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第6章
一つの恐怖の終焉
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初めての役どころは、ナンパされてそのままセックスするという、美弥の日常の一コマをそのままなぞったものだった。
問題は、ベッドの周りにカメラマン、照明や音声などのスタッフがいることだ……。
AVの撮影なのだから当然だが、その状況に美弥は尋常でないほど緊張してしまい、体が自分のものではないかのようになっていた。
その美弥にあのスカウトマンが言った。
――そのままガチガチに緊張してればいい。そして、ただ、目を閉じてればいい、感じたふりをする必要もない、と。
初めての撮影ということで、付き添ってくれていたのだ。
美弥はそれでいいのだろうかと思いながらも、男に言われたとおりに目を閉じ、緊張したままの体を男優にあずけた。
気付けば撮影は終わっていた――。
「おつかれさま! よかったよ! これぞ遊び慣れてないっていう素人だった」
スカウトマンの片桐が声を張り上げた。
その声にカメラマンやスタッフも、うなずいている。
美弥自身に出来の善し悪しなど判断はつかないが、スタッフらの満足気な反応にうそはないように感じた――。
そして思う――今日を機に私の裸は確実に世に出回る――、14歳の私を強姦しながらあの男は、何枚も写真を撮った。それを男がどうしたかは知らない。それを想像するのは、恐ろし過ぎた。20歳になった今でも怖かった――。
でも、それも今日で終わりだ、私は自分の意志で裸体を世に晒した。
美弥は目を閉じ、自分を納得させるように微かにうなずいた――。
片桐の「初めてで疲れただろ?」という声に、美弥は我に返った――。
スカウトした女が稼動すれば稼動するほど金が入る仕組みなのだろうとおぼろげにわかりつつも、気遣いがうれしかった。
片桐はスカウトだけでなく、女優たちへ出演の打診や管理など色々な仕事をやらされている、と苦笑いを浮かべ「また、美弥ちゃんに合いそうな作品があったら連絡するよ」と言った。
その言葉に美弥は、お願いします――と返した。
以後、言葉通り、不定期にAV出演の打診があった。
AV業界のことも片桐が色々と教えてくれた――。
―――AV業界には美弥と同じように性的被害者が多い。
ある日、突然、自分の意志とは無関係に無慈悲に蹂躙された被害者は、否応なしに深い闇を抱える。それぞれにそれぞれの形で闇に向き合わざるを得ない。その中の一定数は美弥が陥ったような思考形態を辿る――。被害者なのに自分で自分を貶めていく。己の肉体やセックスの価値観を歪めていってしまう。最悪の場合、自ら命を絶つ―――。
もっとも、業界には単純に金が稼ぎたかったり有名になりたい――といった能動的動機を持つ者も多くおり、モデルやグラドルから流れてくるケースもある。
問題なのは、騙してAVに出演させるケースだ。美弥のように性的被害からAVに辿りつく場合ですら本人の承諾といった土台がある。それすら無く女性が世に媚態を晒される。
片桐の所属する製作会社では、そのようなことはご法度としていた。だから美弥をスカウトした時にも、いきなり正体を明かしたのだ、と片桐はいつか美弥に言った。
食品工場の仕事の合間を塗って、美弥は様々な役をこなした。
視聴者アンケートなどで美弥の演技くささを全く感じさせない素人っぷりは好評だった。
だから仕事はいくらでも回ってきた。しかし、レイプものだけは、決して受けなかった。作り物とわかっていても、どうしても心と体が受け付けなかった――。
――AVに出始めて一年が経った頃、思い切って寮を出た。
ウサギ小屋のような狭いワンルームだったが、はじめての一人の城だった。
同時に仕事も勤務時間がしっかりと決まっている全国チェーンの弁当屋に変えた。時給は似たようなものだったが、その方がAVの仕事と組み合わせやすかったためだ。
日々は慌しく過ぎてゆく。体はきつかったが、この状態を何年か続けられたなら夢を叶えられるかもしれない――そんなほのかな希望にも似たものを上京してから初めて感じていた。
彼女に出会ったのは、そんな頃だった―――。
(第7章に続く)
問題は、ベッドの周りにカメラマン、照明や音声などのスタッフがいることだ……。
AVの撮影なのだから当然だが、その状況に美弥は尋常でないほど緊張してしまい、体が自分のものではないかのようになっていた。
その美弥にあのスカウトマンが言った。
――そのままガチガチに緊張してればいい。そして、ただ、目を閉じてればいい、感じたふりをする必要もない、と。
初めての撮影ということで、付き添ってくれていたのだ。
美弥はそれでいいのだろうかと思いながらも、男に言われたとおりに目を閉じ、緊張したままの体を男優にあずけた。
気付けば撮影は終わっていた――。
「おつかれさま! よかったよ! これぞ遊び慣れてないっていう素人だった」
スカウトマンの片桐が声を張り上げた。
その声にカメラマンやスタッフも、うなずいている。
美弥自身に出来の善し悪しなど判断はつかないが、スタッフらの満足気な反応にうそはないように感じた――。
そして思う――今日を機に私の裸は確実に世に出回る――、14歳の私を強姦しながらあの男は、何枚も写真を撮った。それを男がどうしたかは知らない。それを想像するのは、恐ろし過ぎた。20歳になった今でも怖かった――。
でも、それも今日で終わりだ、私は自分の意志で裸体を世に晒した。
美弥は目を閉じ、自分を納得させるように微かにうなずいた――。
片桐の「初めてで疲れただろ?」という声に、美弥は我に返った――。
スカウトした女が稼動すれば稼動するほど金が入る仕組みなのだろうとおぼろげにわかりつつも、気遣いがうれしかった。
片桐はスカウトだけでなく、女優たちへ出演の打診や管理など色々な仕事をやらされている、と苦笑いを浮かべ「また、美弥ちゃんに合いそうな作品があったら連絡するよ」と言った。
その言葉に美弥は、お願いします――と返した。
以後、言葉通り、不定期にAV出演の打診があった。
AV業界のことも片桐が色々と教えてくれた――。
―――AV業界には美弥と同じように性的被害者が多い。
ある日、突然、自分の意志とは無関係に無慈悲に蹂躙された被害者は、否応なしに深い闇を抱える。それぞれにそれぞれの形で闇に向き合わざるを得ない。その中の一定数は美弥が陥ったような思考形態を辿る――。被害者なのに自分で自分を貶めていく。己の肉体やセックスの価値観を歪めていってしまう。最悪の場合、自ら命を絶つ―――。
もっとも、業界には単純に金が稼ぎたかったり有名になりたい――といった能動的動機を持つ者も多くおり、モデルやグラドルから流れてくるケースもある。
問題なのは、騙してAVに出演させるケースだ。美弥のように性的被害からAVに辿りつく場合ですら本人の承諾といった土台がある。それすら無く女性が世に媚態を晒される。
片桐の所属する製作会社では、そのようなことはご法度としていた。だから美弥をスカウトした時にも、いきなり正体を明かしたのだ、と片桐はいつか美弥に言った。
食品工場の仕事の合間を塗って、美弥は様々な役をこなした。
視聴者アンケートなどで美弥の演技くささを全く感じさせない素人っぷりは好評だった。
だから仕事はいくらでも回ってきた。しかし、レイプものだけは、決して受けなかった。作り物とわかっていても、どうしても心と体が受け付けなかった――。
――AVに出始めて一年が経った頃、思い切って寮を出た。
ウサギ小屋のような狭いワンルームだったが、はじめての一人の城だった。
同時に仕事も勤務時間がしっかりと決まっている全国チェーンの弁当屋に変えた。時給は似たようなものだったが、その方がAVの仕事と組み合わせやすかったためだ。
日々は慌しく過ぎてゆく。体はきつかったが、この状態を何年か続けられたなら夢を叶えられるかもしれない――そんなほのかな希望にも似たものを上京してから初めて感じていた。
彼女に出会ったのは、そんな頃だった―――。
(第7章に続く)
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