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第五章

祖父頼み

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 祖父と未令の父を助ける計画の話し合いは卓水を中心にして進んでいき、康夜は終始傍らで聞いているだけだった。

 涼己が術者だったという点も驚きだったが、卓水の計画を聞いていると、まずは何の義理もない涼己が危険を冒してまでなぜ?という疑問が浮かぶ。
 
 その後も単純すぎる正面突破の計画に、頭には次々に疑問が浮かぶ。
 涼己だのみの、祖父頼み。
 肝心の卓水は手伝ってくれないと言うし、涼己も祖父を助けたあとは戦線離脱するという。

 涼己は、祖父たちと合流する地点を細かくいくつか指定した。人の目などがあり上手く行かない場合を想定し、何箇所かの場所を決めた。
 その打ち合わせ自体はよかったのだが、やはり涼己が祖父時有を助けたあとは離脱するという一点が、引っかかって仕方がない。
 
 涼己は観月の宴での剣舞が控えており、そこに穴をあけることはできない。国をあげての行事に穴をあけ、その後時有、有明、康夜が日本へ逃げたとなると涼己も祥文帝に疑われる。時間稼ぎのためにも涼己が剣舞を抜けることはできない。
 それはわかるのだが。

 涼己が抜けたあと、皆が口を揃えて言う最強であるらしい祖父の力をもってすれば、その後の脱出は容易いとの前提で話は進むが、あの緑香や奈生金、それに多数の術者が行く手を阻むなか、それら全ての相手をするのは祖父ひとり。

 あまりにも無謀な計画なのではないだろうか。
 それに……。

 ちらりと焔将を見る。祥文帝の実弟のいる場所でこんな策謀をめぐらせていていいのだろうか。

 この計画が成功すれば、最強と言われる祖父、未令の父、それに康夜と3人もの術者を失うことになる。
 それに、どうやらとても気に入ったらしい未令をも失うことになるのだ。

 焔将は一体何がしたいのだろうか……。

 視線に気がついた焔将は康夜の視線を受け、誰にもわからないよう意味ありげな視線を送って寄越す。

 かと思えば脇息にもたれかかったまま目を瞑る。
 我関せずの姿勢だ。

 むしろ、水の血族の演舞を考えるので手いっぱいで、今はこれ以上他のことに気をまわしたくないと、一通りの話を終え腰を上げた卓水の態度こそ、最もだと思う。

 祥文帝の側を離れられないからとかなんとか言っているが、要は上手く行くかわからないことに手を出して失敗するくらいなら始めから関わらない方がいい。
 卓水のあれは、ただの言い訳だ。

 けれど康夜からすれば、涼己の親切の方が理解しがたい。

 祥文帝に見つかれば例え皇族といえどどうなるかわからないのに、そんな危険を冒してまで祖父と未令の父を助けるメリットなんてないはずだ。

 涼己は康夜のことも助けてくれたが、今回の危険は度を越している。何か裏があるのではと勘繰りたくなる。    








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