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丘の上のじゃが次郎

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 ここは丘の上のじゃが芋畑です。

 畑仕事を終えたじゃが次郎は今日も人が生活している村を眺めていました。

 はぁ~、いいなぁ。

 村はいつも賑やかそうだ。

 村からはいつも人の声や楽しげな音楽が聞こえてきたり、いい匂いがしてきます。

 それに引き換えこの丘の上では毎日同じ土を食べ、変わらない仲間と話して時間を過ごしたり、運動してみたり毎日がおんなじように過ぎていきます。
 子供達もおおきくなったし、自分の体にはしっかりと実がついて食べられ頃なのに誰に食べられる事もなく一生を終えるのかと少し寂しく思っていました。

 じゃが次郎が生まれる前はまだ人がここのじゃが芋を収穫しに来ていた頃があったそうです。

 けれど昔のじゃが芋達は食べられる事がだんだんと嫌になってきて、もっと長生きがしたいと言い出しました。
 それからは人が来ても追い払うようになり、そのうちにここのじゃが芋は美味しくないと悪い評判がたち、今では誰一人この丘には寄り付かなくなってしまったそうです。

 ここのじゃが芋達は年を取ったらいつの間にか森に入り、そのまま一生を終えるのだと聞きます。

 
 じゃが次郎はあーぁ!と言いながら丘の草の上に横になろうとしました。

 その時、

 ゴロッ

 ゴロリン ゴロリン 

 ゴロゴロゴロ

 態勢を崩して転がったじゃが次郎は丘をそのまま転がり落ちていきます。

 しまった!、、と、止まらない~!

 長老には村には行かないようにと言われているのに~、どうしよう~!

 一生懸命に止まろうとするのですが、じゃが次郎の体は勢いを増すばかり。

 どんどん村めがけて転がり落ちていきます。

 ゴロゴロゴロン ゴロゴロゴロゴロ

 村まで転がり続けて、やっと平らなところまで来るとじゃが次郎はやっと止まる事ができました。


 アイ、タタタタ、、、うわぁ~、、、!!

 そこにあったのは、人々の賑わうお店の並んだ通りでした。

 じゃが次郎は嬉しくなって夢中で村中を転がり回りました。

 色とりどりのお店に鮮やかな野菜やお肉やお魚が並べられ、パン屋から漂ってくるいい香りや、楽しげな音楽にのって人々が外で食事をしていたりして通行人もみんな笑顔なので、じゃが次郎は転がっているだけでもなんだか幸せな気持ちになってきます。

 レストランの窓を覗くと、そこには女の子が美味しそうに料理をほうばってニッコリと幸せそうに笑っていました。

 その時、じゃが次郎はなんて素晴らしい世界があるんだろうかと涙をこぼしました。


 そして村を出たじゃが次郎は急いで丘を飛び上がり、奥さんや子供や仲間たちや長老に村の様子を伝えました。
 
 けれど長老はその話を聞き終わらないうちに、

 バカも~~~~~~~~~~ん!!!!

 あれだけ村には近寄るなと言っただろう!

 と大激怒。

 けれどじゃが次郎は言い返します。

 でも!あんなに人々が幸せそうに野菜や肉を食べているんです。
 今のこの場所には生きがいもなく、笑顔さえもないじゃあありませんか!
 昔は私達を求めてくる人々もいたのでしょう?
 じゃあ、今は私達は何のためにいるのですか!

 じゃが次郎は涙をポロポロと流しながら長老に訴えました。

 すると長老は口ごもって、

 わ、わしは、、その、長老として、決まりを守らんといかんのであって、、、

 ともごもご言い出しました。


 ドンドンドン!!!!

 その時、扉を激しく叩く音が屋敷中に響きます。

 扉を開けてみるとそこには丘中のじゃが芋たちが勢ぞろいで屋敷に詰めかけているのでした。
 みんなじゃが次郎の家族や仲間から話を聞いて押し寄せてきたのです。

 俺達も人に食べてもらいたい!

 ここでしぼんでいくより、折角美味しく育ったんだから食べてもらって喜ばれたい!

 何のために生きてるんだ!

 丘を開放しろ~!!

 そうだそうだ!と集まった数の凄い事凄い事。

 今にも丘からこぼれ落ちんばかりに食べられ盛りのじゃが芋達が屋敷の周りに詰めよって来ました。

 なんだなんだと屋敷の奥から長老達が数名出てきましたが、そんな事はお構いなしにどんどん屋敷の中へと育ったじゃが芋達がなだれ込んでいきます。

 あれよあれよという間に屋敷がみるみるぱんぱんにじゃが芋達で膨れ上がり、

 ぎゅぅぅぅぅ、、、、、

 ギシギシギシ、、ギシギシィ、、、、

 と屋敷が苦しそうな音を立てて、

 次の瞬間、

 ぱぁーーーーーーーーーーっん!!!!

 と一気に屋敷の壁が弾けて、中にいたじゃが芋達が全て、四方八方へと飛び散ってしまいました。



 あるじゃが芋は村めがけて飛んで行き、レストランの中に転がり、厨房へと辿り着きました。
 それを拾ったコックは
 
 おやおや、これは美味しそうだ。

 と言いながら、皮を剥いてコロッケにしました。

 
 同じく村に飛んできていたじゃが芋はステーキ屋さんの中に転がりました。
 店員が拾って店長に渡すと、

 そうだ、ちょうど美味しい付け合せが欲しかったんだよ。

 と言って、マッシュポテトを作りました。

 
 あるじゃが芋は村の民家に転がって、その家のお母さんに拾われました。

 まぁ、美味しそう!

 お母さんはそういって皮を剥いたじゃが芋を蒸して潰して、庭で取れた野菜と混ぜてポテトサラダを作りました。


 あるじゃが芋は村外れの一軒家に転がり、少年に拾われました。その家のおじいさんがそれを見て微笑んで、

 おぉ、これは見事じゃな。

 と言い、じゃが芋をよく洗って皮ごとオーブンに入れ、バターを乗せてじゃがバターにしてくれました。


 それぞれで料理されたじゃが芋を口にした人々はそのじゃが芋のあまりの美味しさに目を丸くしました。

 すぐに人々の間で丘の上のじゃが芋の事が評判となり、村の代表者が少しでも分けて欲しいと丘に上がって来るようになりました。

 丘の上の長老達もみんなで話し合い、人々にもたくさん食べてもらうようにしました。


 そのじゃが芋を食べた人々は本当に誰もが幸せな顔になり、ちょくちょく村に降りてそれを見に行くじゃが芋の子供達は、ニコニコしながら丘に戻ってきては立派なじゃが芋になるために、仕事を手伝ったり、一生懸命に働くようになったということです。

  




              おしまいじゃが~





 

 



 
 
 
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