戦国異伝~悠久の将~

海土竜

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信貴山城の戦い

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 松永久秀が居を構える信貴山城は、四階建ての天守を持ち、扇方に広がる曲輪が迷路のように攻め入る敵を袋小路に誘い込む、難攻不落の実戦型山城である。



「秀頼様、こっちも行き止まりです」



「なぜだ! なぜこんなに行き止まりばかりなんだ!」



「敵の進軍を阻むためですよ~。迷って本丸まで近づけないようにしているのですよ~」



「小賢しい奴め、だが迷路には決定的な攻略法があるのを知っているか? どんな迷路でも確実にゴールにたどり着く方法がある」



「本当ですか? 流石は秀頼様!」



「そう、迷路とは片側の壁に沿って進めは必ず出口へとたどり着くのだ!」



「まさかそんな方法が! かなり遠回りをする羽目になりそうですが、確実な気もします」



「早速、壁沿いを進むぞ!」



「おー!」



 しかし、攻める兵士たちからさらに悲鳴が上がった。



「ギャー! 壁の隙間から槍が!」



「こっちは、上から熱した油が!」



 城の壁にはいろいろな仕掛けがあるため迂闊に近づけはしないのだ! なんと卑劣な罠だ!



「おのれ松永、この様な手段を講じるとは、人道にもとる畜生め! こうなったらこちらも手段を択ばん……」



 だがどう攻めれば……。確か歴代の名将が攻城戦で使ったという禁断の手があったはず、威力もさることながら精神的にも相手を追い詰める恐るべき策だ。



「秀頼様……? 厠なら向こうですが……」



「違う、これが攻城戦における禁じ手と言われた、堀に立小便をする作戦だ」



「それで、何か?……」



「……あれだ、家の前で小便されると嫌だろう? そうやって相手を追い詰める作戦なのだ、さぁお前もやるんだ」



「嫌ですよ~、うちで飼っている犬だってそんな事しませんよ~」



 なんだと! 人の道どころか獣の道さえ踏み外しているというのか!

 これも松永の策なのか? いやそもそも城攻めでの策など誇張された逸話ばかりだ、熱した糞尿を相手に

かけるとか、鍋で煮る係りの方が罰ゲームだろう。そんな命令されたら普通はその場で謀反だな、実際に使える筈が無い。ならばこの難攻不落の城をどう落とすか……。



「秀頼様、見てください! 蒲生氏郷様が次々と曲輪を突破していっています! 上から降ってる来る罠もへっちゃらですよ~」



「マジか! 奴の兜は一体何で出来ているのだ。しかしこの好機逃すでない、一気に本丸まで攻め込むぞ!」



 蒲生氏郷はただ蛮勇であった訳ではない。主家であった六角家が滅び頼れるものを失くした彼は、幼い弟や妹を守るため懸命に戦場で手柄を立てようとしていたのだった。



「この兜さえあれば、俺は負けない!」



 そう、彼の兜こそ、いつ命を失うかもしれない戦場で唯一頼れる物。歴戦の兵士たちの集まる戦場で年若い彼が傷つきやすい心を守っていた物。寝る時も風呂に入る時も、片時も外す事は無く、夜襲を受けて刀を持たずに飛び出した時も兜だけはしっかり被っていたという。



「銃も弓も、俺の兜には効かない! 壁も堀も、俺の兜を遮れはしない!」



 兵士たちの先頭を走る彼は、幾つも門を破り、激戦を繰り広げ、ついに松永の立て籠もる天守閣へとたどり着いた。



「氏郷、中々にやりおる……しかし、四層の天守閣、近くで見るとなお壮観だな。どう攻めるか……」



「そうですね~、あの高さから物を落とされるとヘルメットをかぶっていても痛いですよ~」



 城の防御って物を落とすだけなのか? 

 他に何かあった気もするが、大抵は物を落とすだけだよな? それなら落とす物が無くなったら城が落ちるのか? しかし四階建ての天守となると落とす物もたくさんありそうだし瓦とか落とされると厄介だな。やはり火計の出番だ、あれだけの高さがあると盛大に燃えるぞ、燃え盛る天守閣を囲んでキャンプファイヤーだ。



「秀頼様、誰か出てきました使者のようですよ」



「天守閣ごと丸焼きにしようというのに、今更なんの用だ?」



「松永久秀様が、平蜘蛛の茶釜を差し出してきましたよ~」



「茶釜?……」



 これは一体何の真似だ? そもそも茶釜ってなんだ? なんに使うんだ? 形からすると、蓋もある事だし鍋か? いや鍋にしては口が小さいような気もするが……。

 そうか、一人用の鍋か。それとも、おかゆとか作る奴か? それを持って来たと言う所に意味があるはずだ。つまり……、一人で鍋でもやっていろという事か! おのれ、なめられたものだ。許さぬ、許さんぞ!



「名物の茶釜ですよ~、降伏の証ですよ~」



「なに? そうなのか、それならそうと……」



 降伏してくれるなら助かるが、茶釜とかもらってもな……。

 実際、茶釜の使い方とか知っている奴はいないだろう? 名物とか言っても使い道の分からんものをどうするか……、そうだ!



「氏郷、この度の活躍、真にあっぱれよ。褒美にこれをやろう」



「ありがとうございます! これは、素晴らしい兜ですな!」



 兜なのか?



「ではさっそっく……、おお、ピッタリでございまする!」



 合体したぞ? 茶釜って、ああやって使うものだったのか! 名物と呼ばれる茶道具をいくつも装備する事で防御力が上がっていくのか!

 いや……、奴の被っているものは、本当に兜なのか……?
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