ありがとう工場

天仕事屋(てしごとや)

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08 荷物を届けに

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 (とにかくチュー太郎さんに届けないと!)
 その思いだけで止まることなく箱を抱えたまま新米ネズミは走り続けた。



 配達係に辿り着くと、みみずく先輩達が集まっているのが見えた。心配そうに新米ネズミの到着を待っているようだったが、姿が見えると皆、気まずそうに道を開けた。
 「ぱ、パパイヤ、、、」
 みみずく先輩が声をかけるがそれ以上、言葉が出てこないようだった。

 新米ネズミは汗だくで、無言のままバイクの荷台に箱を乗せると素早くバイクに跨り、ペダルを踏み込んだ勢いに任せてその場を後にした。




 無心でバイクを走らせる新米ネズミを、夕暮れが覆い被さる様に赤く照らしていた。
 コスモス野原に差し掛かる頃には日が暮れかかっていて、小道を抜けると薄暗く建ち並んだ家には既に明かりが灯り始めていた。

 沢山の家並みの中から『チュー太郎』宅を探し回った。
 夜の配達も初めての上に、月明かりも無いので目を凝らして一軒一軒バイクを停めては名前を確認して回る。
 
 『チュー太郎』と一軒の入り口に名前を見つけた。
 ネズミはホッとしたのも束の間、すぐに一瞬で緊張感に包まれるのだった。
 深呼吸をして箱をバイクから下ろすと明かりの灯った家のドアを力強くノックした。

 コン、コンッ、、 !

 「夜分にすみません。」
 「キモチハート工場ですが、、。」

 声量を落としてはいるがハッキリ聞こえるように新米ネズミはドア越しに告げた。

 返答はなく、ドアの前でしばらく待っていると

 ガチャリ、、、とドアが少しだけ開いて
 
 「、、、はい、どなた?」

 戸の隙間からまだ若い男性のネズミが顔を覗かせた。

 「、、、、チュー太郎、さん、ですか?」
 新米ネズミは心臓が破裂しそうなのを悟られまいとなるべく平静を努めて話した。

 「はい、そうですけど、、。」

 チュー太郎らしきそのネズミは、明らかに不審がってドアから体を出さずにこちらの様子を伺っている。

 「あの、、キモチハート工場のものですが、、」
 「あの、、配達が遅れてしまいまして、、」
 「申し訳ありません、、!!」

 荷物を持ったままネズミは思い切り、お辞儀をした。

 「はぁ、、、荷物?」
 「誰から、ですか?」

 「え、えぇと、、!」
 「ヒマワリ畑の、、えっと、夕日ヶ丘の、、」
 「チュ、、チュー子様からです!」

 チュー太郎は新米ネズミのその言葉を聞いた途端に顔をカッと赤らめ、一瞬怒りの表情を見せたかと思うとすぐにすぅっと冷たい表情になり

 「帰ってくれ。」と言い放った。

 「え???」

 驚きで新米ネズミが動けずにいると、

 「荷物を持って、今すぐ帰ってくれ!」

 と今度は強い口調で返された。


 バタン!!

 ドアが強く閉まり、新米ネズミは箱を持ったままで家の前に立ち尽くしてしまった。

 しばらく呆然としていたがそのうち我に返り、まだ動揺しながらもとりあえず荷物を工場に一度持ち帰る事にしたのだった。







 

 
 

 
 
 

 
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