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早き雲の如く・激闘桶狭間
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北条早雲、それは戦国時代の黎明期の代表とされる戦国武将である。
頭角を現すと類まれな知略と武力によって次々と城を落とし、瞬く間に関東一帯を支配下に置く大大名にのし上がった男であった。
「早雲だとー!」
「そうです、知っている方ですか?」
「うん、良くは知らん!」
とは言っても、北条家と言えば豊臣の天下に最後まで抗った大名家だ。何代前かは知らんが、北条家を起こした男となると侮れん。しかし、合戦ともなれば手柄を立てるチャンス!
「父上ー! 父上、合戦ですよ!」
合戦が始まるのに、どこに行ったのだ?
ここで手柄を立てなければ、出世どころか一生サルのまま人間にさえなれずに過ごす事になってしまうというのに。
「千絵、父上を見なかったか?」
「あのサルですか? 私が来た時は見当たりませんでしたが」
「合戦の気配を察して逃げだしたのか!」
「そうですね~、山に行けば、また見つけられるかもしれません」
「こうしてはおれん、合戦が始まる前に山に探しに行くぞ!」
「はい、山狩りですね!」
走り出した秀頼の背に、全てを見透かし世界の果てまで突き刺さるような信長の視線が向けられていた。
「ほう……、合戦と聞いて勇んで駈け出すとはあやつ何者だ?」
「あれは、確か、サルの所の若武者だったかと」
「あの草鞋取りのサルにあのような部下がいたとはな。北条早雲相手に先陣を切るとは、手柄欲しさの勇み足か、策あっての事か、見定めさせてもらおうか」
「はっ、それがよろしいかと」
「……是非も無し!」
(そのセリフ言いたかったのか……)
「父上―! 父上ー!」
「おサルさん、見当たりませんね~」
山に入ったはいいが、合戦の緊迫感が伝わったせいかサルどころかウサギ一匹見当たらん。
「しかし、尾張の山は道が急な坂で歩きにくいな、こんな所で襲撃されたら逃げ場も無いぞ」
「そうですね~、この辺りは桶狭間というらしいですよ~。狭そうな名前ですね」
「なに! 桶狭間だと?……まさか」
「はっはっは、かかったな織田のうつけ者めが!」
「秀頼様、北条早雲の待ち伏せです!」
「まさか、早過ぎる! 何で、攻めてきた方が待ち伏せできるんだ、おかしいだろう!」
「この早雲の用兵に驚くのも無理はない! 戦の勝敗は行軍の速さが決め手となる、誰よりも早くどこよりも早く敵地へと攻め込むために、北条家では毎朝4時に起きているのだ!」
「お年寄りか! 早寝早起きのお年寄りなのか!」
「24時までびっしりスケジュールを組んでいるのだ、早寝などさせるものか! 睡眠時間など4時間で十分よ」
「なんか、過労死しそうな大名家だな」
「何を言うか、北条家は健康にも人一倍気を使って、戦国一長寿なのだぞ!」
「そういえば、北条ゲンアンは97歳だとか言ってた気がする!」
「そう、この額のピラミッドマークから宇宙のパワーを取り込む事によって、常に生命力に満ちあふれて、人間の寿命を超越し……」
「なんか嘘くさいぞ!」
「怪しい大名家ですね」
「だが、そういう事なら話は簡単だ……逃げるぞ千絵!」
「秀頼様、まってください~。それに北条早雲の用兵なら、直ぐに追いつかれてしまうのでは?……あれ、追ってきませんね?」
「ふっふっふ、種さえ分かれば簡単な事よ。奴らは朝4時に起きて進軍して来たのだ、今は眠気のピークだろう。そんな状態で急な坂をまともに走れるものか!」
「なるほど~、でも、ピラミッドパワーで元気なのでは?」
「そんな物で元気なのは、あのおっさん一人だけだ!」
「ふむふむ、これで織田家の本陣まで逃げ帰れますね」
「千絵きさまは戦と言うものを分かっていない様だな……。このまま逃げ帰れば、信長に打ち首にされるだけだ。先陣を務めるからには、ここで北条早雲を討つ! 俺たちに帰る場所など無いのだ!」
「しかし、多勢に無勢、勇猛果敢な北条早雲の兵をどうやって……」
「万物には弱点がある。土は木に弱く、木は鉄に、鉄は火に弱い、そして、北条家は水に弱い!」
「そんな弱点が!」
「寝不足を押して追って来る北条早雲の兵をこの谷間に誘い込み、堰き止めて置いた川の水で一気に押し流すのだ!」
「まさに妙計! 流石は秀頼様です」
「ならばさっそく、堰を壊して水攻めを始めるぞ!」
「ふっふっふ、遅かったな小僧!」
「まさか先回りを?」
「こんな小手先の策で、北条早雲を出し抜けると思ったか? 潜ってきた修羅場の数が違うのだ! 本物の水攻めを見せてやろう!」
「おのれ、早雲……」
「さぁ、溢れ出た水に押し流されるがよい!」
「ウキー!」
「む? どうしてこんな所にサルが?……、いや、あれはサメだ! 堰き止められていた川の中にサメがいるぞ!」
あれは父上とメジロザメ!
姿が見えないと思ったらこんな所で伏兵をしていたのか。やはり、ただのサルではない、天下を狙える器だけの事はあるぞあのサル!
これならば勝てるぞ、サメとサル相手に上も下も関係ない。早雲お得意の下克上もまるで役立たずよ!
「ふはっはっは、どうした早雲、貴様の水攻めとやらがメジロザメに通用するかな?」
「なんだとー! 数多の戦場を駆け智謀知略を巡らせはしたが、世の中とは広いものだ、これほどの武将がいたとは……。だが、勝てぬと言われた相手を屠って来たこの北条早雲、ここで負けるわけには――ギャー!」
……サメに水攻めで勝てる筈がねぇ。
こうして桶狭間の戦いは終わった。
北条早雲を討ち取り手柄を立てたメジロザメは九鬼目次郎義隆と名乗り、織田家でめきめきと頭角を現し鉄甲船を要する九鬼水軍を率いて、天下にその名をとどろかせる事になる。
日本のみならず世界中の海軍を恐怖させた、前面を鉄板で補強した船を横一列に並べ敵を押し出す海戦術のすさまじさは、現在でも「目白押し」等の言葉にも残る事で知られている。
頭角を現すと類まれな知略と武力によって次々と城を落とし、瞬く間に関東一帯を支配下に置く大大名にのし上がった男であった。
「早雲だとー!」
「そうです、知っている方ですか?」
「うん、良くは知らん!」
とは言っても、北条家と言えば豊臣の天下に最後まで抗った大名家だ。何代前かは知らんが、北条家を起こした男となると侮れん。しかし、合戦ともなれば手柄を立てるチャンス!
「父上ー! 父上、合戦ですよ!」
合戦が始まるのに、どこに行ったのだ?
ここで手柄を立てなければ、出世どころか一生サルのまま人間にさえなれずに過ごす事になってしまうというのに。
「千絵、父上を見なかったか?」
「あのサルですか? 私が来た時は見当たりませんでしたが」
「合戦の気配を察して逃げだしたのか!」
「そうですね~、山に行けば、また見つけられるかもしれません」
「こうしてはおれん、合戦が始まる前に山に探しに行くぞ!」
「はい、山狩りですね!」
走り出した秀頼の背に、全てを見透かし世界の果てまで突き刺さるような信長の視線が向けられていた。
「ほう……、合戦と聞いて勇んで駈け出すとはあやつ何者だ?」
「あれは、確か、サルの所の若武者だったかと」
「あの草鞋取りのサルにあのような部下がいたとはな。北条早雲相手に先陣を切るとは、手柄欲しさの勇み足か、策あっての事か、見定めさせてもらおうか」
「はっ、それがよろしいかと」
「……是非も無し!」
(そのセリフ言いたかったのか……)
「父上―! 父上ー!」
「おサルさん、見当たりませんね~」
山に入ったはいいが、合戦の緊迫感が伝わったせいかサルどころかウサギ一匹見当たらん。
「しかし、尾張の山は道が急な坂で歩きにくいな、こんな所で襲撃されたら逃げ場も無いぞ」
「そうですね~、この辺りは桶狭間というらしいですよ~。狭そうな名前ですね」
「なに! 桶狭間だと?……まさか」
「はっはっは、かかったな織田のうつけ者めが!」
「秀頼様、北条早雲の待ち伏せです!」
「まさか、早過ぎる! 何で、攻めてきた方が待ち伏せできるんだ、おかしいだろう!」
「この早雲の用兵に驚くのも無理はない! 戦の勝敗は行軍の速さが決め手となる、誰よりも早くどこよりも早く敵地へと攻め込むために、北条家では毎朝4時に起きているのだ!」
「お年寄りか! 早寝早起きのお年寄りなのか!」
「24時までびっしりスケジュールを組んでいるのだ、早寝などさせるものか! 睡眠時間など4時間で十分よ」
「なんか、過労死しそうな大名家だな」
「何を言うか、北条家は健康にも人一倍気を使って、戦国一長寿なのだぞ!」
「そういえば、北条ゲンアンは97歳だとか言ってた気がする!」
「そう、この額のピラミッドマークから宇宙のパワーを取り込む事によって、常に生命力に満ちあふれて、人間の寿命を超越し……」
「なんか嘘くさいぞ!」
「怪しい大名家ですね」
「だが、そういう事なら話は簡単だ……逃げるぞ千絵!」
「秀頼様、まってください~。それに北条早雲の用兵なら、直ぐに追いつかれてしまうのでは?……あれ、追ってきませんね?」
「ふっふっふ、種さえ分かれば簡単な事よ。奴らは朝4時に起きて進軍して来たのだ、今は眠気のピークだろう。そんな状態で急な坂をまともに走れるものか!」
「なるほど~、でも、ピラミッドパワーで元気なのでは?」
「そんな物で元気なのは、あのおっさん一人だけだ!」
「ふむふむ、これで織田家の本陣まで逃げ帰れますね」
「千絵きさまは戦と言うものを分かっていない様だな……。このまま逃げ帰れば、信長に打ち首にされるだけだ。先陣を務めるからには、ここで北条早雲を討つ! 俺たちに帰る場所など無いのだ!」
「しかし、多勢に無勢、勇猛果敢な北条早雲の兵をどうやって……」
「万物には弱点がある。土は木に弱く、木は鉄に、鉄は火に弱い、そして、北条家は水に弱い!」
「そんな弱点が!」
「寝不足を押して追って来る北条早雲の兵をこの谷間に誘い込み、堰き止めて置いた川の水で一気に押し流すのだ!」
「まさに妙計! 流石は秀頼様です」
「ならばさっそく、堰を壊して水攻めを始めるぞ!」
「ふっふっふ、遅かったな小僧!」
「まさか先回りを?」
「こんな小手先の策で、北条早雲を出し抜けると思ったか? 潜ってきた修羅場の数が違うのだ! 本物の水攻めを見せてやろう!」
「おのれ、早雲……」
「さぁ、溢れ出た水に押し流されるがよい!」
「ウキー!」
「む? どうしてこんな所にサルが?……、いや、あれはサメだ! 堰き止められていた川の中にサメがいるぞ!」
あれは父上とメジロザメ!
姿が見えないと思ったらこんな所で伏兵をしていたのか。やはり、ただのサルではない、天下を狙える器だけの事はあるぞあのサル!
これならば勝てるぞ、サメとサル相手に上も下も関係ない。早雲お得意の下克上もまるで役立たずよ!
「ふはっはっは、どうした早雲、貴様の水攻めとやらがメジロザメに通用するかな?」
「なんだとー! 数多の戦場を駆け智謀知略を巡らせはしたが、世の中とは広いものだ、これほどの武将がいたとは……。だが、勝てぬと言われた相手を屠って来たこの北条早雲、ここで負けるわけには――ギャー!」
……サメに水攻めで勝てる筈がねぇ。
こうして桶狭間の戦いは終わった。
北条早雲を討ち取り手柄を立てたメジロザメは九鬼目次郎義隆と名乗り、織田家でめきめきと頭角を現し鉄甲船を要する九鬼水軍を率いて、天下にその名をとどろかせる事になる。
日本のみならず世界中の海軍を恐怖させた、前面を鉄板で補強した船を横一列に並べ敵を押し出す海戦術のすさまじさは、現在でも「目白押し」等の言葉にも残る事で知られている。
応援ありがとうございます!
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