―レイプされたあの日から―

雨宮 千夏

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第1章

 予想だにしない答え

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 美弥はしげしげと倉重を見つめた。この人は何を言っているのだろうと思いながら――。

 ご両親もなにも私には身寄りがない。
 いや正確にいえば母がいる。今も生きていれば――。
 でも、もう10年以上連絡すら取っていない。故郷にも帰っていない。母は私の居場所も知らない。
 
 そんなことは人に話すことではないし、できれば話したくもない。

 しかし、いい機会かもしれないと思った。倉重がいったい私の何をそこまで買っているのかわからないが、身寄りもない社会の底辺で漂う30歳間近の女は自分にはふさわしくないと目が覚めるだろう。

 だから美弥は言った。

 「わたし……身寄りがないんです。身寄りがないだけじゃなくて、何もないです。倉重さんのようなちゃんとした人と付き合ったり結婚する女じゃないです」

 
 男は、美弥の予想以上に驚いた顔をした。

 ほら、目が覚めたでしょ? 私とあなたでは住む世界が、住んできた世界が違う。こんな食事も今日が最後。どうぞ同じ世界に住む人の中から結婚候補を選んでください――美弥は心の中で、ここ最近の異質な出来事に別れを告げた。


 ところが、倉重から返ってきた言葉は美弥の予想だにしないものだった。

「僕は君の雰囲気や働きぶりに好意をもった。そして、こうしてまだ少しだけど君と時間を重ねて君を知るにつけ、ちゃんと付き合って結婚したいと思うようになった。だからご両親がいないなら、身寄りがないのなら、二人で暮らしていけばいい。僕もすでに両親を亡くしているし、身寄りのないもの同士だ」そういって、笑った。

 そして黙っている美弥に「焦らなくていいから、ゆっくりと考えてほしい」と言った。

 
 なかば倉重の件は、今日で終わりだと考えていた美弥は、どうしていいかわからずに目を伏せ、黙りこんだ。

 それを取り成すように倉重が世間を騒がせているニュースを話題に話し始めるのを、ぼんやりしたまま聞いた―――。
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