ありがとう工場

天仕事屋(てしごとや)

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09 減給

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 時間は夜の九時を回っていて、工場に戻ると外は真っ暗で静まり返っていた。

 かろうじて配達係の事務所から灯りが漏れている。誰かの気配がある事に少しの安心感を覚えた。
 新米ネズミはバイクを停めて箱を抱え、事務所に向かった。

 ネズミの肩はずっしりと外の暗闇を全部背負ったかように重く、今日一日の疲れがどっと伸し掛かってくるようだった。

 けれどまだ状況を飲み込む事が出来ないような、現実感のない、なんとも言えない気持ちの悪さが新米ネズミを包んでいる。

 いつもより重く感じる箱が『自分は失敗したんだ』とはっきり自覚させる物となっていた。

 
 「失礼します。」

 事務所に新米ネズミが入るとそこにはリーダーよりも少し年上の部長ネズミが座っていた。

 「、、、遅くまで、、すみません。」

 新米ネズミは箱を持ったまま深くお辞儀をする。
 そのまま顔をあげる事が出来ずに、伝票の『チュー太郎』の文字をずっと見ていた。

 「荷物を、取りあえずそこに置いて座って下さい。」

 そう言われて長机に箱を置き、椅子に腰を掛けた。

 「その荷物、届けられなかったんですね。」
 部長が箱を見ながら訊ねる。

 「はい、、。」新米ネズミは俯きながら答えた。

 「この工場のルールを知っていますね?」
 部長は静かに訊ねた。

 「はい、、、。」新人ネズミは固まったまま頷く。

 「取りあえず、、」
 「ルールを破ったとして今後は貰っているお給料を5年間、減らさせて頂きます。」

 「それからこの荷物は必ず、お届け先に受け取ってもらえるまで配達を続けて下さい。」
 「、、送り主に、返す事は出来ないので。」
 「配達完了までは他の荷物の配達は皆に振り分けますので、あなたは今ある荷物を必ずお届けして下さい。」

 静かなトーンで淡々と部長は続けた。
 「、、、以上です。宜しくお願いします。」

 結局最後まで部長ネズミは怒る事もなく、ひとしきり必要事項を伝えると「あと、電気をお願いしますね。」と一声添えて部屋を出ていった。


 後にぽつんと一匹残された新米ネズミは、後悔に苛まれて立ち上がることが出来ずにいた。
 
 ポタリポタリと机の上に涙が落ちる。
 (何故あの時、忘れてしまったんだろう!)
 (あの時、修理係まで箱を持って行かなければこんな事にはなっていなかったのに!)
 次々と後悔が押し寄せて来て涙が止まらなくなった。

 『今すぐ帰ってくれ!!!』

 チュー太郎の声が何度も何度も、頭の中で繰り返される度に溢れ出る涙でネズミの顔はびしょびしょになってそのまま動けず、彼はその後も薄暗い部屋の中で立ち上がることは無かった。


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