上 下
19 / 28

19 荷物の行方

しおりを挟む
 新米ネズミはチュー太郎宅に着くと、箱を荷台に乗せたままにバイクを停めた。
 ドアの前まで来て、思い切り深呼吸するとドアをノックした。

 コンコンコンッ、、、

 家の中から返答はない。

 「すみませーん!」
 「キモチハート工場ですがー!」

 ドアの外から聞こえるように叫ぶと、「はーい」と中から奥さんの声がする。
 しばらく待っていると、

 ガチャッ!、、、

 とドアが開いてそこに現れたのはチュー太郎の姿だった。
 
 新米ネズミは驚いて、無意識に一歩後ろに下がる。
 鼻にお酒の臭いがついてくる。

 チュー太郎はバタン!とドアを閉めて、ゆらりとこちらに体を向けるとボーッと新米ネズミを見つめている。
 「また、荷物ですか?」
 彼はフッと半笑いを浮かべると
 「受取らないって言ったでしょ。」
 そう言ってよろけながら壁にもたれかかってそのまま座り込んだ。またお酒を飲んで酔っ払っている。

 「あの、、受け取ってもらえませんか、、」
 新米ネズミはしゃがみ込んで、もう一度チュー太郎に頼んだ。
 

 しばらく考え込んだ様子のチュー太郎はボソボソと、話し始めた。

 「俺は、、、生まれた時から父親はいなくて、母親とも離れて暮らしていたんだ。」
 「小さい頃はこども園にいて、ずっと母親が会いに来てくれると信じていた。でも一度だって俺にあの人が会いに来る事は無かった。」
 「あの人が病気になって、入院してると聞いても、、一度も会いに行かなかった。」
 「俺は、、ずっと、恨んでいたんだ、あの人の事を。」

 「だから、、、、俺には、受取る理由も資格も無い、、、。」

 そう言ったままチュー太郎は黙り込んでしまった。

 その空気を打ち破るように新米ネズミは言う。
 「でもっ、、、」
 「もし、、受け取らなかったら、この荷物、、、、」

 「廃棄処分になってしまいます!」

 チュー太郎が顔を上げる。
 「廃棄、処分って、、?」

 「だからっ!、、こっちでも勝手に開けられないので、」
 「燃やして処分するしか無くなってしまうんですよ!!」
 自分が抑えられず新米ネズミは半分ヤケクソに言い放った。

 チュー太郎は表情を曇らせたまま黙っている。

 
 「あ、、明後日にまた来ますから!!」

 沈黙に耐えきれずに新米ネズミはそう言うと、後も振り返らずにバイクに跨り走り去ってしまった。 


  
 後に残されたチュー太郎は、呆然と座り込んでいた。
 ドアを奥さんが開けて心配そうにチュー太郎に話しかけるが彼は頷いたものの、ただ遠くを眺めているだけだった。





 
 

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人形劇団ダブダブ

はまだかよこ
児童書・童話
子どもたちに人形劇をと奮闘する一人のおっちゃん、フミオ 彼の人生をちょっとお読みください

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...