―レイプされたあの日から―

雨宮 千夏

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第3章

 似た少女たち

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 父親はおらず、思春期まっさかりに母親の男に犯され続けた―――。

 それが美弥が今もってして、うまく男性との距離や関係を構築できない原因だろう。
 
 少女の頃から恋愛を自分には関係のないものに感じてしまったのも、セックスに感じないのも、感情を出来る限り遮断して常に茫漠として漂っているように感じるのも、すべてはそこから始まったのだろうと美弥は思う。心理学者じゃなくても、そんなことはわかる。

 母親の奔放さや無思慮に振り回され、母親の男に地獄を見せられる少女が今も日本に無数にいる―――。

 
 ―――結婚前、色々な職場を渡り歩くなかで、美弥はたくさんのシングルマザーに出会った。

 その中には自分の恋愛事情をうれしそうに語る女性もいた。子供が女の子だと聞くと、胸におもりを押し込まれたような気持ちになった。母親の男たちに怯えた少女時代が蘇える。
 必ずしも美弥のような被害に遭うとはいえない。しかし、少なからずその危険性をはらむ。
 

 見知らぬ自分と似た少女たちに、美弥は何もしてあげられない。相談に乗ってあげる事も分かち合う事も。どうか自分のように、幸せになりたいという気持ちを放棄するような無機質な人間にならないで欲しいと願うだけだ。

 しかし、そんな願いとは裏腹にシングルマザーの恋人や養父による少女への性的虐待は後を立たない。日々のニュースを見るに増えている感すらある――。


 ―――倉重の結婚の申し入れをどうするかに迷っていた頃、性被害にあった女性が顔を出し実名告発したことが話題になった。不思議なことにネットでは女性に対し「枕営業失敗の腹いせだろ」「自分から誘ったくせに」などというバッシングがあふれていた。それよりももっと驚いたのは、不可解に逮捕状が取り下げられた男の擁護があふれていたことだ。意味がわからず、画面を見ていると吐き気がこみあげた。

 職場の休憩室で同僚とその事を話題にしていると、社員の男性が言った。
「男が総理のオトモダチだからネットの書き込み要員をバイトで雇って大量に書き込ませているんだろ。はした金で徹底的に政権を擁護する奴らだよ。政権の不祥事が追求されてる時なんか一目瞭然だ。似たような文言で擁護の大合唱であふれる」

 なんとなく腑に落ちた――この件だけに限らず、美弥のような低賃金で雇用が不安定な非正規を増やす方針や、多くの庶民が疲弊する増税を絶賛し「嫌なら日本から出ていけ」「総理のやることに文句つけるな」などいう書き込みが大量にあるのも、そういうことなんだろう。

 学歴も教養もないから政治や法律など難しいことはわからない。ただ、今の政治が、弱者を救うのではなく、弱者をさらに蹴落とし、さらに弱者たらしめようとしていることぐらいはわかる。

 この国では弱者は救われない。弱者の悲痛な叫びは嘲笑され、封殺され、黙殺される。
 
 そして弱者が人知れず自ら命を絶っていく―――。


 ――美弥は、自分もいつその選択をしてもおかしくないと思っていた。

 だからこそ、賭けにも似た倉重の結婚の申し入れを浅はかにも受け入れてしまったのだろうとも―――。
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