も小型とは違う。だが別種とも思えない。
(突然変異だな、こいつ。大型獣と同じ仕組みかは分からないが…)
大型獣とは自然界の魔素及び魔力を取り込み過ぎた獣の個体が、ある日突然大きくなる突然変異種だ。だが彼らの生態や習性は変わらない。見た目も基本的にそのままだから分かりやすい。
目の前の虎蜘蛛も、直感でしかないが"同じ"だと感じる。ただ大きくなっただけではないようだが、匂いや気配は見れば見るほど"同じ"だ。
魔術防御の蜘蛛の巣を張ってる間は動きが鈍くなる虎蜘蛛の隙を見て、左脚に引っ掛かる蜘蛛の巣を燃やし、フィルへ「行くぞ」と声を掛けながら走り出す。
フィルは少し口惜しそうに虎蜘蛛を見てジンの後ろを付いて来た。その更に後ろを虎蜘蛛が追い掛けて来る。
ーーーキィィッ!
ボッ!と背後にいくつもの糸ボールを飛ばされているようだが、時折肩越しに背後を見るだけでジンは無心で走る。フィルも軽やかにボールを避けていた。
(よし、抜けたな)
ジンは背後を確認し、木々に張られていた虎蜘蛛の糸が薄れた所で振り返った。虎蜘蛛も止まったジンを見てすかさず糸を吐く前動作へ入ったがーー
「『浮雲』」
掌を向けたジンの呟きの方が早かった。虎蜘蛛は糸を吐いたがボールは勢いを無くしその場で浮いた。メキメキと周囲に木々の軋む音が響き、根を引き摺り土から抜けた。石や岩、草花が虎蜘蛛と共に宙に浮き始める。ジンの目は鮮血のように赤く光り、虎蜘蛛を中心とした一帯を無重力化した。
魔術は想像力が根幹だ。初の試み且つ大雑把な想像のせいか、対象の虎蜘蛛だけでなく、地面より上に生えてる物が共に浮いてしまったのは誤算だ。
ーーキイキイ…ッ
虎蜘蛛は数が少なくなった脚を懸命に動かす。動かせば動かすほど、浮く速度が上がっていく。地面から離れ、尻から飛ばした白い糸で木々に縋るが、糸はフィルの体当たりで千切られ、更に速度が上がって浮き上がった身体は空へと高く上がる。
虎蜘蛛は空も飛べる。それは糸を風に乗せた場合だ。だが糸のない、無風のような空間は初めてだろう。そんな虎蜘蛛の視界には、噛み締めた口端からバチバチと雷光を迸らせ睨み付ける、黒と白の雪だるまのような姿になってるドラゴが見えた。
「やって良いぞ、ドラゴ」
遥か下の地上からの声が聞こえたのか、ドラゴは口を大きく開くと同時にカッと周囲を白い閃光で包む雷撃を放った。
崖の上で見ていたガランと、後からやって来た応援も、崖下に降りていたランディも、宙に浮いた虎蜘蛛が眩い光に包まれるまでは見ていた。しかし明る過ぎて強く目を瞑る。
そして轟いた大きな雷鳴と爆発音。
その数拍後、バタバタと降り注ぐ何かに全員が目を開け
「「「「「ギャーーーーーッッッ!!!!」」」」
雄叫びが天を震わせた。
在校生の帰省や、貴族科と騎士科の卒業生達が本格的に退寮し始めたので学園内は随分と静かだ。
ハンスとテオドールも帰省、ギルバートは残っているが騎士科の冬季合宿とやらに参加しているので不在。
ロキも魔塔主からの誘いを受けて外出していて、友人の中ではイルラだけが寮に残っていた。
そんなイルラは寒さに弱く引き篭もっているので、ジンが寮室の暖炉に持ちの良い魔術の火を点け、更にお手製の火熱結晶球の山を部屋の至る所に置いてあげた。もう隠す事もないから、存分に。
それでも厚手のカーディガンを着込むイルラの、身体より大きな服のシルエットが愛らしい。服の中にはカカココが入っている。
暖かくなった部屋の中で、手入れの行き届いた観葉植物に囲まれた従魔スペースにイルラは居た。絨毯の上に座って本を読んでいる。その襟元から双頭だけ出したカカココは、主人の顔の横で出掛ける準備をしているジンを眺めていた。
「今日もギルドか」
脇にマントを抱えて立ち上がったジンを視界の端に捉えると、イルラは本から顔を上げた。学園公認になったので、ジンは堂々と装備品を身に付けている。ハイネックの半袖黒シャツは寒々しいのだが、本人は気にしていない。その首元を指で整えながらイルラを見る。
「うん」
「ここ最近毎日行ってる、忙しいのか」
「そう、忙しい。今のギルド長が試験のやり直しを決行したら、降格になった連中が山ほど出たんだよ。おかげでAランク以上が足りてねぇの」
夏の特別課外授業後、中央ギルドは大々的に組織の立て直しを始めた。前々ギルド長であるザバンが逮捕された時に本来はやるべきだったが、ローガンでは登録者達の反発を止められなかったのだ。今回ガランと中央へ残ってくれたランディを主体に、連日連夜ランク試験を強行したのだが、ガランも流石に予想だにしなかった人数のランク降格が決まり頭を抱えていた。
ここが中央でなければ、殉職者が続出しているレベルだ。まあ、それを見越した上でザバンは登録者達を唆していたのかもしれない。
シヴァと別れたあの日、ギルドから速達が届いた。それから今日まで休みなくギルドへ通っている。
「頼りにされているのは分かるが、先生が帰って来たら特訓も始まるんだろ。少しは休んだ方が良い」
「そうだな、特訓が始まる前には休むよ。心配してくれてありがとう、行ってくる」
「……うん、気を付けて」
イルラの顔に「ウソだ」と書いてあった。だがオレンジの目が少し不満そうに睨め付けてくるだけで何も言わないでくれる。
「ジン」
と思ったがやはり何か言いたいのか。出て行こうとしたジンは再び振り返った。
「窓から出て行くのはやめた方が良い」
窓に引っ掛けていた足、ドラゴとフィルもいつでも出れるように既に待機している。ジンは「うーん…」と唸ってから口端を吊り上げた。
「考えておく」
言いながら窓枠を蹴り、飛び降りる。窓を閉めるのはドラゴの仕事だ。家に居た頃から窓からこっそりと出る事は多かったので手慣れたものだ。ジンと2頭の気配はすぐに消え、彼らが出て行った窓をイルラは暫く眺めていた。
窓の外は冬の朝らしい薄曇りだった。
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(休むって、ちょっと苦手なんだよな)
ジンは過ぎ行く景色を駆け抜けながら思った。心配はありがたいし、身体を休める大事さは分かってるつもりだ。
だが昔から動いている方が楽だった。
ドラゴとフィルからの付随特性なのか、体力は男性平均と比べれば無尽蔵のようにあるし、疲労感も感じにくい。疲れる理由は大体気疲れだ。少し寝れば魔力も体力もある程度戻るし、一晩寝れば全回復する。
ジンの体力と魔力を削り落とせるのは高ランクの魔物か魔獣か、ロキくらいだろう。
(……やっぱ先生最強説…)
ドラゴンやフェンリルの共有魔力や付随特性があるジンと違い、ロキはその身だけなのだから。肉体的な強さや体力はもちろんジンより大きく下回るので、肉弾戦になれば話は違う。だがそれも結界や防御、肉体強化や操作で応戦出来るのかもしれない。
まともに反撃をした事がないので、実際の所は知らない。
「ジン遅い!!オレ様はもっと早い!」
頭上から声が降って来た。姿の見えないドラゴだ。思考の散漫はどうしても動きに影響する。いつもより遅くなっていた足に、ギルドに行きたくて仕方ないドラゴは不満なようだ。
(まあ、こいつらが本物な訳だけど)
ドラゴとフィルが本気を出したらジンもロキもひとたまりもないだろう。
ドラゴは痺れを切らして先を行く。足の左側で並走するフィルを見た。視線に気付いたフィルが顔を上げる。その目が楽しそうに見えて、ジンも微笑んだ。
「ドラゴに追いつこう」
フィルは「わふっ」と息のような声を出し、スピードを上げたジンと変わらず並走する。
人気のない道や屋根の上を走り、ギルドの手前で裏路地へと降りた。鼻につく嗅ぎ覚えのある匂い。
血だ。
おまけに騒ついている空気がギルドの建物周辺まで漂っていた。
(何かあったか)
黒い狼口とフードを被り、ドラゴの重みを左肩に感じながらギルドの表へと出た。入口から中の怒号が聞こえた。「急いで向かえ!」のような声だ。慌てて飛び出していく男達と擦れ違いにジンは中へと入る。血の匂いは一層強まった。血を流した登録者達が床に寝かされている。
「こっちに!急いで!」「Aランクの冒険者を至急呼び戻せ!!」「谷方面でも依頼対象外の魔物の闖入発生してると報告が…!」「回復薬が足らない!誰か応急処置のケース持って来て!!」
バタバタと走り回るギルド員や手伝いに回っている登録者達を眺める。各カウンターでは列が出来て、待ちくたびれた登録者達が苛立っている。ランク落ちのせいで高額依頼を受けられなくなった連中は、声も掛けられないから無関係を振る舞っているようだ。
「ニンゲンはうるさい」
ドラゴも無関係とあくびをしながら左肩で呟いた。見えないドラゴをチラリと見て、少し笑う。こう言う存在が傍に居ると慌てるのが馬鹿らしくなる。まあ、逆にパニックに陥ってる人間を見て冷静になる事もあるが。
(さてと)
ガランの気配がない。この騒動の現場に向かったのだろう。状況を把握してそうな奴が居ないかと探っていると、背後のドアから人が飛び込んできた。中央に来た頃、ここのルールが云々と声を掛けて来て、特別課外授業にも来ていた男。青褪めた顔で、赤髪の女を肩に担いでいる。女は意識なくダラリと項垂れていた。
「誰か!コイツを手当てしてやってくれ!!」
叫び声は慌ただしい騒音に混じる。数人は気付くが手が空かず、一瞥しては目の前の作業へ戻ってしまうか、我関せずと無視を決め込む。
「頼む…!誰か!!」
「ほら、これ飲ませろ」
ジンが横から上級回復薬を差し出す。男は目をひん剥いて振り返って来た。
「透影…!」
「死に掛けてんだろ。早く」
「あ、ああ、ありがとう!恩に着る!」
「ここじゃ邪魔になる。あっちへ」
男はドアの前から端へと移動し、床へと寝かせた。転がる女の腹から床にゆっくりと血が広がり、髪から覗く顔に血の気はなかった。
ジンも女を挟んで向かいにしゃがみ込んだ。男に上級回復薬の瓶を渡し、首を持ち上げる。
「もう自力で飲める力はなさそうだ。口移ししろ」
「えっ!?」
「早く」
躊躇う男を見据えると、男は意を結したように口に含んで女へ覆い被さる。その間にもう1本、上級回復薬を片手に出してドラゴに蓋を向けた。「開けてくれ」と呟くと、カリカリと蓋が開けられる。多分両手で開けてる。開いた瓶から女の腹部へと薬を掛けた。
「…はっ…まだ、ダメか」
「全部飲ませろ」
「うう…っ、後で殺されたらお前が謝ってくれよ!」
「分かった。その時は謝っておく」
男は女へ口移しを繰り返し、瓶の中身を空っぽにした。女はゴホッと咳き込んで血を吐いたのを合図に呼吸が戻り、顔色も良くなって来た。顔を横に向けて寝かせ、女を呆然と眺めている男へ顔を向ける。
「それで、何があった」
「……滝のある狩猟区域で、Aランク依頼を受けた連中から応援要請が来たんだ。高ランク魔物の、闖入で。それで、手が空いてるAランクハンターやBランクの冒険者で応援に行ったんだが、あそこは、崖で」
「ギルド長もそこに?」
長くなりそうな返答にジンは言葉を切る。ガランが向かったのならかなりの緊急事態の筈だからだ。
「あ、ああ、そうだ。ギルド長も来てくれた。ランディさんもだ!でも、あの2人も焦ってるように見えた。透影、お前なら何とか出来るんじゃないか!頼む!」
特別課外授業での透影の事はガランの意向で口外禁止となった。とは言え、破落戸も多いこの場では焼け石に水だろうと誰もが思った。
しかし元々ギルドでも影が薄かった透影と、ドラゴンとフェンリルを連れたフェロモン剥き出しの男が合致しない参加者の方が多く、更にその後ますます影を薄くし、より存在を隠して活動していたので、課外授業の件は『謎の男』として片付くと言う珍妙な結果に落ち着いた。
だが目の前の男は、分かってて黙っていた礼節のある男のようだ。
「見てないから何とも。でもまあ、行ってみるよ。滝のある狩猟区域、3箇所あるけど、小中大どこ」
「中だ!今から行くなら俺の馬を…!」
「大丈夫。足ならある。これ、俺からって言わずに渡してくれ。少ないが足しになるだろ」
ジンは立ち上がり、ドアへと向かう。男は手に乗せられた6個ほどの薬瓶を見下ろし、目を見開く。全て上級回復薬だからだ。顔を上げた時にはもうジンも、傍にずっと居たフィルの姿もなかった。女が「うーん…」と唸ったので、意識がある事に安堵した後、慌てて立ち上がって応急処置に走り回るギルド員達の元へと向かった。
.
.
.
「……どうすっか」
ガランは先程までの戦いの傷痕を色濃く残す崖の上で立ち尽くした。死屍累々となった登録者達がまだ地面に転がっている。
「お前は行くな。崖下には俺が行く」
後ろからランディが大振りの剣を振るいながら声を掛ける。ガランは振り返らない。ただ硬く拳を強く握り込んだ。
「……俺の脚は、何でこんなに役に立たなくなっちまったんだろうか」
目の前で崖下へ落ちていく登録者達の姿を見た。正確には魔物に引き摺り落とされたのだが。
日常生活に支障はなくとも、魔物を走って追い掛ける事も、崖下へ飛び降りる事も出来なくなってしまった脚。
「ガラン…」
「ガランの身体はガランにそれ以上危ない事して欲しくなかったんだよ」
ランディが言葉に詰まった所で更に後ろから声が掛かる。2人が振り返るとジンがいつの間にか立っていた。
「…オメーはホントに神出鬼没なガキだな」
「ジ…透影!!どうしたんだお前!」
ランディは呆れてるような声を出した。驚くのも疲れると言った顔だ。ガランはしっかり驚いて、ドスドスと近付いてくる。フィルと共にジンも距離を縮めた。
「ジンで良いよ。それより何があったんだよ。ギルドに怪我人が溢れ返ってたけど」
「呑気に説明してる場合じゃねえ。おい、ボウズ、俺と一緒に崖下に行くぞ」
「そう?分かった」
「待て待て待て!ランディ!ちゃんと説明しろ!!お前も分かったじゃない!!」
「うるせえな、コイツに説明なんて要らねえだろ。蜘蛛が出たんだよ、でっけぇ虫だ。ソイツが登録者共を糸で巻き取って降りてったんだよ」
「ああ…下のデカい気配は蜘蛛なのか」
崖下は滝のせいで気配が読み難いが、確かに魔物の匂いと大きな何かを感じた。川の周りには白い繊維のようなものも多数散っている。蜘蛛の糸なのだろう。
「身体が硬く、すばしっこい。おまけに蜘蛛の糸で軽く飛ぶ事も出来る」
「そか、分かった。ランディ、俺1人で降りて良い?」
「……またこの小僧は…ボウズのが強いから1人が楽ってか?」
「ランディお前…ホント大人気ねぇな…孫に恥ずかしくないように生きろよ…」
ランディはあからさまに不機嫌になり、鼻の頭に皺を作った。まるで猛犬のような顔にジンは微笑ましくなってしまう。その猛犬はガランの言葉に牙を剥き出した。
「孫には見せねぇから良いんだよ!五十路の俺を敬う気がねぇコイツが悪いだろ!!」
「へえ、孫いんの」
「いや、今度産まれるんだとよ。だから中央に残ってなるべく安全な依頼受けてんだ。娘に孫抱くまでは絶対死ぬなって言われてるから。頑固親父も娘には弱いんだよな」
ガランの顔が少しニヤけた。
「なっ…!弱いとかじゃねぇ!ピーピーうるせぇから仕方なくだ!ンな話今はどうでも良いんだよ!」
カッと怒るランディの顔が不機嫌に歪んだが、照れ隠しだと分かる。
「じゃあ孫の為にも生存率上げてあげてよ。ランディは良いじいちゃんになりそうだし」
「オメエだって孫みてぇなモンだろうが。青臭い小僧の癖によ」
そんな場合ではないやり取りをしていると、「ギャオーーーーッッ!!!」と言う叫び声が聞こえた。3人の目が声の方、崖より前方の高い空中で白い糸に胴体を掴まれているドラゴを見た。繭のようになった身体から翼と頭だけを出し、八の字を描くように縦横無尽に飛び回る。下の木々がドラゴの動きで揺れ、枝を折り、葉を散らしているようだ。
「…居ないと思ったら」
呆気に取られたジンの呟きに「離せ!!オレ様はおこるぞ!!!」と吠えるドラゴの声が被さる。口の中にバチバチと閃光が明滅し始める。
「あ、アレは撃つな」
「撃つな、じゃなくて止めろ!!下に連れてかれた連中が居るんだよ!」
「だそうだ、ドラゴ。撃つな」
「グルルルルルルッッ!!!!!」
遠い距離を飛行しつつ、ジンの声が聞こえたのかドラゴは口を噛み締め強く唸った。更に糸を引っ張りながら藻掻き飛ぶドラゴの動きは怒りで激しくなっていく。だが下からも引っ張られているのだろう。高さは変わらず平行にぐるぐる回ってるだけだ。遠目からではまるで糸を付けられた虫のように見える。
「ドラゴ!落ち着け!」
聞こえてる筈だろうがドラゴは全力で無視して暴れ回っている。翼だけしか動かないだろうに元気だ。
「丈夫な糸だな。名のある魔物か?」
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ジンの問い掛けに2人は同時に眉を寄せた。即答しないと言う事は違うのだろう。
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ガランの説明に頷く。ジンの目線がドラゴを捕える糸の根本へと向く。
「ランディ、やっぱり俺が行くよ」
「アアッ!?!」
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言葉を最後まで聞かず、ジンは崖から飛んだ。足元に居たフィルもすかさず断崖を駆け降りる。
ガランとランディはギョッとして身を強張らせた。
ジンが飛行術を習得していない事を知っているからだ。
現段階における飛行魔術は魔力消費が大きい割に人間はさほど飛べず、更に感知されやすい。まだ不安定な魔術よりも、上手く使えばある程度の高さからの落下を余裕で防げる防御や結界の方が勝手が良い。
だが、ここの崖の高さはそんなものではすまない。
課外授業時のように受け止められるドラゴも大きくなれない状態だと聞いている。何より今は捕まっているし。
2人は慌てて崖下を覗き込んだ。
何かしら策があって飛んだと頭の片隅で分かってはいても、心配が身体を動かした。
しかし当の本人はどこ吹く風だ。
黒く艶やかなマントが風を孕んで翻る。
第二王子から貰ったこのマントは想像を遥かに超える代物だった。
飛行系魔物特性の『揚力』が付いているので少しの跳躍で高く跳び、滞空時間が長く、一足飛びでかなりの飛距離を稼げた。高い場所から飛び降りても落下速度は遅く、防御魔術なしで着地出来る。ただ浮くだけではないので、飛び方次第で高度も落下速度も調整出来る部分も良い。
おまけにこの揚力は魔物素材の効果なので魔力を消費しないし、感知される事も殆どない。
崖上から途中までは風に乗り、上空から下を見渡した。目標を捉えた瞬間、体勢を変えて空気を切るように滑空。
ドラゴに繋がる糸の根本。そこに居る。
腰に装備していた短剣を右手に構え、落下地点の目標に着地と共に突き刺した。
「!」
しかし、短剣は深くは刺さらなかった。糸だ。円網のメッシュ部に引っ掛かっている。
ーーーキイイィィッッ!!
虎蜘蛛が全身を震わせて鳴いた。立ち上がるような気配にその場から離れようとしたが短剣から糸が離れず、ジンはすぐさま諦めて短剣を置いて前方へとジャンプした。
木々の隙間と言う隙間に蜘蛛の糸が掛けられている事に気付き、後方に跳ぶ事は避けた。指を鳴らして進行方向の糸の巣を焼き払い、宙返りして地面へ着地。案の定、蜘蛛の背後にも縦横無尽に蜘蛛の糸が張り巡らされていた。
背中から糸に飛び込めば、短剣のように絡め取られた事だろう。
「ホントに良く育ったなお前」
確かに見た目は虎蜘蛛だ。複数眼の内、大きな2つはタイガーアイでその下に並ぶ小ぶりな4つの目は黒、特徴的な虎模様の腹部に8本の長い脚。触肢と上顎を動かし、ジンを真っ直ぐと見詰める顔は少し愛嬌がある。
本来ならば大きくてもジンの背丈を超える事はなく、小型に分類される魔物だ。
それが見上げる程大きく、横幅は木々に隠れて全長が見えない。
背中に刺さっただろう短剣を気にもせず、虎蜘蛛はカクカクと首を傾げる仕草を見せた。
(分類は中型か、ランクはどうだろうか)
魔物の強さは体長よりも能力による。ただ大きくなっただけでは脅威とは呼べない。人的被害や自然破壊への影響が大きくなるほどランクは上がる。
ジンの思考を読み取ったかのように、「では見せてやろう」とでも言いたげに口から白いボール状の糸を飛ばして来た。瞬時に避けるとボールは地面に当たって破裂し、蜘蛛の巣状に広がった。
(アレに当たっても捕まりそうだな)
間髪入れずに2弾、3弾と打って来た。闇雲に動けば張り巡らされた蜘蛛の巣に捕まる。ジンは頭を低く保ち、巣に引っ掛からないように駆け出した。
ガランが言っていた、『連れてかれた連中』の場所を把握しなければ。どうにも気配が読み難い。匂いも。虎蜘蛛の糸のせいだ。ただ微かに声がする。
頭上から、散り散りに。
上を見ると繭のような塊が至る所にぶら下がっていた。大小様々で中には蠢いているものもある。
虎蜘蛛の習性だ。捕らえた獲物を糸で巻き上げて保管する。この周辺を既に自分のテリトリーとしたと言う事だ。
それにしても頭上にぶら下がる繭の数が多過ぎるように思う。
(巣を作って、さあごはんだ!と言う時に次々とハンター達が来たからブチ切れたのか?)
この巨体ではそもそもの必要数が平均を大きく上回るのは分かる。しかし虎蜘蛛の習性としては、必要以上に狩猟はしない筈だ。だからこそ見掛けても放置される事が多い魔物だった。
(……この数、ハンター達だけじゃねぇな)
一帯の魔物や獣も手当たり次第に捕らえたような数だ。闖入騒動の前からここに巣食い、食べもしない獲物を吊るしていたと想定しても良さそうだ。
木々の隙間を縦に横にと体勢を変えて追い掛けてくる虎蜘蛛。サッと大きな木の後ろへと隠れると、飛ばされたボールが木の幹にぶつかり広がった。逆側から出ると共に、指を鳴らす。指先で小さな炎が弾け、真っ直ぐと焔が走る。
虎蜘蛛の頭胸部に当たる寸前で、炎は蜘蛛の巣状に広がり消えた。炎が当たった場所に残る蜘蛛の巣が仄かに光っていた。まるで魔術紋や魔法陣のようだ。
「…魔術防御が出来るのか」
加減に加減を加え、かなり弱めに放ったとは言えこうもあっさり防がれるとは。もしかして小型も出来るのだろうか、小型は短剣で十分仕留められるので分からない。
驚くと共にジンは薄笑いを浮かべていた。無自覚に。だがすぐに笑みは消えた。再び飛ばされた糸のボールを避けて走り抜ける。
頭上に吊るされた繭の中にはまだ生きている者もいるだろうから、ここで無闇に魔術を使う訳にはいかない。
短剣は今だに彼の背中に刺さったままだ。
(後で回収するとして…安直に突っ込むのは危険そうだな。短剣同様、糸に絡み取られる恐れがある)
背後からボッ!!と強い音が聞こえ、頭を右へズラすとスレスレを糸ボールが飛んで行った。前方の木に着弾し、広げられた蜘蛛の巣が道を塞く。
ーービュンッ!!
速度を落とした瞬間、風を切る音がした。うなじがソワつき、咄嗟に横へと飛ぶ。マントを掠ったのは蜘蛛の歩脚、その先端の爪だ。ズシャリッと土に深く突き刺さった。
「あぶね」
体躯に比べれば細い先端だが、人間にとっては杭よりも太い爪だ。一撃で殺されるだろう。
土を撒き散らし爪が再び持ち上がる。避けようとしたが左脚が動かない。茂みに隠れていた蜘蛛の巣に足を踏み込んでいた。
「しまった、上にばかり気を取られてたな」
ここまで地面に近い場所に糸はなかったからだ。これが偶然の産物か、実は至る所にこのような罠が仕掛けられているのかは判別つかないが、まんまと引っ掛かってしまった。
ジンの動きを分かってるのか、狙い済ました脚が勢いを持って振り下ろされる。
ーーーギイィンッッ!!
取り出したのは、手に馴染んだ長年愛用していた短剣だ。青白い刀身が防御魔術の残滓を光らせ、爪を受け止めた。虎蜘蛛は力を緩めず、そのままゴリ押しして来る。弾き返すタイミングを窺いつつ、均衡を保つ。
「わんっ!!!」
更に馴染みのある声が横から聞こえたと思ったら、鼻の頭に皺を深く刻んだフィルが横合いから飛び込んで来る。受け止めた歩脚とは別の歩脚がジンの腹を狙っていたようだ。その脚に咬みついて、そのまま引き千切った。ほぼ同時にジンも目の前の歩脚を斬り落とす。
ーーーギイイイッッ!!!
2本の脚先を失った虎蜘蛛は嘶き、緑の体液を飛ばしながら脚を引っ込めた。ガサガサと葉を大きく揺らして後退していく。
「ありがとうなフィル、助かったよ」
隣に立つフィルはしっかりと千切った脚を咥えて、威風堂々と胸を張っていた。しかしよく見ると片耳や背中に蜘蛛の巣が引っ掛かっている。
「…少し捕まってたか」
必死こいて逃げ出して来たのだろう。容赦なかったのはその苛立ちからか。ちょっと笑ってしまった。ペッと吐き出すように脚を横に投げ、フィルが寄って来る。ジンも蜘蛛の巣から逃れようと左脚を強めに動かすも粘つきは剥がれない。依頼中は常に様々な肉体強化を息をするように施しているのに。
「やるな」
感心してると少し距離を取った虎蜘蛛が顔を完全にこちらに向け直し、構えた。「ぐるるるぅーー…」とフィルも頭を低めて牙を剥き出し構え返す。
「フィル、飛び込むなよ。また捕まるぞ」
ピクピクとフィルの耳の先が動いた。伝わったようだ。
虎蜘蛛はジン達に向かってボールを連射した。
「待て」
応戦に身構えたフィルはピタリと動きを止めた。その頭の上を滑る、赤い閃光が全てのボールを溶かし、炎の斬撃が虎蜘蛛へ走った。しかし直前で再び蜘蛛の巣状に散って、炎は雲散してしまう。先程より大きな円網が虎蜘蛛を守っている。ジンは更に指を鳴らし、水の弾を飛ばし、間髪入れずに雷を走らせた。水も雷も矢張り蜘蛛の巣状に広がって消えていく。
(あれは属性関係なく防御出来るのか?もしそうなら、強いな)
見た目は虎蜘蛛と同じ巨大蜘蛛は魔力の潤沢さも使い方も小型とは違う。だが別種とも思えない。
(突然変異だな、こいつ。大型獣と同じ仕組みかは分からないが…)
大型獣とは自然界の魔素及び魔力を取り込み過ぎた獣の個体が、ある日突然大きくなる突然変異種だ。だが彼らの生態や習性は変わらない。見た目も基本的にそのままだから分かりやすい。
目の前の虎蜘蛛も、直感でしかないが"同じ"だと感じる。ただ大きくなっただけではないようだが、匂いや気配は見れば見るほど"同じ"だ。
魔術防御の蜘蛛の巣を張ってる間は動きが鈍くなる虎蜘蛛の隙を見て、左脚に引っ掛かる蜘蛛の巣を燃やし、フィルへ「行くぞ」と声を掛けながら走り出す。
フィルは少し口惜しそうに虎蜘蛛を見てジンの後ろを付いて来た。その更に後ろを虎蜘蛛が追い掛けて来る。
ーーーキィィッ!
ボッ!と背後にいくつもの糸ボールを飛ばされているようだが、時折肩越しに背後を見るだけでジンは無心で走る。フィルも軽やかにボールを避けていた。
(よし、抜けたな)
ジンは背後を確認し、木々に張られていた虎蜘蛛の糸が薄れた所で振り返った。虎蜘蛛も止まったジンを見てすかさず糸を吐く前動作へ入ったがーー
「『浮雲』」
掌を向けたジンの呟きの方が早かった。虎蜘蛛は糸を吐いたがボールは勢いを無くしその場で浮いた。メキメキと周囲に木々の軋む音が響き、根を引き摺り土から抜けた。石や岩、草花が虎蜘蛛と共に宙に浮き始める。ジンの目は鮮血のように赤く光り、虎蜘蛛を中心とした一帯を無重力化した。
魔術は想像力が根幹だ。初の試み且つ大雑把な想像のせいか、対象の虎蜘蛛だけでなく、地面より上に生えてる物が共に浮いてしまったのは誤算だ。
ーーキイキイ…ッ
虎蜘蛛は数が少なくなった脚を懸命に動かす。動かせば動かすほど、浮く速度が上がっていく。地面から離れ、尻から飛ばした白い糸で木々に縋るが、糸はフィルの体当たりで千切られ、更に速度が上がって浮き上がった身体は空へと高く上がる。
虎蜘蛛は空も飛べる。それは糸を風に乗せた場合だ。だが糸のない、無風のような空間は初めてだろう。そんな虎蜘蛛の視界には、噛み締めた口端からバチバチと雷光を迸らせ睨み付ける、黒と白の雪だるまのような姿になってるドラゴが見えた。
「やって良いぞ、ドラゴ」
遥か下の地上からの声が聞こえたのか、ドラゴは口を大きく開くと同時にカッと周囲を白い閃光で包む雷撃を放った。
崖の上で見ていたガランと、後からやって来た応援も、崖下に降りていたランディも、宙に浮いた虎蜘蛛が眩い光に包まれるまでは見ていた。しかし明る過ぎて強く目を瞑る。
そして轟いた大きな雷鳴と爆発音。
その数拍後、バタバタと降り注ぐ何かに全員が目を開け
「「「「「ギャーーーーーッッッ!!!!」」」」
雄叫びが天を震わせた。
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