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第五章
過去のと遭遇2
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――――――。
暗い……。真っ暗だ。
何も見えない……。
「ここ、どこ?」
背後で扉が閉まったとたん、未令は暗闇に取り残された。
埃と湿気の混ざった倉庫の中のような匂い。
長い間陽の光を遮り続け、放置されてきたような淀んだ空気に満ちている。
水晶邸の、清らかな水が流れる澄んだ場所とは明らかに異なる場所だ。
はじめは何も見えなかったが、次第に暗闇に慣れてきた目に周囲の情景が映り始めた。
予想通り水晶邸の一室ではなかった。
天井近くまで作られた棚がいくつも並ぶ、本当に倉庫のような場所で、壺や本のようなものが所狭しとうず高く積まれているのが見える。
ここ、どこだろう……。
振り返った場所には紫檀の扉があるが、扉は倉庫の隅の一画に押しやられているような状態だ。
扉の表面を触るとざらりとした埃が手に付いた。
長い間放置され、埃も払われることなく置き去りにされた用無しの遺物。
そんな扱いだ。
「これは一旦また戻ってやり直すべきよね……」
さきほど日本へ戻った時の時間軸は狂っていた。また元の平安国へ戻れば正しい場所へと戻れるかと思っていたが、今度は平安国の方の時間軸もねじれてしまったのかもしれない。
明らかにこの紫檀の扉は使われなくなって久しいただのオブジェと化しているようだし、ここが水晶邸ではないことは明白だ。
未令が再び紫檀の扉に手をかけた時だ。
「―――誰だ!」
棚の奥から鋭い声が放たれた。
紫檀の扉に伸ばした手を下ろし、声のしたほうへと視線を向けると、棚の間から小さな瞳が二つこちらを見つめていた。
「ごめんなさい、勝手に入って。ここ君の家?」
この倉庫の持ち主である家の子供かと思った。
真っ暗な場所でかくれんぼでもして遊んでいたのだろうか。
薄暗くて身を隠すものも多いので、隠れるには最適な場所ではあるけれど……。
未令が謝ると、少年はちょっと驚いたように目を瞠り、そろそろと棚の陰から出てきた。
「おまえ、おかしなことを言う。俺がここの家の子であるわけがないだろう」
「そうなの? ここで遊んでるのかと思って。じゃあ君、勝手に入ったの? それなら早く出たほうがいいよ。家の人に見つかったら怒られちゃうよ」
「ふん。そういうおまえはどうなんだ」
「どうって……」
どうでもいいけど、なんだか偉そうな物言いの子供だ。
小学一年生くらいの年だろうか。
まっすぐに未令を見る眼差しが誰かに似ている。
そう思ってじっと見ていると、「あっ」と気が付いた。
「もしかして君、焔将?」
「な、なんだよ。俺のことやはり知っているのではないか」
名を言い当てられ、少年――焔将――は動揺を隠しきれずつんと顎を逸らせた。
「おまえもあいつらの仲間か? 大方おまえも術者なんだろう? いちいちやり方が汚いんだよ。不満があるならこそこそせず、正面切って挑んでくればいい」
「えっと、ちょっと待って。一体なんの話?」
「決まっているだろう。俺をここに閉じ込めた奴らのことだ。おまえもどうせ仲間なんだろう? 一人じゃあなんにもできない。無能な奴らのな。術者なんか使いやがって。自分から来いってんだよ」
話が全く見えないが、どうやらこの小さな焔将は何者かによってここに閉じ込められたらしい。
暗い……。真っ暗だ。
何も見えない……。
「ここ、どこ?」
背後で扉が閉まったとたん、未令は暗闇に取り残された。
埃と湿気の混ざった倉庫の中のような匂い。
長い間陽の光を遮り続け、放置されてきたような淀んだ空気に満ちている。
水晶邸の、清らかな水が流れる澄んだ場所とは明らかに異なる場所だ。
はじめは何も見えなかったが、次第に暗闇に慣れてきた目に周囲の情景が映り始めた。
予想通り水晶邸の一室ではなかった。
天井近くまで作られた棚がいくつも並ぶ、本当に倉庫のような場所で、壺や本のようなものが所狭しとうず高く積まれているのが見える。
ここ、どこだろう……。
振り返った場所には紫檀の扉があるが、扉は倉庫の隅の一画に押しやられているような状態だ。
扉の表面を触るとざらりとした埃が手に付いた。
長い間放置され、埃も払われることなく置き去りにされた用無しの遺物。
そんな扱いだ。
「これは一旦また戻ってやり直すべきよね……」
さきほど日本へ戻った時の時間軸は狂っていた。また元の平安国へ戻れば正しい場所へと戻れるかと思っていたが、今度は平安国の方の時間軸もねじれてしまったのかもしれない。
明らかにこの紫檀の扉は使われなくなって久しいただのオブジェと化しているようだし、ここが水晶邸ではないことは明白だ。
未令が再び紫檀の扉に手をかけた時だ。
「―――誰だ!」
棚の奥から鋭い声が放たれた。
紫檀の扉に伸ばした手を下ろし、声のしたほうへと視線を向けると、棚の間から小さな瞳が二つこちらを見つめていた。
「ごめんなさい、勝手に入って。ここ君の家?」
この倉庫の持ち主である家の子供かと思った。
真っ暗な場所でかくれんぼでもして遊んでいたのだろうか。
薄暗くて身を隠すものも多いので、隠れるには最適な場所ではあるけれど……。
未令が謝ると、少年はちょっと驚いたように目を瞠り、そろそろと棚の陰から出てきた。
「おまえ、おかしなことを言う。俺がここの家の子であるわけがないだろう」
「そうなの? ここで遊んでるのかと思って。じゃあ君、勝手に入ったの? それなら早く出たほうがいいよ。家の人に見つかったら怒られちゃうよ」
「ふん。そういうおまえはどうなんだ」
「どうって……」
どうでもいいけど、なんだか偉そうな物言いの子供だ。
小学一年生くらいの年だろうか。
まっすぐに未令を見る眼差しが誰かに似ている。
そう思ってじっと見ていると、「あっ」と気が付いた。
「もしかして君、焔将?」
「な、なんだよ。俺のことやはり知っているのではないか」
名を言い当てられ、少年――焔将――は動揺を隠しきれずつんと顎を逸らせた。
「おまえもあいつらの仲間か? 大方おまえも術者なんだろう? いちいちやり方が汚いんだよ。不満があるならこそこそせず、正面切って挑んでくればいい」
「えっと、ちょっと待って。一体なんの話?」
「決まっているだろう。俺をここに閉じ込めた奴らのことだ。おまえもどうせ仲間なんだろう? 一人じゃあなんにもできない。無能な奴らのな。術者なんか使いやがって。自分から来いってんだよ」
話が全く見えないが、どうやらこの小さな焔将は何者かによってここに閉じ込められたらしい。
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