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竹千代の憂鬱
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戸田康光の裏切りによって織田家の人質となっている竹千代ではあったが、子供という事もあってかなり大事に扱われていた。
「織田家が子供に甘いとは。これでは迂闊に手が出せん……」
武士ならば子供を手に掛けるなど在りえぬ!
誰もがそう考えるだろう。だが、その様な考えこそ人間の身勝手な道理。
自然の摂理から外れた甘っちょろい考えでしかない。真の野生を知り、弱きものを強きものが喰らう弱肉強食の世界を生き抜いてきたサルには通用せぬのだ!
「父上! 廊下を歩いている竹千代を一刀のもとに斬り伏せるのです!」
「ウキーッ!」
ふっふっふ……。
人間ならば咎められるとしても、サルがやったとなれば話は別!
正月飾りのみかんを食おうとも人前で尻を出そうとも「サルだから」の一言で片付けられてしまう。
そう相手がサルならば仕方がない。
将棋の第一手目で王手と言われても、相手がサルならば人間が負けを認めねばならないのだ!
サルと同じ土俵に上がった時点で、人間に勝ち目はないのだ!
「狸ジジイめ! おのれがサルでなかったことを嘆くが良い!」
「ウキー!」
「痛い! 痛いよ、おサルさん」
なぜだ?
いくら相手がサルとは言え、あれだけの斬撃を受けて、なぜ奴は死なん!
まさか……、奴の名は竹千代。
その名の通り奴の体は、どのような強風にさらされてもその身をしならせて決して折れる事のない竹だというのか!
父上の斬撃をあざ笑うかのように体をしならせていなしているのか!
刀身が稲妻のように黄色く光り残像さえ見える父上の斬撃を!
……黄色く? なぜ黄色く見えるのだ?
よく見れば複数に分裂して見えるのもおかしい。
あれは刀ではない!
父上が振るっているのはバナナの皮だ!
皮じゃダメだ、バナナの皮で人が斬れるものか!
「父上―! これを使え!」
皮じゃダメだ!
しかし、中身の入ったバナナならば、皮の二倍、いや、三倍は打撃力がある!
竹がどれだけしなろうともバナナの破壊力の前に圧し折られるのだ!
「ウキー、ウウッキ、ウッキ」
「バナナを食うんじゃねー!」
直接攻撃が失敗に終わろうとは思ってもみなかった。しかし恐るべきは徳川家康か、まだ第二形態・松平にさえなっていないというのに、これほど手強いとは。
ならば俺も本気を出さねばなるまい。
奴の大切なものを全てぶち壊してやる!
友情・愛・信頼、人として大切なものを全て奪い取り、抜け殻のような人生を送らせてやるのだ!
「僕の大切なもの? うーん、人質に送られてきたから大事なものは何も持ってこれなかったけど、今一番大事なのは織田家に帰っていた母様にもらった鯉かな~」
「ほう、鯉か……」
男の子が成長するにあたって重要なのは、友情、そして、恋!
人の繋がりを学ぶことによって、精神的にも強く鍛え上げられる。だからこそ、一度敗れれば拭いきれないトラウマとなるのだ!
「やれ、父上!」
「ウッキー!」
「サメだ! 鯉など鮫の敵ではない! しかも、ただの鮫ではないぞ、淡水でも活動し獰猛な性格を持ち合わせたメジロザメだ! 貴様の鯉が無残に食い千切られる様を見るがよい!」
「ウッキキー!」
「ふはっはっはっは! サメつえぇー! 鯉どころかサルも丸かじりだ!」
「誰だ、人の家の池にサメを放ったのは!」
「まずい、信長だ!」
そう竹千代は織田家の人質、つまり奴が住んでいるこの家は織田信長の家でもあるのだ。
ここは何とか取りつくろわねば……。
父上? ……肝心な時に父上の姿が見当たらない、あのサルめ逃げたか。
しかし、こういうエピソードも父上から聞いた気がする、思い出せ! 思い出すんだ!
天下人に不可能はない!
俺に出来ない事など無いのだ!
……確か何て言って言い逃れをしたんだったかな。
「全てを黒く染め上げるがよろしいでしょう」
どうだ! これに間違いない。
自分で天魔王とか言うだけあって黒が好きらしい。夏の暑い最中も黒い服着て、夜中でもサングラスかける中二から成長しきれないタイプだよな。
こういう手合いは、黒とか漆黒とか言って置けば何とかなるものだ。
「……ぜ、……ぜ、是非も無し! どこの誰だか知らんが叩き斬ってくれる!」
「なぜだ! なぜ黒が通用しない? さては赤だったか! 赤く染め上げるのか」
「もう池がとっくに赤く染まっておるは!」
「信長まで赤く染まっている!」
まさか、謀ったな徳川家康!
子供と思って油断したが、信長をけしかけて来るとは!
こうなれば致し方あるまい、天下人・豊臣秀頼の真の姿を見せる時が来たようだ……。
ふっふっふ、愚民どもめ後悔するがよい……。
「秀頼様、大変ですよ~」
「黙ってろ千絵、今、いい所だから……」
「大変なんです、敵が攻めて来たのですよ~、このままだと合戦に巻き込まれますよ」
「この織田信長に戦を仕掛けようというのか! 是非も無し!」
「暑苦しいな……。織田家に攻めて来るのって今川義元だろ? あいつ桶狭間で死ぬからほっといていいよ」
「違います! 攻めて来たのは、関東の覇者・北条早雲ですよ!」
「早雲?……」
「織田家が子供に甘いとは。これでは迂闊に手が出せん……」
武士ならば子供を手に掛けるなど在りえぬ!
誰もがそう考えるだろう。だが、その様な考えこそ人間の身勝手な道理。
自然の摂理から外れた甘っちょろい考えでしかない。真の野生を知り、弱きものを強きものが喰らう弱肉強食の世界を生き抜いてきたサルには通用せぬのだ!
「父上! 廊下を歩いている竹千代を一刀のもとに斬り伏せるのです!」
「ウキーッ!」
ふっふっふ……。
人間ならば咎められるとしても、サルがやったとなれば話は別!
正月飾りのみかんを食おうとも人前で尻を出そうとも「サルだから」の一言で片付けられてしまう。
そう相手がサルならば仕方がない。
将棋の第一手目で王手と言われても、相手がサルならば人間が負けを認めねばならないのだ!
サルと同じ土俵に上がった時点で、人間に勝ち目はないのだ!
「狸ジジイめ! おのれがサルでなかったことを嘆くが良い!」
「ウキー!」
「痛い! 痛いよ、おサルさん」
なぜだ?
いくら相手がサルとは言え、あれだけの斬撃を受けて、なぜ奴は死なん!
まさか……、奴の名は竹千代。
その名の通り奴の体は、どのような強風にさらされてもその身をしならせて決して折れる事のない竹だというのか!
父上の斬撃をあざ笑うかのように体をしならせていなしているのか!
刀身が稲妻のように黄色く光り残像さえ見える父上の斬撃を!
……黄色く? なぜ黄色く見えるのだ?
よく見れば複数に分裂して見えるのもおかしい。
あれは刀ではない!
父上が振るっているのはバナナの皮だ!
皮じゃダメだ、バナナの皮で人が斬れるものか!
「父上―! これを使え!」
皮じゃダメだ!
しかし、中身の入ったバナナならば、皮の二倍、いや、三倍は打撃力がある!
竹がどれだけしなろうともバナナの破壊力の前に圧し折られるのだ!
「ウキー、ウウッキ、ウッキ」
「バナナを食うんじゃねー!」
直接攻撃が失敗に終わろうとは思ってもみなかった。しかし恐るべきは徳川家康か、まだ第二形態・松平にさえなっていないというのに、これほど手強いとは。
ならば俺も本気を出さねばなるまい。
奴の大切なものを全てぶち壊してやる!
友情・愛・信頼、人として大切なものを全て奪い取り、抜け殻のような人生を送らせてやるのだ!
「僕の大切なもの? うーん、人質に送られてきたから大事なものは何も持ってこれなかったけど、今一番大事なのは織田家に帰っていた母様にもらった鯉かな~」
「ほう、鯉か……」
男の子が成長するにあたって重要なのは、友情、そして、恋!
人の繋がりを学ぶことによって、精神的にも強く鍛え上げられる。だからこそ、一度敗れれば拭いきれないトラウマとなるのだ!
「やれ、父上!」
「ウッキー!」
「サメだ! 鯉など鮫の敵ではない! しかも、ただの鮫ではないぞ、淡水でも活動し獰猛な性格を持ち合わせたメジロザメだ! 貴様の鯉が無残に食い千切られる様を見るがよい!」
「ウッキキー!」
「ふはっはっはっは! サメつえぇー! 鯉どころかサルも丸かじりだ!」
「誰だ、人の家の池にサメを放ったのは!」
「まずい、信長だ!」
そう竹千代は織田家の人質、つまり奴が住んでいるこの家は織田信長の家でもあるのだ。
ここは何とか取りつくろわねば……。
父上? ……肝心な時に父上の姿が見当たらない、あのサルめ逃げたか。
しかし、こういうエピソードも父上から聞いた気がする、思い出せ! 思い出すんだ!
天下人に不可能はない!
俺に出来ない事など無いのだ!
……確か何て言って言い逃れをしたんだったかな。
「全てを黒く染め上げるがよろしいでしょう」
どうだ! これに間違いない。
自分で天魔王とか言うだけあって黒が好きらしい。夏の暑い最中も黒い服着て、夜中でもサングラスかける中二から成長しきれないタイプだよな。
こういう手合いは、黒とか漆黒とか言って置けば何とかなるものだ。
「……ぜ、……ぜ、是非も無し! どこの誰だか知らんが叩き斬ってくれる!」
「なぜだ! なぜ黒が通用しない? さては赤だったか! 赤く染め上げるのか」
「もう池がとっくに赤く染まっておるは!」
「信長まで赤く染まっている!」
まさか、謀ったな徳川家康!
子供と思って油断したが、信長をけしかけて来るとは!
こうなれば致し方あるまい、天下人・豊臣秀頼の真の姿を見せる時が来たようだ……。
ふっふっふ、愚民どもめ後悔するがよい……。
「秀頼様、大変ですよ~」
「黙ってろ千絵、今、いい所だから……」
「大変なんです、敵が攻めて来たのですよ~、このままだと合戦に巻き込まれますよ」
「この織田信長に戦を仕掛けようというのか! 是非も無し!」
「暑苦しいな……。織田家に攻めて来るのって今川義元だろ? あいつ桶狭間で死ぬからほっといていいよ」
「違います! 攻めて来たのは、関東の覇者・北条早雲ですよ!」
「早雲?……」
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