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第三章

優位に立ちたい

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 火の屋敷へ着き、時有のことを聞き終えるとすぐ、自分の宮に落ち着く間もなく康夜は駆り出された。

 何かと思えば棟と棟の間にある広場のようなひらけた場所に、赤い髪の術者たちが居並んでいた。
 そこで康夜は血族として正式に迎え入れられ、修練が始まった。

 帝警護や国境の守りを固める際、必要となる力の遣い方、隊列の組み方、武術も含まれている。
 いきなりきつい体育会系の練習に放り込まれたような感覚だ。
 息はあがるし、力の遣い方もまだちゃんとわかっていないのにまるで容赦がない。
 祥文帝との謁見で負った傷が痛むのに、誰も配慮してくれない。
 実戦では多少の怪我でも関係ないということらしい。
 これを毎日繰り返し修練するのが術者としての基本だと言う。

 ただ驚くほど身体が軽い。
 身体を起こす動作、一歩を踏み出す動作。
 そんなほんのささいな動き一つ一つが今までの感覚と違う。
 全身に力が満ちているようだ。
 
 他の術者たちを見ても、常ではありえない跳躍を見せたり、素早い動きで相手を攪乱している。
 これも術者としての能力の一つのようだ。

 幼い頃の夢想が幻ではなく現実だと知り、戸惑いもあったが嬉しくもあり、でも同時に未令のことも考えずにはいられなかった。

 未令はもうここへ来たのだろうか。
 奈生金は未令もここへ連れてくると言っていた。
 有明のことを知れば、必ず未令はここへ来るだろう。無謀にも助けようとするかもしれない。

 あの子は、力に目覚めるのだろうか……。

 その点が最も気になる。
 もしこのまま日本へ戻れないのなら、この世界では未令よりも優位に立ちたい。
 あの子が力に目覚めなければいい……。
 そうすればあの子はわたしより劣る木綿のくすんだ緋色の衣を羽織り、他の血族たちと雑魚寝をし、術者に傅き、冷遇される……。
 きっと自分の宮を持つ康夜のことを羨むに違いない。
 嫉妬を抱くことがどれほど惨めなことか。あの子も思い知ればいいのだ。







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