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第四章

下働き

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 奈生金に強引に連れられ再び宮殿に戻った未令は、奈生金に呼び出されて待機していたと思われる火の血族にそのまま引き渡された。

「こちらに着替えるように」

 その場に五人いた火の血族の女性たちと同じ赤い木綿の衣を手渡される。焔将が用意してくれた衣とは明らかに生地も異なり、飾りのない質素なものだ。
 だからどうということもないのだが、制服に着替えなおしていた未令はブラウスのボタンを外そうとして、手渡された衣を前に途方に暮れた。

「あの……」

 こちらへ来てすでに二度着替えたが、いずれも女官が着替えさせてくれたので着用の仕方がわからない。
 どうしたらいいのかと五人いた女性たちを順に見ると、その中で一番年長と思われる女性が進み出た。

「かしなさい。今日のところは着替えさせてあげましょう。ちゃんと覚えておくように」

 そう言って手順を説明しながら着替えさせてくれた。
 
「衣の着用は下働きの基本です。これからは術者のお着替えを手伝う機会もあるでしょう。折に触れて練習をしていくように」
「はい、あの……。下働きですか…」
「ええ、そうです。だってあなた血族なのでしょう? そして力はない」

 そういえば還る間際、卓水が力のない血族は下働きをさせられると言っていた。
 術者と力のない血族との間には厳しい序列があるのだろう。
 てきぱきと未令に衣を着つけた女性は、「では参りましょう」と先頭に立って歩き出したが、未令はその背中に声をかけた。

「あの、」
「何です?」
「康夜はこれから向かう火の血族の屋敷にいるんですか?」

 平安国へ戻ったそもそもの目的はそこにある。序列は大事なのだろうが、今の未令にとっては康夜を連れ戻すことが至上命題だ。康夜のいない屋敷へ向かっても意味がない。

「いえ、今はこの宮殿におられます。今日はお勤めの当番に当たられているはずですので」
「え、そうなんですか?」

 それならわざわざ火の屋敷へ出向く必要はない。

「康夜の居場所わかりますか?」
「康夜さまです。未令。例え従姉であろうと術者の康夜さまと未令とは違うのです。呼び捨てにするなど許されません。回廊の明かりを灯して回られているので、宮殿内の回廊のどこかにはおられるでしょう」

 それなら話は早い。

「わたし、ちょっと探してきます。康夜にどうしても会う必要があるんです」
「待ちなさい。勝手は許しませんよ」
「すぐに戻ります。康夜に会えたら戻るので、ここでちょっと待っててください」
「あっ! 待ちなさい!」

 女性の制止の声を振り切って未令は部屋を飛び出した。
 
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