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天仕事屋(てしごとや)

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13 チュー太郎の事情

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 夕方、新米ネズミはまたいつものようにチュー太郎宅を訪れた。

 いつものように道を挟んだ空き地にバイクを停めて家の様子を眺める。荷台には相変わらず荷物の箱がひっそりと乗っていた。
 

 新米ネズミの行動は、傍から見れば完全に不審者で警察に届けられてもおかしくはない。けれどチュー太郎夫妻は有り難いことに、それをせずにいてくれたので、今こうして家を観察することが彼の日課となってしまっていた。

 (どうせ受け取ってもらえないんだ)
 という諦めている気持ちと、(あわよくば声をかけられないか)という細やかな期待を僅かに持って毎日ここへ通っているのだ。

 

 毎日通っているうちに分かってきた事がある。

 このネズミ達は、派手な暮らしをしているわけでは無いし、とても穏やかな日々を送っている。

 チュー太郎は毎日せっせと仕事に行くし、奥さんはもうすぐ産まれてくる我が子の為にきちんと部屋の準備をしていた。
 夕方には晩ごはんの良い香りがして、主人が帰れば温かい食卓を囲み、もうすぐ産まれるお腹の子供に話しかけてみたり、その話題で二人は笑顔を交わし合い、とても微笑ましく温かな夫婦の姿がそこにはあった。


 新米ネズミは日々それを眺めていて、そんな夫婦の姿に憧れを抱くようにすらなっていた。
 最近では目が合えば奥さんは言葉は交わさないが、会釈はしてくれるようにもなっていた。

 とても穏やかで優しいネズミ達だと知れば知るほど余計に自分に対するいつかの乱暴な態度に疑問を覚えてくるのだった。

 


 辺りは日も暮れかけていて、赤トンボが数匹新米ネズミの後ろのコスモス畑からウロウロと行ったり来たりして飛んでいた。

 今日はチュー太郎が仕事から帰ってきていて、珍しく長電話をしている。
 奥さんの表情とチュー太郎の横顔からして、今日はいつもと様子が違う事に新米ネズミは気が付いた。

 彼の顔には悲しみが満ちていて電話を切った後、椅子にドサリと体を預けて座り込み、そのまま動かなくなった。

 奥さんが心配そうに声をかけるが彼は放心状態で何も答えず、やがてしばらくすると立ち上がりボーッとしたまま寝室らしき部屋に入って行った。
 チュー太郎はそれっきり部屋を出てこなかった。



 新米ネズミは一部始終を見ていて、電話でチュー太郎は何か大変な事を聞いてしまったのだと悟ったのだった。




 
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