皇弟が冷淡って本当ですか⁉ どうやらわたしにだけ激甘のようです

流空サキ

文字の大きさ
上 下
23 / 70
第三章

必ず連れ帰る

しおりを挟む
 複雑な思いを抱えながらも再び紫檀の扉を通り、家に帰り着いた。

 太陽はまだ東の空にある。朝方なのに家には叔父の康之がいて未令は驚いたが、今日は土曜日で会社は休みだという。
 未令が平安国へ向かったのは水曜日の夕方だった。すでにこちらでは二日以上時間が過ぎていたことになる。

 叔母の潤子は買い物に出ており、三十分ほど前に家を出たところだと康之はいい、

「平安国へ行ってきたんだね」と聞くので未令は頷いた。

「叔父さん、知ってたんだね」
「ああ。でも行ったことはないんだよ。行く方法もわからない。兄は平安国にいるのだろうとは思っていたけれど……」

 十年前、夜中に突然兄が家に押しかけてきてしばらく未令を預かってくれと言われた。
 兄は蒼白な顔で、両親を連れ去ったあの白銀の男が三十年前と変らぬ姿で再び現れたと。
 奈生金と名乗ったそうだ。

「兄がそう言いだす前に、実は私の周りでも不思議なことがあってね。火災に巻き込まれたり、車にひかれそうになったり。寸前のところで運よく助けられたが、身の危険を感じることが何度もあったんだ」
 
 けれどそれも兄が失踪してからはぱたりとなくなった。
 この時に力がないと判断されたのだろうと未令は思った。
 
「今にして思えばあの一連の出来事には何か関係があったのだろうね。実は康夜が、一週間前平安国へ向かったんだ……。また奈生金が現れたらしい。私はもちろん反対した。兄は行ったきり帰ってこなかったのだしね。でも、勝手に家を抜け出して置手紙一つで行ってしまったんだよ。もう、どうしていいのか……」

 康之は悲痛な声でそう言うと顔を伏せた。

「潤子にも説明したが、到底信じてもらえるような話ではない。康夜は誘拐されたんだ、警察に届け出ると言うからなんとか止めているんだが……。未令、あちらで康夜と会えたかい?」
「……ごめんなさい。康夜とは会ってないの。父には会えたけれど……」
「……そうか。……なぁ未令、その平安国への行き方を私にも教えてくれないか? 私の娘を、……康夜を取り戻したいんだ」
「それは……」

 紫檀の扉を通れば、意識と身体が分離し、二度と元に戻れない可能性があると卓水は言っていた。
 術者でなければその可能性は高く、未令は例外的に運がよかっただけだ。
 それでも叔父なら康夜のため、無理にでも扉をくぐろうとするだろう。それならば―――。
 
「―――わたしがもう一度行ってくる」

 康夜は近いうちに向こうへ永久に留まらねばならなくなると卓水が言っていた。
 そうなる前に、もう一度自分が行って康夜を連れ戻すしかない。

「わたしが行くから、もう一度行って必ず康夜を連れ戻してくる」
「同じ事を約束して十年経っても還ってこない奴がいるんだ……」
「それは……」

 未令には何もいい返せない。返せないけれど絶対に、と康之に約束する。

「絶対に康夜だけでも無事に日本に連れ還るから。だから待ってて。この十年間に報いれるよう、必ず助けるから」

 その言葉に康之はすまないと頭をうな垂れた。

「私は未令にとんでもないことをさせようとしているのかもしれない。一緒に暮らした十年を盾に未令を死地に向かわせるなんて、最低だな……」
「違うよおじさん。康夜を一人で平安国へ残してきたらきっとわたしも後悔するから」

 だから待ってて。これで恩返しができるのなら、未令にとっても嬉しいことなのだ。
 康夜は有明のように牢に入れられているわけではない。
 康夜ひとりならなんとか祥文帝の目をかいくぐり、日本へ連れ還れるに違いない。
 今ならまだ間に合う。
 康夜一人だけでも日本へ還し、最悪自分が盾になったっていい。強行突破だ。
 未令は再び家を飛び出した。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

処理中です...