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#01 春の訪れ

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 冬の間、くまの親子は森の奥深くの大きな穴でぐっすりと眠っていました。

 そのうちに冬が終わり、積もっていた深い雪も少しずつ少しづつ、溶けていきました。

 太陽で地面が少しずつあたたかくなり、植物たちも目を覚まし、花のつぼみもゆっくりと開いて春の香りがそこら中にただよいはじめました。

 森の奥深く、穴の中で眠っていたくまのおかあさんは、春の香りでゆっくりと目を覚ましました。

 枯れ草のベッドからのっそりのそりと起き出して、外の様子をながめます。

 「おや、もうすっかりおそとはあったかくなったわよ。」

 「ほらほら、ぼうやも起きてみてごらん。たくさんの花が咲いているわ。」

 そう言ってくまのおかあさんは外に出ると、花の香りをクンクンと嬉しそうにかいで春の訪れを楽しんでいます。 


 けれどもこぐまは、穴の中の寝床からいっこうに出てこようとはしません。

 「ぼうや、どうしたんだい?」
 と、くまのおかあさんはたずねます。

 すると穴の奥から小さな声がします。
 「うーん、僕はまだここでいいよ。」

 「あらあら、お腹が空いたのかい?」
 おかあさんは聞きました。

 「ううん。ちがうよ。」
 ベッドにはまだ少しの木の実も残っています。


 「じゃあ、いったいどうして外に出てこないんだぃ?」
 おかあさんは聞きました。

 「ううん、、何だか外には出たくないんだよ。」

 そう言ったっきり、こぐまはだまってしまいました。


 くまのおかあさんは仕方なく、森に木の実や食べ物を取りに出かけていきました。

 
 少しすると、くまのおかあさんが、木の実をたくさんとってこぐまの元へ戻ってきました。

 「ぼうや、まだおそとに出ないのかい?」

 「うん、だってここでも充分、遊べるし、
 外に出なくたって困らないし、
 食べものだってお母さんが運んでくれるから。」
 そう言ってこぐまは穴から出て来ようとはしません。

 そうこうしているうちに、周りはどんどんあたたかくなり、花や木の実のいい香りでいっぱいになりました。

 「ねぇ、ぼうや、
 お外はこんなにも温かいわよ。花や木の実だってこんなにも沢山あるよ。お外に出ておいで。」

 くまのお母さんがそう言うと、こぐまは穴からちらりと外を見て、
 「僕はいいよ。お外よりも穴の中の方が落ち着くから。」

 そう言うとまたくるりと外に背を向けて、穴の奥へと引っ込んでいくのでした。

 

    
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