ありがとう工場

天仕事屋(てしごとや)

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01 キモチハート工場

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 がたがた…ぴー……ぷるん!
 工場のベルトコンベアーにハートが等間隔で乗っかって流れていく。
 きっちりと作業服に作業帽を被ったネズミ達がハートを箱に入れて丁寧に梱包していく。
 がたがた…ぴー……ぷるん!
 流れてきた言葉のデータをハートに入れて、温かい気体と液体を詰めてぷるんとホカホカとした質感になれば完成のようだ。

 『キモチハート工場』建物にでかでかと会社の名前が刻まれている。
 箱詰めされたハートはすぐにスタンバイしていたバイクの荷台に1つずつ乗せられ、届け先を確認すると急いで運転手のネズミが届け先へ向けて、次々にバイクのエンジンをかけて出発していく。
 
ーーーーーーーーー

 大きな洋館の、大きな門の前にバイクを付けるものがあった。

 エンジンをかけたままでスタンドを立て、バイクを停車すると、温かくなったダンボール箱を抱えて大きな門の呼び鈴を押す。

 ピンポーン…
 「キモチハート工場でっす。」新米ネズミの彼は声が少しうわずってしまったので、1人そわそわしながら緊張した面持ちで、返答を待った。

 『はーい、ただいま開けますね。』と女性の声がしてすぐに

 キー……

 と門が開いた。
 新米ネズミが門の中に入るとすぐに家のドアが開いた。

 そこには中年の優しそうな奥さん風のネズミが出てきて軽く会釈をすると新米ネズミの持っている箱に目をやる。

 「お届け物です。」と新米ネズミ。
 奥さんネズミが少しの間、不思議そうな顔をして
 「どなたからなのかしら?」と訊ねた。

 新米ネズミはしまった!という顔をして慌てて伝票に目を通すと「ちゅ、チュー吉さんからです!」
と伝えた。
 奥さんネズミは「あぁ」と笑顔になって両手を差し出した。

 そこへ新米ネズミは持っていた箱を渡した。途端に箱は ポンッ と音をたてて開き、中から温かいハートが浮かび上がった。
 
 ハートには何か文字が書いてある。
 「贈り物を、ありがとうございます。」
 奥さんネズミがそれを読むと、ハートは箱ごと温かい空気を残してゆっくりと消えていった。

 奥さんネズミは「ありがとう、ご苦労様でした。」とお礼を言って頭を下げる。
 新米ネズミも出れながら一緒に頭を下げた。

 ドアが閉められると、新米ネズミは少し誇らしげに帽子のつばを触るともう一度ペコリとお辞儀をして門を後にした。

 バイクの空っぽになった荷台を見てから、工場へとエンジンをかけてまたバイクを走らせるのであった。



 
 


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