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天下人の剣
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で、俺はこんな所で、何してるんだっけ?
そうそう、逢坂城で切腹して……。
いや、切腹はしなかったけど、介錯すると叫ぶ家臣どもに追いかけられて……、それからよく覚えていないが、ここはどう見ても、寂れた町の中だ。
いつの間にか、こんな所まで逃げだしたのか?
いかん! どこに徳川の兵がいるか分からんのだった!
奴等に見つかれば、介錯どころか、なますに切り刻まれるかもしれん!
……死んだ後なら、どれだけ斬られても痛くはないから、どのみち同じかもしれないが……。
いや、いかんいかん。
ひとまず、身を隠さねば……。
「キャー!」
あれは! うら若い女の悲鳴!
例え人目を忍んで身を隠さねばならぬ境遇であっても、天下人ならば助けるのが道理!
あの声からしてかなりの美人である事は間違いない!
さぁ、今行くぞ娘!
待っていろ!
…………あれは?……。
「千姫ー! 無事だったか! どうした? どこか怪我でもしたのか?」
思わずむしゃぶりつきたくなるような滑らかな肌、嫁ではあるがこんな時でもないと触れんからな、今のうちに堪能しておかねば。
「おやめください、私は千姫ではありません、千絵と言う者です」
まさか、そう来るか! このタイミングで他人の振りとか!
考えろ……考えろ……、千姫は何を求めているのだ……、この返答、間違えれば、……死!
「ねぇちゃんから離れろ! この変態め!」
黙れくそがきめ!
誰が変態だ! 電光石火の目つぶしを喰らわしてやる。
どうだ! 貴様のような下賤の者が天下人を見ると目がつぶれるのだ!
ふはははは、まいったか……?
「ねぇちゃんだと? 人違いか? いや、しかしよく似ておる……」
……確か千姫は逢坂城から脱出するときに俺の身代わりになって、確かこんな感じで……。
「ここは、私に任して先に行って!」
なんか、かっこいいな! いや違うか、千姫のイメージなら……。
「ここを通りたくば、私を倒して行け!」
うむ、大体こんな感じだったか?
「醜い虫けらめ、地面に這いつくばりなさい」
こんな感じだったかもしれん!
しかし、美しい髪に整った顔立ち見れば見るほど千姫に瓜二つだが、なるほど、よく見てみれば千姫がこんなみすぼらしい格好をしている訳がない。
いつも彼女自身の持って生まれた美しさに負けぬ程豪華に着飾り、迂闊に抱きつこうものなら、着物に仕込んだ千本のかんざしで串刺しに……。
「ほほほ……、あなた、何をなさいますの?」
いかん、千姫の声が聞こえてくるようだ。
あれは軽くトラウマものだったからな。
「おい! 若造、横から出しゃばっていい気になってんじゃねぇ!」
ん? なんだこいつら?
見すぼらしい格好の町のごろつきと言った所か。か弱い娘を襲うなど人にあるまじき行為こいつらは一体何のために生きているのか。
愚かしい町人風情が、天下人との格の違いを見せてやろう……。
「下郎どもにはもったいないが、我が柳生新陰流の奥義を見せてやろう……ふっふっふ、逃げ出すなら今の内だぞ?……」
「野郎、抜きやがったな! いい度胸だ!」
なんだこいつら?
やる気なのか?
馬鹿かこいつらは、柳生新陰流だぞ?
町人風情が勝てるわけがないだろう、早いとこ尻尾を巻いて逃げ出すんだよ!
相手の力量も分からん、愚か者どもの相手はこれだから疲れる。
ひい、ふう、みい、四人か……。
確かに、柳生新陰流では、多人数を相手にするのは分が悪い。
一斉にかかればなんとかなるとでも思っているのか? ならば……。
「浅はかな奴らめ、四人いれば勝てるとでも思ったのか? ならば、二天一流を見せてやろう」
「大刀を二本だと? ハッタリだ! 扱えるわけがねぇ!」
まさか、こいつら二天一流を知らんのか?
子供でも知っている、宮本武蔵の二天一流だぞ?
どんだけ無知やねん!
――うぉ、二本も振りかぶるとやっぱ重い、バランスが……。
なんだ? 行き成り木が倒れて?……。
おお、斬れたのか?
軽く振り回しただけで、木の幹を一刀両断とは、流石父上が金に物を言わせて集めた名刀ヨシミツ!
これならサルが振っても大剣豪、歴戦の武将と肩を並べられるぜ。
「何て奴だ! こいつはやばいぞ! 逃げろ!」
ようやく分かったか。
天下人に敵う町人なぞいる筈がないのだ!
「お武家様、ありがとうございます」
「なに、当然の事をしたまでよ」
「すげー、にーちゃん、かっけー!」
そうだろうとも!
俺は生まれた時から、既に天下人、豊臣秀頼なのだ!
「こら六三四、ちゃんとお礼を言いなさい」
なに? ムサシだと?
……まぁ、町人ならよくある偶然か、気にするまでも無いな。
そうそう、逢坂城で切腹して……。
いや、切腹はしなかったけど、介錯すると叫ぶ家臣どもに追いかけられて……、それからよく覚えていないが、ここはどう見ても、寂れた町の中だ。
いつの間にか、こんな所まで逃げだしたのか?
いかん! どこに徳川の兵がいるか分からんのだった!
奴等に見つかれば、介錯どころか、なますに切り刻まれるかもしれん!
……死んだ後なら、どれだけ斬られても痛くはないから、どのみち同じかもしれないが……。
いや、いかんいかん。
ひとまず、身を隠さねば……。
「キャー!」
あれは! うら若い女の悲鳴!
例え人目を忍んで身を隠さねばならぬ境遇であっても、天下人ならば助けるのが道理!
あの声からしてかなりの美人である事は間違いない!
さぁ、今行くぞ娘!
待っていろ!
…………あれは?……。
「千姫ー! 無事だったか! どうした? どこか怪我でもしたのか?」
思わずむしゃぶりつきたくなるような滑らかな肌、嫁ではあるがこんな時でもないと触れんからな、今のうちに堪能しておかねば。
「おやめください、私は千姫ではありません、千絵と言う者です」
まさか、そう来るか! このタイミングで他人の振りとか!
考えろ……考えろ……、千姫は何を求めているのだ……、この返答、間違えれば、……死!
「ねぇちゃんから離れろ! この変態め!」
黙れくそがきめ!
誰が変態だ! 電光石火の目つぶしを喰らわしてやる。
どうだ! 貴様のような下賤の者が天下人を見ると目がつぶれるのだ!
ふはははは、まいったか……?
「ねぇちゃんだと? 人違いか? いや、しかしよく似ておる……」
……確か千姫は逢坂城から脱出するときに俺の身代わりになって、確かこんな感じで……。
「ここは、私に任して先に行って!」
なんか、かっこいいな! いや違うか、千姫のイメージなら……。
「ここを通りたくば、私を倒して行け!」
うむ、大体こんな感じだったか?
「醜い虫けらめ、地面に這いつくばりなさい」
こんな感じだったかもしれん!
しかし、美しい髪に整った顔立ち見れば見るほど千姫に瓜二つだが、なるほど、よく見てみれば千姫がこんなみすぼらしい格好をしている訳がない。
いつも彼女自身の持って生まれた美しさに負けぬ程豪華に着飾り、迂闊に抱きつこうものなら、着物に仕込んだ千本のかんざしで串刺しに……。
「ほほほ……、あなた、何をなさいますの?」
いかん、千姫の声が聞こえてくるようだ。
あれは軽くトラウマものだったからな。
「おい! 若造、横から出しゃばっていい気になってんじゃねぇ!」
ん? なんだこいつら?
見すぼらしい格好の町のごろつきと言った所か。か弱い娘を襲うなど人にあるまじき行為こいつらは一体何のために生きているのか。
愚かしい町人風情が、天下人との格の違いを見せてやろう……。
「下郎どもにはもったいないが、我が柳生新陰流の奥義を見せてやろう……ふっふっふ、逃げ出すなら今の内だぞ?……」
「野郎、抜きやがったな! いい度胸だ!」
なんだこいつら?
やる気なのか?
馬鹿かこいつらは、柳生新陰流だぞ?
町人風情が勝てるわけがないだろう、早いとこ尻尾を巻いて逃げ出すんだよ!
相手の力量も分からん、愚か者どもの相手はこれだから疲れる。
ひい、ふう、みい、四人か……。
確かに、柳生新陰流では、多人数を相手にするのは分が悪い。
一斉にかかればなんとかなるとでも思っているのか? ならば……。
「浅はかな奴らめ、四人いれば勝てるとでも思ったのか? ならば、二天一流を見せてやろう」
「大刀を二本だと? ハッタリだ! 扱えるわけがねぇ!」
まさか、こいつら二天一流を知らんのか?
子供でも知っている、宮本武蔵の二天一流だぞ?
どんだけ無知やねん!
――うぉ、二本も振りかぶるとやっぱ重い、バランスが……。
なんだ? 行き成り木が倒れて?……。
おお、斬れたのか?
軽く振り回しただけで、木の幹を一刀両断とは、流石父上が金に物を言わせて集めた名刀ヨシミツ!
これならサルが振っても大剣豪、歴戦の武将と肩を並べられるぜ。
「何て奴だ! こいつはやばいぞ! 逃げろ!」
ようやく分かったか。
天下人に敵う町人なぞいる筈がないのだ!
「お武家様、ありがとうございます」
「なに、当然の事をしたまでよ」
「すげー、にーちゃん、かっけー!」
そうだろうとも!
俺は生まれた時から、既に天下人、豊臣秀頼なのだ!
「こら六三四、ちゃんとお礼を言いなさい」
なに? ムサシだと?
……まぁ、町人ならよくある偶然か、気にするまでも無いな。
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