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第二章
時有幽閉の経緯
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が、これに異論を唱えたのが今の祥文帝だった。
先帝の嗣子にあった祥文帝は血族の者に多大な身分を与えることに反発し、晴澄を抱き込み先帝を廃位に追い込んだ。
帝をたぶらかしたとして時有の身分を剥奪。
同時に時有と恋仲だった鈴と婚約を結び、時有から鈴を奪おうとした。
時有はそんな鈴を連れ、安倍晴明の残滓を頼りに今まで誰も成しえなかった日本への道しるべを見つけ、晴明の残した紫檀の扉をつかって平安国から日本へと逃亡した。
紫檀の扉をつかって逃げたことは当初誰も気がつかなかった。
二人は忽然と姿を消し、行方をくらましたかのように人の目にはうつった。
痕跡も残さず逃げ失せた二人に、祥文帝の怒りは心頭に達した。
木の長、緑香、金の長、奈生金 水の長、卓水を呼びつけ、必ず時有と鈴を連れ戻せと厳命した。
方々へと時有、鈴をとらえる追討者が送り込まれ、関所の警備が強化され、国中をなめつくすように探索が行われた。
が、それらしき人物が通った形跡はどこにも見つからず、ならば都に潜んでいるのかと都中いたるところ、一軒一軒貴族の家はもちろん、商家の家まで一つ残らず調べ上げた。
それでも全く二人の行方は知れず、時有が出奔してから一年ほどたった頃。
紫檀の扉が保管されている晴澄邸において、晴明の時代から保管されている宝物の数々の虫干しが行われた。
そのとき、毎年この作業の監督を行っていた屋敷の家令が、用途もわからず放置されていた紫檀の扉が常とは違う場所へと移動されていることに気がついた。
「紫檀の扉が平安国と日本とを行き来するためのものだと、晴明の残した文書に記されていたそうだ。けれど紫檀の扉はすでにこの国では過去の遺物。日本との道は閉ざされていたようで、用をなさないものとして保管されていたんだ」
しかし奈生金らが紫檀の扉を開くと、閉ざされていたはずの日本への道が通じていることがわかった。
そこで、奈生金が数名の金の血族を引き連れ、紫檀の扉を通ったのだと有明は続ける。
「けれど、扉を通ると連れていた血族の者はことごとく意識を失い、ある者はそのまま意識が戻らなかった。意識の戻らなかった者は、みな血族ではあるが力のない者たちだったそうだ」
それ以来、力のない者はあの扉を利用することはないそうだ。
「一年ぶりに対した父の時有と母の鈴は少し老けたように奈生金は思ったみたいだよ。当然だよ。日本ではすでに十年の時が経っていたんだからね。けれどその時はまだ時間のからくりに奈生金は気がついていなかった。だから逃亡生活が二人をやつれさせたのだと思ったみたいだ」
時有と鈴はこの国では力を遣える者はおらず、ここで力によって抵抗することはできないといい、奈生金に従った。
以来、時有は捕らわれの身となり、鈴は晴澄の屋敷に幽閉されているそうだ。
「でもあるとき晴澄が娘の鈴の違いに気がついた。別れた当時の母は二十歳。なのに二十歳の娘には見えない。父も母も口を割らなかったそうだが日本へ頻繁に出入りしていた奈生金は時間の流れの違いに気がついた」
「だからお父さんたちが時有の息子だって気がついたんだね」
奈生金が時有の前に現れたとき、一緒にいた当時十歳の有明と六歳の康之を見ても息子だと思わなかったのも仕方がない。
わずか一年足らずでここまで子が大きく成長するはずがない。
けれど時間の流れが違うなら話は変わってくる。
祥文帝の命を受け、再び現れた奈生金に、有明は父のことを聞き、平安国に向かった。
「父が抵抗もせず奈生金に従い平安国へ戻ったのはたぶん私と康之の存在を隠すためだったんだよ」
でも結局それも露見し、有明は平安国に行くことになった。
「奈生金は祥文帝に忠実な男だよ。父に会わせてやると私を連れ出し、実際には父には会わせてもらえず、力を引き出すためにさんざんな目に遭っただけだ。あの男のいうことは信用ならない」
同じようにおびき出された未令としては身につまされる思いだ。
卓水だって信用していたら痛い目にあわされるかもしれない。
この国の人間は誰だって信用ならない。
足元を見られないようによほど気をつけて行動しろと有明は未令に忠告した。
先帝の嗣子にあった祥文帝は血族の者に多大な身分を与えることに反発し、晴澄を抱き込み先帝を廃位に追い込んだ。
帝をたぶらかしたとして時有の身分を剥奪。
同時に時有と恋仲だった鈴と婚約を結び、時有から鈴を奪おうとした。
時有はそんな鈴を連れ、安倍晴明の残滓を頼りに今まで誰も成しえなかった日本への道しるべを見つけ、晴明の残した紫檀の扉をつかって平安国から日本へと逃亡した。
紫檀の扉をつかって逃げたことは当初誰も気がつかなかった。
二人は忽然と姿を消し、行方をくらましたかのように人の目にはうつった。
痕跡も残さず逃げ失せた二人に、祥文帝の怒りは心頭に達した。
木の長、緑香、金の長、奈生金 水の長、卓水を呼びつけ、必ず時有と鈴を連れ戻せと厳命した。
方々へと時有、鈴をとらえる追討者が送り込まれ、関所の警備が強化され、国中をなめつくすように探索が行われた。
が、それらしき人物が通った形跡はどこにも見つからず、ならば都に潜んでいるのかと都中いたるところ、一軒一軒貴族の家はもちろん、商家の家まで一つ残らず調べ上げた。
それでも全く二人の行方は知れず、時有が出奔してから一年ほどたった頃。
紫檀の扉が保管されている晴澄邸において、晴明の時代から保管されている宝物の数々の虫干しが行われた。
そのとき、毎年この作業の監督を行っていた屋敷の家令が、用途もわからず放置されていた紫檀の扉が常とは違う場所へと移動されていることに気がついた。
「紫檀の扉が平安国と日本とを行き来するためのものだと、晴明の残した文書に記されていたそうだ。けれど紫檀の扉はすでにこの国では過去の遺物。日本との道は閉ざされていたようで、用をなさないものとして保管されていたんだ」
しかし奈生金らが紫檀の扉を開くと、閉ざされていたはずの日本への道が通じていることがわかった。
そこで、奈生金が数名の金の血族を引き連れ、紫檀の扉を通ったのだと有明は続ける。
「けれど、扉を通ると連れていた血族の者はことごとく意識を失い、ある者はそのまま意識が戻らなかった。意識の戻らなかった者は、みな血族ではあるが力のない者たちだったそうだ」
それ以来、力のない者はあの扉を利用することはないそうだ。
「一年ぶりに対した父の時有と母の鈴は少し老けたように奈生金は思ったみたいだよ。当然だよ。日本ではすでに十年の時が経っていたんだからね。けれどその時はまだ時間のからくりに奈生金は気がついていなかった。だから逃亡生活が二人をやつれさせたのだと思ったみたいだ」
時有と鈴はこの国では力を遣える者はおらず、ここで力によって抵抗することはできないといい、奈生金に従った。
以来、時有は捕らわれの身となり、鈴は晴澄の屋敷に幽閉されているそうだ。
「でもあるとき晴澄が娘の鈴の違いに気がついた。別れた当時の母は二十歳。なのに二十歳の娘には見えない。父も母も口を割らなかったそうだが日本へ頻繁に出入りしていた奈生金は時間の流れの違いに気がついた」
「だからお父さんたちが時有の息子だって気がついたんだね」
奈生金が時有の前に現れたとき、一緒にいた当時十歳の有明と六歳の康之を見ても息子だと思わなかったのも仕方がない。
わずか一年足らずでここまで子が大きく成長するはずがない。
けれど時間の流れが違うなら話は変わってくる。
祥文帝の命を受け、再び現れた奈生金に、有明は父のことを聞き、平安国に向かった。
「父が抵抗もせず奈生金に従い平安国へ戻ったのはたぶん私と康之の存在を隠すためだったんだよ」
でも結局それも露見し、有明は平安国に行くことになった。
「奈生金は祥文帝に忠実な男だよ。父に会わせてやると私を連れ出し、実際には父には会わせてもらえず、力を引き出すためにさんざんな目に遭っただけだ。あの男のいうことは信用ならない」
同じようにおびき出された未令としては身につまされる思いだ。
卓水だって信用していたら痛い目にあわされるかもしれない。
この国の人間は誰だって信用ならない。
足元を見られないようによほど気をつけて行動しろと有明は未令に忠告した。
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