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第四章
四日後
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焔将が歩くたび生じる規則正しい揺れに、未令はいつの間にか眠ってしまったようだ。
目が覚めると自分を上から覗き込む焔将の顔があった。
「……あ、れ?」
身を起こすと掛けられていた焔将の上衣と思われる衣が滑り落ちた。きょろきょろと辺りを見回すと、「私の屋敷だ」と焔将。
どうやらあぐらをかいた焔将の膝枕で眠っていたようだ。
いびきを搔いたりよだれとか、垂らしてなかったかな……。
思わず口元を拭うと、その手を焔将に掴まれた。
「安心しろ。気を失ったのかと思うほど静かに眠っていたぞ」
こちらの懸念はお見通しだったようで、にやりと口端をあげる。
「そ、それはどうも……」
焔将に掴まれた手を取り返し、いそいそと赤いお仕着せの衣を整えた。
別に大口開けて寝ているところを見られてもいいんだけどね……。
何のきまぐれか、成り行きで焔将の側妃となったまでだ。
いつでも解消すればいいし、康夜を連れて日本へ還るつもりなのだ。
この関係がずっと続くわけではない。
それよりそうだ。
今は康夜のことだ。
「あの、康夜のことなんだけど―――」
「―――紫檀の扉が壊されることが正式に決まったぞ」
「えっ……?」
「扉が壊されることが決まった。四日後だ」
「四日後? どうしてそんな急に……」
卓水から扉が壊される可能性については聞いていたが、まだ先の話だとどこかで思っていた。
それがいきなり四日後だなんて……。
「なんとか、ならないのかな…。あと四日で―――」
康夜を連れ帰り、捕らわれている祖父と父を助ける……。
康夜を連れ還ることはできるかもしれない。でも―――。
祖父と父をあの牢から助ける時間はあるのだろうか。
「なんともならんだろうな。兄上の決めたことだ。よほどのことがなければ覆ることはない。三日後に行われる観月の宴が終わった後、火の血族によって燃やされることが決められた」
「観月の宴?」
月を愛でる会みたいなものだろうか。焔将によると今はその準備に忙しく、宴が終わってから燃やされることになったらしい。観月と言われると未令にはお月見の感覚しかない。その準備が忙しいと言われてもあまり想像がつかない。
「平安国での観月の宴は、年に一度の国をあげての大きな行事だ。国中の国司や郡司が宮殿に集まって、木火土金水の血族はそれぞれ演舞を披露する。今年は涼己も剣舞を披露することが決まっている。衣装を作るのにも忙しいし、それぞれの演舞の練習もある。加えて席の手配や、とにかくしなければならないことが溢れている」
「―――そうそ、かくいう僕も、水の血族を率いる長として披露する演舞のことで頭が痛いんだよ」
焔将の言葉を引き取る形で卓水が部屋へ入ってきた。
「観月の宴はほんとに大変なんだよ、血族として下手な演舞をすれば祥文帝の怒りに触れないとも限らない。失敗は許されない行事の一つなんだよ」
と卓水は入ってくるなり本当に頭を抱える。
未令の思うお月見とはずいぶんと趣の異なるものであるらしい。
卓水の後ろからは涼己も入って来て、さらにその後ろには康夜の姿があった。
目が覚めると自分を上から覗き込む焔将の顔があった。
「……あ、れ?」
身を起こすと掛けられていた焔将の上衣と思われる衣が滑り落ちた。きょろきょろと辺りを見回すと、「私の屋敷だ」と焔将。
どうやらあぐらをかいた焔将の膝枕で眠っていたようだ。
いびきを搔いたりよだれとか、垂らしてなかったかな……。
思わず口元を拭うと、その手を焔将に掴まれた。
「安心しろ。気を失ったのかと思うほど静かに眠っていたぞ」
こちらの懸念はお見通しだったようで、にやりと口端をあげる。
「そ、それはどうも……」
焔将に掴まれた手を取り返し、いそいそと赤いお仕着せの衣を整えた。
別に大口開けて寝ているところを見られてもいいんだけどね……。
何のきまぐれか、成り行きで焔将の側妃となったまでだ。
いつでも解消すればいいし、康夜を連れて日本へ還るつもりなのだ。
この関係がずっと続くわけではない。
それよりそうだ。
今は康夜のことだ。
「あの、康夜のことなんだけど―――」
「―――紫檀の扉が壊されることが正式に決まったぞ」
「えっ……?」
「扉が壊されることが決まった。四日後だ」
「四日後? どうしてそんな急に……」
卓水から扉が壊される可能性については聞いていたが、まだ先の話だとどこかで思っていた。
それがいきなり四日後だなんて……。
「なんとか、ならないのかな…。あと四日で―――」
康夜を連れ帰り、捕らわれている祖父と父を助ける……。
康夜を連れ還ることはできるかもしれない。でも―――。
祖父と父をあの牢から助ける時間はあるのだろうか。
「なんともならんだろうな。兄上の決めたことだ。よほどのことがなければ覆ることはない。三日後に行われる観月の宴が終わった後、火の血族によって燃やされることが決められた」
「観月の宴?」
月を愛でる会みたいなものだろうか。焔将によると今はその準備に忙しく、宴が終わってから燃やされることになったらしい。観月と言われると未令にはお月見の感覚しかない。その準備が忙しいと言われてもあまり想像がつかない。
「平安国での観月の宴は、年に一度の国をあげての大きな行事だ。国中の国司や郡司が宮殿に集まって、木火土金水の血族はそれぞれ演舞を披露する。今年は涼己も剣舞を披露することが決まっている。衣装を作るのにも忙しいし、それぞれの演舞の練習もある。加えて席の手配や、とにかくしなければならないことが溢れている」
「―――そうそ、かくいう僕も、水の血族を率いる長として披露する演舞のことで頭が痛いんだよ」
焔将の言葉を引き取る形で卓水が部屋へ入ってきた。
「観月の宴はほんとに大変なんだよ、血族として下手な演舞をすれば祥文帝の怒りに触れないとも限らない。失敗は許されない行事の一つなんだよ」
と卓水は入ってくるなり本当に頭を抱える。
未令の思うお月見とはずいぶんと趣の異なるものであるらしい。
卓水の後ろからは涼己も入って来て、さらにその後ろには康夜の姿があった。
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