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再び冒険の世界へ
我が赴くは未踏の遺跡
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「この服を着るのは久しぶりだな」
薄い桃色の下着の上にへそ出しタイプのシャツとデニム製のホットパンツを着て、さらに上から諸々の道具を入れるための簡単なジャケットを羽織る。店で働いていた時とそこまで布面積は変わらない。しかしそれでもエロスは格段に抑えられ、かわいらしさが勝つ盗賊の服装は私の気持ちを一気に冒険者へと巻き戻した。
伸びた髪をバッサリと肩で揃え、ふんわりと花の香りがする香水を手首にプッシュして首と腰に付ける。ふんわりとした赤髪を少し整えると、ブーツを履いて部屋を出た。
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
ジーンズと少し厚手のシャツ、そして木製の鞘に納められた剣を背中に帯刀しているジーンが私を笑顔で迎えた。昨日までの貴族のような高貴さはどこへやら、今は駆け出しの冒険者のような格好だった。
「うん、ありがとうジーン。さっそく遺跡に行く?」
正直一秒でも早く遺跡に潜りたい。そんな私の気持ちをジーンはしっかりと汲み取りつつも「いや、最低でも一週間は準備と君のリハビリに努めないか」と提案してきた。
確かにジーンの言うことは最もである。長い時間冒険から離れていたミレットは体力も筋力も衰えていた。しかも冒険の際に必要な「感」と「勘」が薄れている。それを取り戻す作業が必要だった。
「じゃあ今日は町で軽く装備を整えて、後は訓練所ごもりだね」
お金を払って店を出る。久しぶりに直接浴びた朝日が、ミレットの目にはまぶしかった。
~~~~~
(ナイフってこんなに重かったっけ)
盗賊のナイフはメインウエポンであり様々な用途で使う関係上、他の役職のものよりもしっかりとした造りのものを選ぶのが普通だった。だが、当然その分重みは増す。武器を手に取るのが久しぶりだった私はその重さに驚いた。
「リハビリしといてよかったな」
これでは不測の事態が起こった時に対応ができないところだった。汗でぬれた体を拭き、水を飲んで訓練を再開する。斬撃も投擲もかつてのように上手にできるわけではない。しかしできないことによる悔しさよりも、再びナイフを手に出来た嬉しさの方が私を支配していた。過去の感覚を取り戻すべく必死でナイフを振るう。その様子をジーンは優しい笑顔で見つめながら、彼自身も剣を振るっていた。
ジーンの剣さばきは見事の一言だった。切れ味が悪く重いはずの訓練用の剣をまるで紙のように振るい、藁を束ねたものを一撃で切り落していた。細い体の何処にそんな筋力を隠しているのか全く分からなかったが、幾度も戦いを重ねてきた猛者であることは容易に想像できた。しかしそうなるといくつかの疑問が私に浮かんでくる。
(あれほどの技術を持っているならパーティとして引く手は数多のはず。どうしてブランクがある私をパーティメンバーなんかに選んだんだろう。それにあれほどの剣士が「邪悪なるもの」討伐に向かわないのかも疑問だ。それに)
彼の近くに置かれている剣を見る。その件は木の鞘から抜かれることなく、ただ主人の傍で眠っていた。
(試し切りなら訓練用の剣をわざわざ使わなくても、自分の剣を使えばいいのに)
そんな私の視線に気が付いたのだろうか。ジーンは訓練用の剣をもとの場所に戻すと私の方に近づいてきて「そろそろお昼にしようか」と提案してきた。
ナイフを振るうことに必死になっていて気が付かなかったが、太陽はかなり高い位置まで登っていた。それにお腹もかなり空いている。
「そうだね。ここの食堂で軽く済ませようか」
ナイフをジャケットの内側にしまうとジーンと一緒に建物の中に入る。ここのギルドはクエストカウンターだけでなく食事場、簡単な装備売り場、雑貨屋、訓練場が併設されていた。常に賑わっている食事場の中で空いていた席に私たちは腰を下ろし、シチューとパンを注文する。しばらくしてミルクのほんのり香る美味しそうなシチューが、焼かれてアツアツで香ばしい香りのパンと共に運ばれてきた。
「どうだいミレット、訓練の成果は」
「私の抱えたブランクの大きさをひしひしと感じてる」
言っていることの悲しさに反して、私の顔は多分笑顔で満ちていた。そんな様子を確認したジーンは「それは良かった」と笑顔を返してきた。
正直ジーンに聞きたいことは沢山ある。でもこういうことは本人の口から切り出されるまでなるべく触れないことがパーティを存続させる上での暗黙の了解だ。シチューとパンを腹に入れながら他愛ない話で談笑し、再び訓練場に戻る。ナイフを使った訓練も、崖のぼりの訓練も、あるいはジーンとの合同練習でさえかつてのような動きは出来なかったが、それでも幾日か続けているうちにかつての感覚は多少戻ってきた。
~~~~~
夜が明け、朝が来た。一週間前と比べてさらに血色がよくなり、体には全盛期ほどではないがいくらか筋肉が戻ってきていた。元々細かった体はさらに引き締まり、適度な運動と十分な栄養。そして休息を与えられた体はエネルギーに満ち溢れていた。
ジーンと二人で相談しながらロープやマッピング用の紙、そして幾らかの保存食を用意してカバンに詰め込む。冒険者の再登録を済ませ二つのドッグタグを受け取ると革ひもに通して首にかける。私はかつてより10下がったランク20から。ジーンはランク50のまま。
シャ・ソバージュ遺跡への探索に必要なギルドへの書類の提出を済ませ、近くまで行く馬車を手配した。しばらくして到着した黒い二匹の馬が引く簡易的な馬車に乗り込み、移動を開始する。
私の冒険は再び始まった。
薄い桃色の下着の上にへそ出しタイプのシャツとデニム製のホットパンツを着て、さらに上から諸々の道具を入れるための簡単なジャケットを羽織る。店で働いていた時とそこまで布面積は変わらない。しかしそれでもエロスは格段に抑えられ、かわいらしさが勝つ盗賊の服装は私の気持ちを一気に冒険者へと巻き戻した。
伸びた髪をバッサリと肩で揃え、ふんわりと花の香りがする香水を手首にプッシュして首と腰に付ける。ふんわりとした赤髪を少し整えると、ブーツを履いて部屋を出た。
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
ジーンズと少し厚手のシャツ、そして木製の鞘に納められた剣を背中に帯刀しているジーンが私を笑顔で迎えた。昨日までの貴族のような高貴さはどこへやら、今は駆け出しの冒険者のような格好だった。
「うん、ありがとうジーン。さっそく遺跡に行く?」
正直一秒でも早く遺跡に潜りたい。そんな私の気持ちをジーンはしっかりと汲み取りつつも「いや、最低でも一週間は準備と君のリハビリに努めないか」と提案してきた。
確かにジーンの言うことは最もである。長い時間冒険から離れていたミレットは体力も筋力も衰えていた。しかも冒険の際に必要な「感」と「勘」が薄れている。それを取り戻す作業が必要だった。
「じゃあ今日は町で軽く装備を整えて、後は訓練所ごもりだね」
お金を払って店を出る。久しぶりに直接浴びた朝日が、ミレットの目にはまぶしかった。
~~~~~
(ナイフってこんなに重かったっけ)
盗賊のナイフはメインウエポンであり様々な用途で使う関係上、他の役職のものよりもしっかりとした造りのものを選ぶのが普通だった。だが、当然その分重みは増す。武器を手に取るのが久しぶりだった私はその重さに驚いた。
「リハビリしといてよかったな」
これでは不測の事態が起こった時に対応ができないところだった。汗でぬれた体を拭き、水を飲んで訓練を再開する。斬撃も投擲もかつてのように上手にできるわけではない。しかしできないことによる悔しさよりも、再びナイフを手に出来た嬉しさの方が私を支配していた。過去の感覚を取り戻すべく必死でナイフを振るう。その様子をジーンは優しい笑顔で見つめながら、彼自身も剣を振るっていた。
ジーンの剣さばきは見事の一言だった。切れ味が悪く重いはずの訓練用の剣をまるで紙のように振るい、藁を束ねたものを一撃で切り落していた。細い体の何処にそんな筋力を隠しているのか全く分からなかったが、幾度も戦いを重ねてきた猛者であることは容易に想像できた。しかしそうなるといくつかの疑問が私に浮かんでくる。
(あれほどの技術を持っているならパーティとして引く手は数多のはず。どうしてブランクがある私をパーティメンバーなんかに選んだんだろう。それにあれほどの剣士が「邪悪なるもの」討伐に向かわないのかも疑問だ。それに)
彼の近くに置かれている剣を見る。その件は木の鞘から抜かれることなく、ただ主人の傍で眠っていた。
(試し切りなら訓練用の剣をわざわざ使わなくても、自分の剣を使えばいいのに)
そんな私の視線に気が付いたのだろうか。ジーンは訓練用の剣をもとの場所に戻すと私の方に近づいてきて「そろそろお昼にしようか」と提案してきた。
ナイフを振るうことに必死になっていて気が付かなかったが、太陽はかなり高い位置まで登っていた。それにお腹もかなり空いている。
「そうだね。ここの食堂で軽く済ませようか」
ナイフをジャケットの内側にしまうとジーンと一緒に建物の中に入る。ここのギルドはクエストカウンターだけでなく食事場、簡単な装備売り場、雑貨屋、訓練場が併設されていた。常に賑わっている食事場の中で空いていた席に私たちは腰を下ろし、シチューとパンを注文する。しばらくしてミルクのほんのり香る美味しそうなシチューが、焼かれてアツアツで香ばしい香りのパンと共に運ばれてきた。
「どうだいミレット、訓練の成果は」
「私の抱えたブランクの大きさをひしひしと感じてる」
言っていることの悲しさに反して、私の顔は多分笑顔で満ちていた。そんな様子を確認したジーンは「それは良かった」と笑顔を返してきた。
正直ジーンに聞きたいことは沢山ある。でもこういうことは本人の口から切り出されるまでなるべく触れないことがパーティを存続させる上での暗黙の了解だ。シチューとパンを腹に入れながら他愛ない話で談笑し、再び訓練場に戻る。ナイフを使った訓練も、崖のぼりの訓練も、あるいはジーンとの合同練習でさえかつてのような動きは出来なかったが、それでも幾日か続けているうちにかつての感覚は多少戻ってきた。
~~~~~
夜が明け、朝が来た。一週間前と比べてさらに血色がよくなり、体には全盛期ほどではないがいくらか筋肉が戻ってきていた。元々細かった体はさらに引き締まり、適度な運動と十分な栄養。そして休息を与えられた体はエネルギーに満ち溢れていた。
ジーンと二人で相談しながらロープやマッピング用の紙、そして幾らかの保存食を用意してカバンに詰め込む。冒険者の再登録を済ませ二つのドッグタグを受け取ると革ひもに通して首にかける。私はかつてより10下がったランク20から。ジーンはランク50のまま。
シャ・ソバージュ遺跡への探索に必要なギルドへの書類の提出を済ませ、近くまで行く馬車を手配した。しばらくして到着した黒い二匹の馬が引く簡易的な馬車に乗り込み、移動を開始する。
私の冒険は再び始まった。
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