中年男が女性の井戸端会議の健康ネタを実践していく話☆

天仕事屋(てしごとや)

文字の大きさ
上 下
1 / 19
第一章 柔軟な身体

第一話 コマネチ知ってる?

しおりを挟む
 「コマネチ」を知っているだろうか?

 元々はルーマニアの体操選手の名前であるが、ビートたけしが昭和に流行らせた一発ギャグである。

 体操選手のレオタードの股のV字の形を両手で示し、「コマネチっ!」と言いながら両膝を上部に勢い良く引く。

 この時の指先の角度は35度と言われているらしい。

※詳しく知りたい方は動画で検索して見てみると良いだろう。


 何故突然このコマネチの話が出たかというと、一部のご家庭ではこれが一発で体を柔らかくする動作として頻繁に登場しているらしい、、という謎に満ちた事実を耳にしたからである。

 私のコマネチへの認識は芸能人の有名な過去のギャグとしてのものでしか無かった。
なので、にわかに信じ難い話だが一部始終をお話するので少しだけお付き合い願いたいのである。

____________

 私が仕事の出張修理を行うために、あるお宅へお邪魔した時の話だ。

 本日はDVDデッキの修理と接続である。

 家主は三十代後半の女性で、この時はママ友が数人遊びに来ていた。
リビングに通され、私はデッキ修理に伴い次第に空気となっていった。

 キッチンの大きなテーブルではすっかり健康ネタが出来上がっている。

 私はいつものように空気をまとっては、しっかりと聞き耳をたてていた。

「うちの子、空手やってても全然上達しなくて~。」

「でもすごーく練習してるよね。」

「うんー、体が硬いのよね。
 前屈も床に届かないし、足も上がらないから全然点決められなくって~、、」

「えー、じゃあ
コマネチ知ってる?」


 ?、、、?
私は聞き間違いかと耳を疑った。

「え?あの、
たけしがやってたやつ?」

「そうそう、ギャグのコマネチ!」

 聞き間違いでは無かった。
あってた。でも、
いったい、ナンノカンケイガ、、。

 あまりの唐突さに自分の脳内コンピューターがパニックを起こしかけている。
そんな私の同様に容赦はなく話は降り注がれる。

「あれを全力でやると体柔らかくなるよ。」

 全力デヤルト体ヤワラカクナルヨ。
はて?
どういう意味やらさっぱり、、。

「なんかね、ここの股の筋肉がほぐれて血流が良くなったら体全体がほぐれるらしいのよね。」

「えー、ほんとぉ~?」

「ここに体の血液を流すポンプがあって~、それを~」
「相撲のね、シコ踏むみたいに
がに股で膝を曲げると
体の中の血液がダーッと流れるんだって~。」

 えー、うっそぉ、、、
コマネチは信じ難いが後半ちょっとまともな事を言っているぞ。
と思っているうちに修理のめどが
ある程度ついた。

「あのぉ、修理終わりました。」



 家に帰って風呂に入り、一杯やろうかと冷蔵庫に手を伸ばす。

 ふと昼間のコマネチの話を思い出す。
くだらない話だな、と思いながらも試してみたい衝動にかられてしまう。

 まずは自分の体の様子を伺うために小学校以来の前屈をしてみる。
硬い、、、踏ん張ってみても床に手が届かない。
 マイナス14センチぐらいなものかな。

 次は空手の真似事をしてみる。
壁の角に足を上げて上がった所に作業用テープを貼ってみると、自分では上げたつもりが腰の位置よりも上がっていない。

 想像はしていたが、これほど酷いとは、、、。



 ではいよいよコマネチだ。
 股の筋肉がほぐれるらしい「ここ」と呼ばれる場所(太ももの付け根)の線に合わせて手のひらを伸ばし斜め上にスライドさせ、
「コマネチっ」

夜中なので声は小さめにやってみる。

一体自分は何をやっているんだろうと思いながらも、主婦の井戸端会議のリスペクトゆえに体が実践してみることを止めようとしないのである。

 まてよ、、あの主婦は「全力で」と言っていた。
次は渾身の力を込めて開脚広めの

「コマネチっ!」

 自然に声量が上がってしまった。

 おっと、何回すればいいのか聞きそびれてしまっていた。

 本当は何十回かしなければいけないものかもしれない。

 けれどとりあえずは一回で駄目だったらこのネタはボツとしようではないか。


 さて、、
軽い気持ちで前屈をしてみる。
スゥ、、、ッ、、

 膝を曲げることなく指先が床に届く。
おや、?まさか。
たった一回ですよ??

 次は空手風の足上げの為にもう一度、

「コマネチっ!」

 以前より勇ましい。
空手の足上げもにわかに力が入る。

「ハッ。」

 掛け声も付けちゃったりなんかして、、、

 ハッと足を上げた瞬間
軽く腰を超えた位置につま先がかかる。

 おーーーーーーっ!!


 これは、、!!


 コマネチをこのような形でもう一度口にする日が来るなんて、、
そしてこの懐かしい一発ギャグが中年を夜中に1人感動させる日が来るとは誰が想像しただろうか。

 これは続けると柔軟な体というのもひょっとして、ひょっとすると手に入れられるかもしれないぞ!などと少しだけ胸が温まった夜であった。


 やはり主婦の健康ネタのリスペクトは、これからも続くのである。



●結果には個人差がありますので御了承願います。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

眠れる夜のお話

天仕事屋(てしごとや)
児童書・童話
子供たちが安心して聴ける 眠れるお話です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...